「難しい専門用語は入ってない。ニュースぐらい見ろ!」
流行語大賞「世間とのズレは?」やくみつる委員に聞く
2016.12.05 MON
年間大賞は「神ってる」。カープの緒方孝市監督が、弱冠22歳・鈴木誠也の神がかり的な活躍を評したものだ
写真:伊藤真吾/アフロ
「ユーキャン新語・流行語大賞2016」が、12月1日に発表された。「流行語大賞」といえば、近年は「そんなに流行ってたっけ?」「そんな言葉知らない」なんていうツッコミが入ることも多い…。そこで、全国の20~30代221人に、流行語大賞について、アンケート調査してみた。(R25調べ/協力:ファストアスク。すべて複数回答)
〈2016年に新語・流行語大賞にノミネートされた語のうち、「あまりピンとこない」言葉は?〉
1位 「新しい判断」 130票2位 「アスリートファースト」 91票
3位 「くまモン頑張れ絵」 84票
4位 「びっくりぽん」 67票
5位 「レガシー」 59票
〈過去5年、「トップテン」に入った語のうち、「あまりピンとこない」言葉は?〉
1位 「近いうちに…」(2012年) 90票2位 「アベ政治を許さない」(2015年) 81票
3位 「第3極」(2012年) 80票
4位 「どじょう内閣」2011年 73票
4位 「トリプルスリー」(2015年 ※大賞) 73票
このなかでもっとも多く票を集めた「新しい判断」は、安倍晋三首相が消費増税の延期について語った言葉。また「アスリートファースト」は、東京五輪の施設について「選手のことを第一に考えるべき」という意味の言葉だ。
さて、選考への疑問はやはり選考委員にきいてみたいもの。そこで、選考委員のひとりである漫画家のやくみつる氏を直撃してみると…。
「難しい専門用語が入っているわけでもありません。『ニュースぐらい見ろ』と言いたいですよ」
といきなり厳しい。来年以降、選考基準を見直すようなことも「まったくありません」と断言した。では、アンケート結果のなかで、「そう言われても仕方ないかも…」というような言葉はない?
「うーん、たしかに『くまモン頑張れ絵』というのは、すごく流行った言葉ではないかもしれません。私も、森川ジョージ先生が始められた運動(熊本地震を受け、漫画家の森川ジョージ氏が、くまモンのイラストを描いて応援しようと呼びかけた)は知っていましたが、その言葉自体は知りませんでした。ただ、震災のあった熊本に関する言葉を切り捨ててしまうのは違うな、ということで、私は『復興城主』という言葉を推しました」
ネット上では「保育園落ちた日本死ね」が、“死ねなんていう言葉を後世に残すべきではない”などとして話題になっているが、やく氏は、流行語の選出の基準として、以下のように語る。
「『じぇじぇじぇ』『今でしょ』など、つい口に出してしまう楽しい流行語もありますが、それだけではない。別に『ホンワカ語TOP10』を選んでいるわけじゃないんです。『保育園落ちた日本死ね』は議論を呼ぶもの、問題を喚起するものとして選んでいるので、言葉として『好きだ、きらいだ』『過激だ、穏やかだ』という観点はないですね」
大賞の「神ってる」に対しても、あまり野球を観ない層からは「?」の声があるが…。
「世の中のすべての人が野球を観ているわけではないのは当然わかっています。ただ、以前から『神対応、塩対応』などというふうに、よい状態のことを『神』と表現することがあった。それを、あまり使わなそうなプロ野球の監督(広島カープ・緒方孝市監督)までもが使っている。それだけ広まったところに面白さがあるということです。さらに、宗教観のうすい日本ならではの『神』という言葉のライトな使い方にも注目しました」
過去には、「差別を助長する」などとして「受賞対象外」となった言葉もあった。議論を呼ぶということは、それだけ現代の世相を反映するキワドイ言葉も選ばれているということだろう。「流行語大賞」をめぐる話題を思い起こして、今年を振り返ってみるのもいいかもしれない。
(梵 将大)