今季のAFCアジア・チャンピオンズリーグを制したKリーグの全北現代には、韓国サッカー界を代表するストライカーがいる。
イ・ドングッだ。19歳で1998年のフランス・ワールドカップに出場し、2000年シドニー五輪、2000年アジアカップ(得点王)、2010年ワールドカップにも出場。国際Aマッチ出場歴は103試合33得点を数え、ブレーメン(2000-2001年)、ミドルズブラ(2006-2008年)などヨーロッパでもプレー。Kリーグでは得点王1回(2009年)、アシスト王1回(2011年)、シーズンMVPに至っては4回(2009、2011、2014、2015年)を数える。
Kリーグでは2013年からリーグの最高年俸トップ3を公開しているが、韓国人ナンバーワンは常にイ・ドングッであるほどだ。
(参考記事:韓国Kリーグも公開する選手年俸。Jリーグと比べてみると……)
11月下旬、そんなイ・ドングッにアジア制覇の舞台裏と12月8日から開幕するFIFAクラブ・ワールドカップへの意気込みを聞くべく、全北現代のクラブハウスを訪ねた。そのインタビューを2回にわたって紹介したい。
―ACL優勝、おめでとうございます。かねてからアジア制覇を目標として掲げてきただけに、感慨深いものがあったのでは?
「そうですね。試合終了を告げるホイッスルが鳴った瞬間、言葉では表現できない喜びが心の底から湧き上がってきましたよ。長く選手生活を続けてきて良かったなぁとも思いました。よくやったぞ、自分みたいな(笑)」
―気づけば今年でもう38歳(韓国の数え年)です。年を取りましたね。
「ええ。でも、記者さんだって年を取ったじゃないですか(笑)。知り合ってもう20年近いですよね。そういえば、あのときのみんなは元気ですか?」
■決勝の夜、小野、小笠原、播戸らと交流
―1998年アジア・ユースのメンバーたちのこと、ですよね?
「みんな元気ですよね? 小笠原は鹿島にいますよね? 小野伸二は元気ですか? 播戸(竜二)は今、どこのクラブでプレーしているんですか? あ、鹿島には小笠原だけじゃなく、中田浩二と10番の…えっと…本山(雅志)だ!! みんな、どうしています?」
―小野選手は稲本潤一選手とともにコンサドーレ札幌にいますし、播戸選手は大宮アルディージャです。中田浩二選手は去年引退し、本山選手はギラヴァンツ北九州というクラブで今も現役を続けていますよ。
「中田浩二、引退しちゃったんですか…。ま、僕たちもキム・ウンジュンやパク・ドンヒョクなど、ほとんど引退しましたから。韓国の98年アジア・ユース組で今も現役なのは、僕だけですよ(苦笑)」
―やっばり、あのときのメンバーは気になりますか? アジア・ユース決勝戦を終えた夜、日本の選手たちと韓国の選手たちが夜通しで語り明かした“チェンマイの夜”は、通訳を務めた私にとっても忘れられない思い出です。あの日の夜のことは今でも忘れられません。
(参考記事:日韓サッカー黄金世代たちが語り合った伝説の“チェンマイの夜”)
「今でも思い出すと、心が熱くなりますし、みんなが懐かしい。お互い、夢や希望にあふれた若い頃に出会った仲だし、あのときは本当に楽しかったから。試合での激しさがウソのように、みんなで笑い転げて(笑)。あの夜の出来事があって以来、ACLや代表の試合で顔を合わせると互いに目配せして挨拶もしたり…。それに僕もあれからいろいろ挫折を経験しましたが、小野や小笠原など日本の選手たちも紆余曲折があったでしょ? そういったものをすべて乗り越えながら、それぞれが立派な選手になった。国もプレーするリーグも異なりますが、同じ時代を生きて頑張ってきた同志という感覚が、間違いなくあります」
■Kリーグでプレーする日本人選手の評価
―単なる対戦相手ではない友情があるわけですね。
「それに何よりも嬉しいのは、多くの選手が今でも現役として活躍していることですよ。それを聞いただけで、気分がいいし、とてつもなく誇らしい。僕も頑張っいますが(笑)、日本のみんなも頑張っているんだなぁって。だってそうでじゃないですか。30代後半になって、今でも現役でいられるということは、技術や実力が錆びつかず、認められている証拠。チームに必要な選手として、評価されている証だと思うんです。僕が言うものもなんですが、日本の98年アジア・ユース組は、本当にスゴいですよ」
―日本では三浦知良選手のように、上には上がいますから(笑)。韓国ではどうですか?今やイ・ドングッ選手がフィールドプレーヤーとしては最高齢です。年下のパク・チソンやイ・チョンスら2002年4強戦士の引退後の現在と比べても対照的です。目指すは、“韓国の三浦知良”ですか?
「いえいえ。僕は三浦選手の年齢まで難しい(苦笑)。それに、ベテランに対する見方という点で、韓国と日本ではかなり異なります。日本では素晴らしい選手として評価されれば、いつまでもファンから愛され、メディアからも大切にされると思うんです。三浦選手が良い例ですよね。
でも、韓国ではそうはいかない。実力が伴わなければ、ファンやメディアといった大衆から忘れられてしまう。人気や名声が評価されたり、実力以外の影響力などが惜しまれることもない。ただ、純粋にチームの戦力として必要か否かだけが問われる。歳が多い選手がKリーグで生き残るためには、実力、技術、体力などをすべて完備した“戦力”でなければならない。“戦力”にならなければ、ファンに愛されクラブに貢献した功労者であっても容赦なく切り捨てられる。シビアですよ」
―そんなKリーグで最近はFCソウルの高萩洋次郎選手、蔚山現代の増田誓志選手など、日本人選手たちも活躍するようになりました。彼らをどう評価しますか?
(参考記事:サッカー専門誌による日本人Kリーガーへの容赦なき“格付け”4段階査定評価)
「彼らだけでなく、これまでも多くの日本人選手がKリーグにやってきましたが、ふたりとも単年ではなく、1年以上もKリーグでプレーし、それぞれのクラブで確固たるポジションを掴んでいますよね。日本のサッカーファンがそれをどう評価しているか、わかりませんが、これは凄いことだと思います。
というのも、Kリーグは非常にタフでハードです。もちろん、そういった要素は日本サッカーにもありますが、その度合いが韓国のほうが激しい。特に中盤のフィジカル・コンタクトはときとして“潰し合い”という様相を呈するほど荒々しい。そんなKリーグで彼らが生き残っているということは、彼ら自身が強さとたくましさと激しさを身に着け、プレースタイルの韓国化に成功したと評価できると思います。高萩にしても増田にしても、相当に努力したと思うんです。彼らはもっと評価されるに値する選手ですよ」
(後編につづく)
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