2016-12-07

君の名は。中国公開事情について。

http://b.hatena.ne.jp/entry/www.recordchina.co.jp/a156895.html

で「配給会社買取だった」ことにブコメ話題が集中しているが、あちらの外国映画事情

中国ではもちろん日本邦画外国映画である)について基本事情が全く知られていないようなので少々。

外国映画の輸入枠について

中国(厳密には中国本土)では外国映画の輸入(公開)に政府による本数制限がある。

a.枠 一般映画レベニューシェア方式 20本/年

b.枠 一般映画買取方式 30本/年

c.枠 3D/4DX映画 14本/年

(少し前に聞いた数字なので今年は少し違ってるかもしれない)

これが枠の全て。中国映画オタは年間64本見るだけで「俺は今年公開された洋画全部見たぜ!」と言えるわけだw

当然、中国配給会社は貴重な外国映画枠を確実にヒットが狙える作品しか使わない。

外国映画が興収1億元レベルで終わったら(日本ならそこそこヒットだが)、中国ではたぶん買付け担当者の首が飛ぶ。

外国映画製作会社としては当然a.枠で売りたいところだが、ここは大激戦区になるのでハリウッド大作以外

全くお呼びじゃない。「なんで買取なんかで安売りしたんだ?」というより、そもそも輸入枠全体の9割を

ハリウッド製が占める中、「日本映画中国で公開される」こと自体が年数本しかない狭き門で、ブランド

確立してないオリジナル新作アニメが公開に漕ぎ着けた(=3億円ぽっちだがb.枠で売れた)だけでも、

結構もうけものなのだ。、

配給会社の賭けについて

ブコメでは「中国では無名監督作品を7000スクリーンで公開した賭け」が注目されていて、

それは確かにその通りなんだが、そこは配給会社の光線伝媒にとっては、掛け金の一部でしかなかったはず。

「公開規模の大きさ」以前に「外国映画輸入枠を使う」「緊急的な公開」の2点でも大きく賭けてる。

日本での公開から僅か1ヶ月で上映日程発表してるということは、買い付け交渉の開始はまず確実に日本での公開前だ。

すなわち日本での大ヒットという実績が出る前に、確実に稼ぐ使命のある外国映画枠を一枠使う決断をしてる。

しかすると君名を今年中に公開するために、買い付けてた他の外画1本お蔵入りにして枠作ったのかもしれない。

字幕準備や上映スケジュール調整は特急でやる(その辺は中国企業の得意技だ)にしても、公開自体も異例なまでに早かった。

無名監督アニメに火をつけるには日本ウォッチしてるようなアニヲタ連中の口コミ(=SNS)が必須から

「彼らの間で話題になってる内に」と急いだのだと思う。

なにせ中国には検閲がある。外国映画なら公開日程だってお上の内諾が(非公式だが)必要

物があれば即上映できる国ではないのだ。

最近は綱紀粛正で「賄賂で何とでもなる」わけじゃないのでその辺の許可が間に合うかどうか自体も賭けだったはず。

日本感覚で考える以上に光線伝媒はハイリスクを取っている。これに賭けて宣伝費とスクリーン突っ込んだ担当者

相当の度胸と嗅覚を持ってる敏腕だと思う。

中国映画市場可能性について

君の名は。」の中国大ヒットで「アニメ映画中国市場で稼ぐといいいんじゃね?」という意見散見されたが、

上述の事情を鑑みればそれは現状寝言しかない。

今年は確実に1兆円超えてくるであろう中国映画市場だが、そこで邦画が稼げる額は基本的に「邦画合計で」

「数億円x数本/年」にしかならないのだ。b.枠を全世界映画と争う以上これが上限。

(そして映画上映以外では海賊版との戦いだ)

もちろん外国映画輸入枠の撤廃があれば別だが、ずいぶん以前からWTO非関税障壁として問題にされているにも

関わらず、この制度は続いていて、近々に撤廃されるとは思えない。何より中国政府撤廃動機がない。

(もちろん中国のことであるから鶴の一声で一晩でひっくり返るかもしれないが)

「十数年、あるいは数十年かけてハリウッドを越える知名度ブランド中国で築いてa.枠に食い込むのだ」

という長い目での種まきをやる話(無理ゲーっぽいですがw)ならともかく、日本映画業界の当面の飯の種

として考えるのは制度的に無理な市場なのだ

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