News Up 保育所増設の切り札 反対で頓挫
待機児童の増加が深刻化する中、大阪府はことし、府営住宅の空き室を保育所に活用する施策を打ち出しました。時間や手間をかけずに保育所を増やせるこの施策は、待機児童解消の切り札として各地で期待を集めています。ところが、大阪・吹田市では、周辺住民の反対によって計画が頓挫していたことがわかりました。背景を取材しました。
大阪府ではことし4月、待機児童数が1400人を超え、全国で4番目の多さとなりました。仕事に復帰できない。母子家庭で、家計を支えるために子どもを預けなければならない。待機児童の親の中には切羽詰まった事情がある人もいて、解消が急がれています。
しかし、保育所の開設には、民間事業者を募集し、土地を探し、建物を造るという手順が必要で時間も費用もかかります。そこで、大阪府がことし切り札として打ち出したのが、府営住宅の空き部屋を活用するという施策でした。これなら、建物はもちろんのこと、上下水道や電気ももともと用意されていて、すぐに保育所が開設できます。
全国的にも、名古屋市で公営住宅を活用した保育所を導入して成功している例があり、これを利用しようと手を挙げたのが、大阪府内で2番目に待機児童が多い吹田市でした。
しかし、保育所の開設には、民間事業者を募集し、土地を探し、建物を造るという手順が必要で時間も費用もかかります。そこで、大阪府がことし切り札として打ち出したのが、府営住宅の空き部屋を活用するという施策でした。これなら、建物はもちろんのこと、上下水道や電気ももともと用意されていて、すぐに保育所が開設できます。
全国的にも、名古屋市で公営住宅を活用した保育所を導入して成功している例があり、これを利用しようと手を挙げたのが、大阪府内で2番目に待機児童が多い吹田市でした。
期待された公営住宅の転用
大阪府ではことし4月、待機児童数が1400人を超え、全国で4番目の多さとなりました。仕事に復帰できない。母子家庭で、家計を支えるために子どもを預けなければならない。待機児童の親の中には切羽詰まった事情がある人もいて、解消が急がれています。
しかし、保育所の開設には、民間事業者を募集し、土地を探し、建物を造るという手順が必要で時間も費用もかかります。そこで、大阪府がことし切り札として打ち出したのが、府営住宅の空き部屋を活用するという施策でした。これなら、建物はもちろんのこと、上下水道や電気ももともと用意されていて、すぐに保育所が開設できます。
全国的にも、名古屋市で公営住宅を活用した保育所を導入して成功している例があり、これを利用しようと手を挙げたのが、大阪府内で2番目に待機児童が多い吹田市でした。
しかし、保育所の開設には、民間事業者を募集し、土地を探し、建物を造るという手順が必要で時間も費用もかかります。そこで、大阪府がことし切り札として打ち出したのが、府営住宅の空き部屋を活用するという施策でした。これなら、建物はもちろんのこと、上下水道や電気ももともと用意されていて、すぐに保育所が開設できます。
全国的にも、名古屋市で公営住宅を活用した保育所を導入して成功している例があり、これを利用しようと手を挙げたのが、大阪府内で2番目に待機児童が多い吹田市でした。
計画は立てたものの…
大阪府北部の吹田市は、大阪都心への交通の便がよいうえ、自然環境にも恵まれていて、若い世代を中心に住宅地として高い人気があります。人口の伸び率は府内で最も高く、現在も市内のあちらこちらで大規模なマンションが建設されています。これに伴って市は保育所の定員を増やし続けてきました。ところが、あまりにも人口の伸びが急激だったため、ことし4月には、希望者の40%に当たるおよそ1000人が保育所に入ることができなかったのです。
困った母親たちからの相談が相次ぎ、吹田市は待機児童を解消するための3か年計画を立てました。保育所を増やすために民間事業者を誘致していくことを柱にしていますが、すぐに子どもたちを受け入れることができるよう、公営住宅の空き部屋3か所を活用した小規模な保育所の開設も計画に盛り込みました。
大阪府が用意した府営住宅に加えて、市営住宅の活用も決め、合わせて3か所にそれぞれ20人近くを受け入れることができる保育所が10月1日に開設されることになりました。
ところが、保育所を増やす切り札として期待されたこの計画は、3か所とも頓挫していたことが吹田市や関係者への取材で明らかになったのです。
困った母親たちからの相談が相次ぎ、吹田市は待機児童を解消するための3か年計画を立てました。保育所を増やすために民間事業者を誘致していくことを柱にしていますが、すぐに子どもたちを受け入れることができるよう、公営住宅の空き部屋3か所を活用した小規模な保育所の開設も計画に盛り込みました。
大阪府が用意した府営住宅に加えて、市営住宅の活用も決め、合わせて3か所にそれぞれ20人近くを受け入れることができる保育所が10月1日に開設されることになりました。
ところが、保育所を増やす切り札として期待されたこの計画は、3か所とも頓挫していたことが吹田市や関係者への取材で明らかになったのです。
相次いだ住民からの反対
計画がつまずいたのは周辺の住民から、子どもの声でうるさくなる、違法駐車が増える、と反対の声が上がったためです。公営住宅は集合住宅で、壁一枚を隔てた隣には居住者がいます。通常の独立した保育施設以上に騒音を懸念する声が大きかったのです。
保育所開設が予定されていた公営住宅に住む60代の女性は、「保育所が必要なのはよくわかっている。しかし同じ建物にあると落ち着けない。しかもこの辺りは駅から遠い上、道が狭く、送り迎えの車でいっぱいになってしまう」と話していました。さらに、周辺に住む子育て世代からも「不特定多数の人が集合住宅に出入りすると安全面で不安だ」という声が上がりました。
保育所には、給食などの業者や、入所を希望して見学に来る親など、不特定多数の出入りがあります。
実は、吹田市や大阪府は、高齢世代から反対が出ることはある程度、想定していたと言います。東京・世田谷区で、新たな保育所施設を造ろうとした際に、高齢者を中心に反対が出て、いわゆる「世代間のギャップ」が浮き彫りになった例があるからです。
保育所開設が予定されていた公営住宅に住む60代の女性は、「保育所が必要なのはよくわかっている。しかし同じ建物にあると落ち着けない。しかもこの辺りは駅から遠い上、道が狭く、送り迎えの車でいっぱいになってしまう」と話していました。さらに、周辺に住む子育て世代からも「不特定多数の人が集合住宅に出入りすると安全面で不安だ」という声が上がりました。
保育所には、給食などの業者や、入所を希望して見学に来る親など、不特定多数の出入りがあります。
実は、吹田市や大阪府は、高齢世代から反対が出ることはある程度、想定していたと言います。東京・世田谷区で、新たな保育所施設を造ろうとした際に、高齢者を中心に反対が出て、いわゆる「世代間のギャップ」が浮き彫りになった例があるからです。
ところが子育て世代の住民から思わぬ反対が出て、市は対応を再検討する必要に迫られました。「防犯カメラをつけて欲しい」、「住民の出入り口とは別に保育所の出入り口をつくってほしい」といった要望が出ましたが、それでは予算をかけずに保育所に活用するというメリットが失われてしまいます。府や市は、これまでに何度も住民説明会を開き、説得を試みてきましたが、理解を得るのは難しい状況だといいます。
ほかの自治体でも難航
ほかの自治体はどうしているのでしょうか。同じく、府営住宅を活用しようと名乗りを上げたのが大阪・島本町でした。島本町ではことし11月に1か所、公営住宅を活用した保育所を開設しました。ところが、こちらでも周辺住民の反対にあって、候補地が転々としていたのです。住民説明会を何度も開いたほか、戸別訪問もして説得にあたり、防音改修工事をきちんとするとして、3か所目でようやく最終的な合意に至ったということでした。
公営住宅の活用に限らず、保育所の開設が住民の反対で難航するケースは各地で相次いでいます。大阪市は、保育所の施設を新たに造る際には、間取りを工夫しているといいます。園庭や窓を住宅が少ない方角に設けているということです。また、基本的に車での送り迎えは禁止しているということです。ただ、車を禁止できるのは交通網の発達した大都市ならではの対策で、郊外の自治体では実現が難しい状況があります。
公営住宅の活用に限らず、保育所の開設が住民の反対で難航するケースは各地で相次いでいます。大阪市は、保育所の施設を新たに造る際には、間取りを工夫しているといいます。園庭や窓を住宅が少ない方角に設けているということです。また、基本的に車での送り迎えは禁止しているということです。ただ、車を禁止できるのは交通網の発達した大都市ならではの対策で、郊外の自治体では実現が難しい状況があります。
折り合いをどうつけるか
こうした中、大阪府はことし、保育施設と地域とのトラブルを避けるためのパンフレットを作成しました。間取りなどを工夫することと、地域住民とコミュニケーションをとることなどが記されています。
ただ、地域の理解を得るには、一定の時間が必要です。待機児童の増加は待ったなしの問題だけに、保育所開設までに時間がかかりすぎると、意味がなくなってしまいます。そうかと言って、一部の住民の反対を押し切って開設すれば、地域にトラブルの根を残す形になります。住民側にもそれぞれ事情があります。子どもの声を騒音だとして、訴訟に至ったケースすらあるのです。
公営住宅を活用する計画が行き詰まっている吹田市の場合、断念するのか、それとも住民の説得を続けるのかを決めかねています。およそ70億円を投入して進めることになった保育所整備の3カ年計画が出はなからくじかれた格好ですが、市の担当者は民間事業者の誘致に力を入れるなどしてカバーしていきたいとしています。
ただ、地域の理解を得るには、一定の時間が必要です。待機児童の増加は待ったなしの問題だけに、保育所開設までに時間がかかりすぎると、意味がなくなってしまいます。そうかと言って、一部の住民の反対を押し切って開設すれば、地域にトラブルの根を残す形になります。住民側にもそれぞれ事情があります。子どもの声を騒音だとして、訴訟に至ったケースすらあるのです。
公営住宅を活用する計画が行き詰まっている吹田市の場合、断念するのか、それとも住民の説得を続けるのかを決めかねています。およそ70億円を投入して進めることになった保育所整備の3カ年計画が出はなからくじかれた格好ですが、市の担当者は民間事業者の誘致に力を入れるなどしてカバーしていきたいとしています。
社会全体の問題として
このように、待機児童解消に向けて、試行錯誤が続いているわけですが、懸念されるのは、保育所の存在自体がやっかい者のように扱われる風潮が広がってしまうことです。これから子どもを持とうとする世代が、子育てをすることに萎縮してしまうことにつながりかねません。高齢者施設にも同じことが言えます。施設ができると認知症のお年寄りがはいかいするとして、住民から反対の声が上がることがあります。子どもやお年寄りを煩わしい存在とせず、社会全体で見守る意識をもっと共有できないか。少子高齢化が進んだ今の日本にとって、差し迫った課題だと思いました。