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【私説・論説室から】

メルケル氏が切った啖呵

 よく先進七カ国(G7)などの間で「価値観を共有する」という言葉が使われる。「共有しない」側には、北朝鮮はもちろん、最近では、中国やロシアも属するとされることが多いようだ。どういう価値観なのだろうか。

 「血統、肌の色、宗教、性別、性的指向、政治的立場に左右されず、民主主義、自由、人権と、人の尊厳への敬意という価値観の共有に基づき、トランプ次期米大統領との緊密な協力を申し出たい」

 ドイツのメルケル首相は、トランプ氏にかけたお祝いの電話でこう述べた。オバマ大統領とは一致できていた価値観を今後も共有できなければ、米国に対してといえどもお付き合いお断りということだ。ミュンヘン在住のジャーナリスト熊谷徹氏は、トランプ氏への「毒矢」と評した。安倍首相がいち早くトランプ氏に会いに行ったことと比較すると、メルケル氏の強い姿勢はいっそう際立つ。

 戦後ドイツの国是は、ナチスを繰り返さないことに尽きる。その根本を支える価値観が、メルケル氏が毒矢に塗り込んだ、差別への強い嫌悪と人道主義だ。

 トランプ氏はこの価値観に反する発言を繰り返していた。メルケル氏が切った啖呵(たんか)にどう反応するのか。波紋は、価値観共有を目指してきた欧州、さらにはG7へと広がり、共有しない側も巻き込んで、世界秩序を揺るがしかねない。        (熊倉逸男)

 

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