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「本来は、アニメは1人で作れるものです」

アニメーション映画「この世界の片隅に」片渕須直監督(後編)

2016年12月9日(金)

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 現在ロードショー公開中のアニメーション映画「この世界の片隅に」の片渕須直監督に、日経ビジネスオンラインで「宇宙開発の新潮流」を連載している松浦晋也さんがインタビュー。意外に見える組み合わせですが、実は宮崎駿氏も一目置く航空史家である片渕監督と、航空宇宙の専門家にして映画マニアの松浦さんはのっけから噛み合わせ抜群。未読の方は是非、前編「『この世界の片隅』は、一次資料の塊だ」からお読み下さい。(ちなみに、松浦さんの映画評をもっと読みたい方は、こちら) (編集部:山中)
片渕須直(かたぶち・すなお)氏 アニメーション映画監督。1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(89/宮崎駿監督)では演出補を務めた。T Vシリーズ『名犬ラッシー』(96)で監督デビュー。その後、長編『アリーテ姫』(01)を監督。TVシリーズ『BLACK LAGOON』(06)の監督・シリーズ構成・脚本。2009年には昭和30年代の山口県防府市に暮らす少女・新子の物語を描いた『マイマイ新子と千年の魔法』を監督。口コミで評判が広がり、異例のロングラン上映とアンコール上映を達成した。またNHKの復興支援ソング『花は咲く』のアニメ版(13/キャラクターデザイン:こうの史代)の監督も務めている。※以上、映画の公式ページより引用

史実を取り入れると、人物が立ってくる

機銃掃射の描写も鳥肌立つほど怖かったです。今までさんざん戦争映画で機銃掃射のシーンを観ているはずなのに、これほど怖かったのは初めてです。

片渕:映画に出てくる機銃掃射って、だいたい弾着が一直線に走って行くんですけれども、実際には照準を定めて撃つので、照準を合わせた場所にいきなり渦を巻くように弾着するんです。当時米軍は、機銃と連動するカメラを戦闘機に装着して戦果を確認していましたから、その映像を見るとどのように弾着していたかが分かります。そこから、逆に撃たれる側からはどう見えたかを描いていきました。

それから、戦闘が始まるとばんばん空から色々なものが落ちてくる。これも怖かったです。こういう描写も初めて観ました。

片渕:市街地上空で戦闘しているのだから当たり前で、実際色々落ちてくるのを体験した方もいます。すずさんは、呉の山側に住んでいるのですけれど、すると当時の呉周辺の高角砲の配置から、どの砲台が撃った弾が、すずさんのところに落ちてきたかはなんとなくですが計算できるんですよ(と、ここでまさに、映画中ですずさんが機銃掃射を受ける当日、米軍が呉の海側上空から山側に向けて撮影した写真をパソコンに表示させる監督。呉湾には多数の海軍艦艇がいて煙幕を張っており、上空では対空砲火が炸裂している)。

 すずさんの家が山側のこのあたりです。高角砲はそんなに真上に向けては撃ちませんから、するとこのあたりの砲台がこの方向に撃つと、すずさんの家あたりに弾丸が落ちるだろうなと、なんとなく見えてきます(ここで、湾内の艦艇を指し示し始める)。これが青葉(重巡洋艦)。

作中、すずさんの幼なじみの水原哲が乗り組んだ船ですね。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

片渕:青葉は後に湾内に擱座して終戦を迎えますが、この時はまだ擱座していません。これが榛名(戦艦)、ここで煙幕を張っているのは雪風(駆逐艦)と浜風(駆逐艦)です。これが日向(戦艦)、こっちが利根(重巡洋艦)。この白い船は高砂丸という病院船です。病院船だから、煙突から出せる煙幕は小さいです。

呉湾の艦艇は、完全に作中で再現されていますよね。マニアを試すリトマス試験紙みたいです。

片渕:榛名は、空襲が終わった後、主砲に砲弾が残っていて、仕方ないので空襲後に主砲を撃って処分したんです。その衝撃波でガラスが震えたって話が残っています。戦艦が街のすぐ近くで主砲を撃っているんですね。そういうところから、戦争中の呉を満たした音はどんなものだったかということも分かってきます。

ラスト近くで、灯火管制の覆いをはずしたすずさんの家が、ぽっと明るくなるのが、呉湾の船上から見えるというシーンがありますよね。あの船なんだろうと思って艦船に詳しい友人に聞いたら「駆逐艦の『椎』だろう。人間魚雷『回天』の発射装置を付けていたから」という。調べると、終戦時、椎は回天の発進訓練に使われていたんですね。

片渕:あの描写は、椎の乗組員の方が、「終戦の日、灰ヶ峰のふもとに最初の灯りがともった」と書いているのを使ったんですよ。

ええっ、史実なんですか。

片渕:そうです。その話を原作のこうの史代さんにしたら、「まさにすずさんの家の方角ですね」と言われたので、この灯りはすずさんの家だということにしていいのではないかと思って、取り入れました。このように現実にあったことと、すずさんとをかみ合わせていったんです。

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「「本来は、アニメは1人で作れるものです」」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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