ここ数日、芸能人の母親が生活保護を貰っているという話題で持ちきりだ。

生活保護費が3兆円を突破したとしてNHKでも特集が組まれるほど、受給者の増加は問題になっている。


これだけ税収が減っている時期に受給者増加が問題であることは間違いないだろう。しかし受給者増加は問題の「原因」なのか? そうではなく、あきらかに「結果」だ。因果を逆に捉えると、問題の本質を見誤る。受給者増加の原因は明らかで、不景気と高齢化だ。
いち芸人の母親の問題に青筋を立てて怒っている方々に一つ思い出して貰いたいことがいくつかある。ほんの数年前だが、2007年におにぎりが食べたいと書き残して餓死をしてしまった男性が居た。その後、いわゆる「水際作戦」によって、始めから生活保護を受け取らせないよう、一部の自治体が行っていた措置が問題視されるようになった。

具体的には申請に来た人に対して、就職活動を頑張れと言って追い返し、申請書すら渡さない、といったやり方だ(上記の餓死した男性のケースでは、病気で働けない状況にもかかわらず、「もう働けるでしょう」と実質的に援助を打ち切られたようだ)。

おそらく今の「時代の空気」からすると、上記の対応は当然のものと見えるかもしれない。だが、当時餓死者が出ていたことによって、この対応は非人道的だとして大変な非難を浴びた。

これはテレビでも何度か放送されたテーマで、申請者が窓口で追い返される映像や、その後弁護士を伴って再度申請に赴き、申請書を渡そうとしない窓口の担当者に対して弁護士が、

「あなたは一体何の権利があって申請書すら渡さないのか? 何の法律に基づいて行動しているのか? 本当に渡さないのなら今から厚生労働省の担当者に電話してこの対応は適切なものか確認するがよろしいか?」

・・・と非常に強い口調で担当者を非難する映像まで流れていた(細かい文言は記憶が正確ではないが、概ねこのようなやり取りだったと記憶している)。

実際に弁護士が電話をしている映像も流れて、「その後この申請者は無事生活保護をもらえる事になった」といったようなテロップが流れたのも記憶している。マスコミの公務員叩きの流れの一環だったので、「悪い公務員vs正義の弁護士+生活保護申請をする弱者」という、テレビ的にはある意味で大変わかりやすい構図の映像だった。

当時この映像を見て、弁護士まで引っ張り出して生活保護費を貰おうとするなんてとんでもないやつだ、と思った視聴者はほとんど居ないだろう。あまりに強烈な映像だったため、当時友人にこんな映像がテレビで流れていたという話をして「強きに弱く、弱きをくじく、とんでもないやり方だ」と伝えた事を覚えている。

ほんの数年で極論から極論へ、ここまで状況がひっくり返るとはなんとも凄い時代になったと思うが、受給者増加の問題は上に書いたとおり、不正受給よりも不景気と高齢化、そして運営方法による部分が大きい。運営方法に関しては繰り返し指摘されているが、フードスタンプなど用途を絞った形で生活の援助をする事や、住まいに関しても専用のマンションやアパートを準備するなど、同じだけの支援をより少ない費用で提供するにはどうしたら良いのか?という効率性の視点を導入すべきだ。貰ったお金をパチンコやお酒にお金を使う程度の事は個人的には許されていいと思うが、納得しない人も多いだろう。これはお金をそのまま渡すから起きる事であり、悪いのはパチンコに行く人ではなく、パチンコにいける状態でお金を渡してしまう「制度の問題」であることも理解すべきだ。

子供手当てでパチンコに行っている親は酷い、といった批判もあったが、国から貰うお金は何か特別なものなのだろうか。このままでは年金でパチンコに行くのはダメとか公務員が税金から貰う給料でパチンコに行くのはダメとか、どんどん息苦しくておかしな方向に空気が変わってしまいそうだ。

今回の芸人の騒動は、他にも支えないといけない人はいたとか、将来売れなくなった時の事が心配で援助の額を少なめにしていたとか、個別性が強すぎて少なくともメディアが大騒ぎするような問題とは思えない。福祉事務所と話合いまでしていたというのだから、問題にすべきは受給基準のあいまいさという制度の問題・欠陥の部分だろう。
生活保護受給者、自殺率2・2倍…厚労省調査
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=43795
上記のような調査結果もあり、何か生活保護受給者が恵まれているかのような誤った認識を持つのはあまりに違和感がある。

最後のセーフティネットである生活保護はもっと気楽に貰えるようになっていいはずだ。ここまでセーフティネットを貰いにくくして、どうしようというのだろうか。親族が支えるべきだ!と簡単に言うが、世の中の多くの人は自分が収入に困ったら月に10万円以上もポンと援助してくれる人は居るのだろうか? もし将来自分が貰うことになったら、といったことを考えると、とてもではないが受給者を責める気にはならない。

自分が普段お客様として相手をする方々は、平均的な日本人よりも、どちらかというと収入が高い方が多い。わざわざお金を払ってFPに相談をしようという人なのだから当たり前かもしれないが、それでもテキストの項目には失業保険や生活保護に関する項目も入れてある。いつどんな状況になるかは、誰にもわからないからだ。

本当に困っている人が貰えなくなったら、とか本当に困っている人だけに支給すべきだ、といった言い方が今回頻繁になされているが、その「本当に困っている人」の基準があいまいな事、周囲の親族に課せられた扶養義務に明確な基準が無い事(作れない事?)も問題の根っこであり、芸人の母親の受給は枝葉の問題でしかない事は、もっと理解されるべきだ。

*アゴラコメント欄での追記
制度設計のおかしな部分を放置して芸人を攻めてどうするの?というのが今回の記事の趣旨です。3親等までの扶養義務も広すぎる上に義務というにはかなりあいまいです。

落ちるところまで落ちないともらえない仕組みでは、一度貰い始めると抜け出す事も出来ません。
気軽に貰って気軽に抜け出せる仕組みに、というのが自分の意図です。
働きながら貰っている人が居る事も考えると、やはり問題は景気でしょう。

不正受給は当然アウトですが、生活保護を貰っている人への非難は「俺が苦しんでるんだからお前も苦しめ」とい嫉妬というか、不健全な空気を感じてしまいます。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長
ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、37歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経DUAL、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

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現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

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