この記事の続きになります。
マサさんへの挑発
怖いマサさんにやる気を出してもらうため
私は「挑発役」を任せられることになりました。
とはいえ、私の挑発とは大したものではなく・・・
朝の朝礼で
「最近調子になっている新人がいるので負けないように頑張ります!」
という程度のモノでした。
しかし!
マサさんの反応は予想以上のモノでした!
私がそう言った瞬間マサさんは凄まじい目で睨みつけてきたのです。
(殺される・・・)体中から汗が吹き出しました。
マサさんが怒った事を確認した社長は
その後、コソコソとマサさんに耳打ちします。
「今度アイツと一緒に1週間出張営業にいってみない?」
マサさんはうなずきました。
1週間の泊まり込み「出張営業」
飛び込み営業での出張は「1週間泊まり込み」で
「遠く離れた県外の地域」を飛び込みで回る事になります。
これを「パラシュート部隊」なんて呼んだりもします。
このパラシュート部隊の目的は、普段回らない地域に行く事で
- 大量の契約がとれる
- 社員のモチベーションアップ
- 社員同士の仲を親密にする
といった効果を狙っているワケです。
6人の選ばれたメンバーで向かうわけですが、
貧乏ブラック会社に「社用車」なんてモノはありません。
誰かの「自家用車」に6人の社員がギュウギュウ詰めになって目的地へ向います。
一人は乗り切らないので座席の後ろに荷物と一緒に詰め込まれています。
私はマサさんが怖くて下を向いて、移動中はずっと黙っていました。
到着するボロボロのワンルームアパート
出張といってもクソブラック企業である我が社に
「ホテル」を借りる、何て事は絶対に出来ません。
社長の知り合いが借りているワンルームアパートに
男女6人が川の字になって1週間寝泊まりする事になります。
初めてこの光景を目にしたマサさんは、さすがに目を白黒させていました。
はじまる出張営業
早朝に自分が飛び込みで回るエリアマップを渡されます。
その後、自分のエリアに来るまで降ろされ
夜の20時か21時ごろまで飛び込み営業を続けることになります。
その日の成績は次の日の朝みんなの前で発表される事になります。
そして「1週間の間で最も多く契約をとったモノが表彰される」
というルールになっているのです。
6人中3人のメンバーは「ベテラン社員」です。
新人であるマサさんに絶対に負けるわけにはいきません・・・。
みんなやる気マンマンの様子でした。
公園から1歩も動けないわたし
私は「マサさんに勝たなければいけない」というプレッシャーに押し負けて公園から1歩も動けなくなっていました。
1時間くらいグズグズグズグズしたあとで
自分で書いている「がんばった時ノート」を開いた。
※これは調子が良かった日、たくさん契約がとれた日の自分の行動と気持ちを全部書きだしているノートです。
汚い字でビッシリ書かれたこのノートを見て私は元気を出すのです。
そして涙目になりながら(がんばらなきゃ)と思い飛び込み営業をはじめました。
初日の成績
ぐずぐずしていた私も回りだすと、営業が楽しくなってきます。
ちなみに、飛び込み営業の契約数の基準はこんな感じです。
- 1日1件の契約 =普通の営業マン
- 1日2~4件の契約 =まぁまぁスゴイ
- 1日5件の契約 =スゴイ
- 1日7件の契約 =超スゴイ
- 1日10件以上の契約=通常ありえない(狂ってる)
1日100件程のお宅を周って「健康食品」の定期契約をとるのですが
いきなりきた「よくわかない人」から毎月4000円の定期契約なんてそう簡単に結ぶわけがないですよね?
1日1件の契約をとるのでも凄く大変な事なのです。
私もなんやかんやで夜の20時を回る頃には「14件」の契約がとれていました。
※これは本当にたまたまです。
(これならマサさんにも勝ったハズ!)
初日はそう思ってウキウキ帰る事が出来ました。
みんなでスーパーで晩御飯を買う
みんな飛び込み営業を終えて21時ごろに集合します。
疲れ切ってみんな汗だくでヘトヘトになっていました。
そのままスーパーへいき、半額のお惣菜等を買ってアパートに戻ります。
修学旅行みたいな何だか楽しかったのを覚えています。
しかし、このブラック企業の本当の試練はこの夜にやってくるのです・・。
闇のゲーム
晩御飯を食べ終わると
「みんなでトランプしようぜ!」とトランプゲーム大会が始まります。
このゲーム、ただのゲームではありません。
負けると厳しい「罰ゲーム」が待っています。
最初のゲームで「大富豪」をするとマサさんが負けてしまいました。
みんな(あっ)という顔をしましたが
もちろんマサさんも罰ゲームの例外ではありません。
その罰ゲームとは「5人を笑わせる」という罰ゲームです。
笑わせるまで「絶対に終わらない罰ゲーム」
この罰ゲーム、無表情で座っている5人のメンバーを
1発芸・モノマネ・コント・なんでもいいので笑わせろ、という罰ゲームなのです。
シンプルなのですがこれが相当厳しいのです・・・・・。
そしてさらに、「笑わせるまで絶対に終わらない」という鉄の掟がありました。
(こんな恥ずかしい事がマサさんに出来るのか?)
私は内心ドキドキワクワクしていました。
マサさんの魚介類モノマネシリーズ
カニ・タコ・サメ・ボラ・・・・
マサさんに一切の迷いはありませんでした。
あまりにも全力で笑わせに来るマサさんのモノマネシリーズに
5人はたまらず爆笑してしまいました。
(すごい・・・・)
(この男はただものではない)
マサさんはもう40近いのだろうか?
こんな若造達の前で堂々と罰ゲームをこなすマサさんの「男気」に
私は密かに感動していました。
大人の男性っていうのはこういう事を言うのでしょうか?
営業勝負の結果
初日の営業結果は
私が「14件」
マサさんは「12件」
他の4名は0件~3件ほどでした。
マサさんと目が合う
驚いた様子で私を見ていた
(さすがに予想外だったのでしょう)※私も予想外でした。
開始そうそう出張営業は私とマサさんの一騎打ちのムードになってしまったのです。
他のメンバーは無責任に「二人の対決ムード」を煽り立てます。
私は次の日
あまりのプレッシャーにトイレにいって吐きました。
決着のつかない勝負
勝負は最終日まで決着が付きませんでした。
私もマサさんも夜中まで汗だくになりながら必死に飛び込みを続けました。
迎えた最終日の夜
先輩が「私とマサさんの勝負の結果をみんなの前で発表する」
と言いました。
しかし先輩はなぜか
発表の時に「同点!!!!!!」
とだけ言って終わりにしてしました。
私とマサさんへの配慮だったのでしょうか?
本当に同点だったのでしょうか?
結局よくわかりませんでした。
マサさんからの「敗北宣言」
帰り際にマサさんから話しかけられました。
「アイツ(先輩)はあんな事言ってたけど、お前の勝ちだぞ」
私は突然話しかけられたので口をぱくぱくさせます。
それだけ言うと、マサさんはニヤッと笑って行ってしまいました。
マサさんから認められたようで嬉しかった。
楽しい帰り道
先輩や同僚からも「よくがんばったな」「すげーじゃん」と色々褒められて
私は帰りの道中ウキウキした気持ちでいました。
この1週間、みんなで食事を食べ、寝て、家族のように過ごしてきました。
マサさんとも何かわかりあえたような気がしました。
(こんな楽しい仲間が出来て、本当にこの会社に入ってよかった・・)
私はそう思っていました。
帰り道でガソリンスタンドで乱闘騒ぎを起こすまでは。
ガソリンスタンドでの乱闘
運転手の同僚がガソリンスタンドでの給油中
「ここのガソスタ後ろ拭いてくんないんすかね?」
とボソッと言った。
たしかに店員さんは前しか拭いてくれなかった。
するとマサさんが店員さんに
「なぁ、後ろも拭いてくれないかな?」と言った。
凄まじい威圧感だった。
(怖い)
「すいません!すぐやりますから!」
と言いながら店員さんは車の後部ガラスを拭いてくれた。
そして運転手の同僚がお釣りを受け取って
さぁ帰れるぞ、と思ったが・・・・・・
同僚は釣り銭を見て固まっている。
(・・・どうかしたのだろうか?)
運転手は振り返るとこう言った。
「マサさん・・・・釣りたりないっす!」
そういった瞬間マサさんがキレた。
いや私以外の全員がキレた
マサさんが車を飛び出すと、みんながそれに続く
「てめぇえふざけてんじゃねえぞ!!!」
店員さんを突き飛ばしたのだろうか?何かが倒れる音がした。
みんなが車を降りても私は降りなかった(怖いからです)
私はずっとひとり車内で震えていた。
チラッとガソリンスタンドの様子を見ると
みな胸ぐらを掴んだり、突き飛ばしたり、何かを叫んだりしている。
私はまた頭をかかえて丸くなった。
しばらくすると何事も無かったかのように、みんなが車に乗り込んできた。
何か店員さんに捨て台詞を吐いている。
そして呆然としている私に対して、何か言い訳をはじめた・・・。
「あれは・・・しょうがないやろ?わかるだろ?」
「そうそう、あれは怒るでしょ?」
わかりませんとは言えない。
「そうだね・・・」とだけ静かに応えました・・・。
マサさんを始め、みんな「元犯罪者」の前科者です。
どこへ行ってもこんな乱闘騒ぎを起こしてしまいます。
毎回こうです。
普段は思いませんが、こういう時ばかりはどうしても
この人達と「わかりあう」何て無理だな
と思ってしまいます・・・・・。
ちゃんちゃん