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NHKの次期会長に上田良一氏が就任する運びとなった。NHKの執行部を監…
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NHKの次期会長に上田良一氏が就任する運びとなった。NHKの執行部を監督し、会長を決める権限をもつ経営委員会内部からの選出は異例だ。
巨大な公共放送を率いることになる上田氏には、東京・渋谷の放送センターの建て替え、受信料制度の見直し、ネット同時配信や4K・8K放送への対応といった課題が待ち受ける。肥大化した組織と業務の改革も避けて通れない。
だが新会長が何より取り組むべきは、放送法がかかげる「不偏不党、真実及び自律を保障する」「表現の自由を確保する」「健全な民主主義の発達に資する」などの原則を胸に刻み、NHKを国民・視聴者に信頼される存在にすることだ。
その際、反面教師となるのが退任が決まった籾井(もみい)勝人現会長のこれまでの言動である。
籾井氏は14年1月の就任会見で、「私の任務はボルトやナットを締めなおすこと」と組織統治の強化を宣言した。
だが「政府が右ということを左というわけにはいかない」に象徴される政権寄りの姿勢が批判を招き、さらに番組の過剰演出問題や職員のタクシー券不正利用、子会社社員の着服・詐欺事件などが相次いだ。有識者や職員OBの間で再任反対の動きが広がったのは当然だ。
13年に経営委員になった商社出身の上田氏は、12人の委員のうちただ一人の常勤で監査委員も務める。籾井氏の会長任命にかかわる一方、氏がハイヤー代をNHKに立て替えさせた問題では調査を手がけた。罷免(ひめん)までには踏みこまなかったが、経営委の一員として3回にわたって氏を注意している。
この間の局内外の混乱を目の当たりにして、社会はNHKに何を期待し、NHKが大切にしなければならないものは何か、上田氏も真剣に考えたはずだ。
その経験をふまえ、会長就任後は政治と適切な緊張関係をたもちつつ、報道・番組づくりで現場の批判精神や自主的な判断を尊重する組織風土をつくることが求められる。もちろん経費の使い方など、締めるべきところは締める必要がある。
NHKでは会長に業務・人事の権限が集中する。全国各地から有識者が任命される経営委員は原則として非常勤で、すべての課題には対応できないのが実情だ。上田氏はそうした問題点も熟知しているだろう。
知見を生かし、公共放送のあるべき姿を考え、運営体制のあり方を柔軟に見直し、必要に応じて世の中に提起する。それも新会長の責務である。