4/91
4話 異世界で食うカップ麺は美味すぎた
追手がこない内に町を出る必要があったので、数日分の食料などを買い込んでからガルゼンたちと出立した。
麻袋が意外とがさばって邪魔なので、いつかアイテム収納できるスキルを覚えたい。
旅は野宿が基本らしいけど、この王国は盆地で気候も暖かいから風邪をひくことはないだろう。
街道を歩くこと数時間、ゴブリンなどの魔物に二度襲われたがいずれも三人が対処してくれた。
ガルゼンたちは俺の歩行速度に合わせてくれるので、疲労感もあまりない。
「日も落ちてきたな。早めに野宿に移ろうぜ」
ガルゼンの一声を受け、樹木に囲まれた場所で野宿をすることにした。夕食は先ほど購入した物を食すことになったのだが、これが泣きたくなるほどまずかった。
ぼそぼその黒パンにしなびたリンゴ、それから生のキュウリである。
特に黒パンは日本で買える黒パンとは次元の異なるまずさだった。そもそも日本の黒パンは柔らかい白パンに色を塗ったものだが、こちらはほぼライ麦で作られていて堅くて酸っぱい。
胃が完全拒否しちゃってるもんな……。
しょうがないのでガルゼンたちに全部あげることにした。三人も不味いと感じているようだが、食わなきゃ生きていけないとガツガツ口に放り込む。
サバイバルだな……日本人にはキツい……。
「ちょっと用を足してきます」
「この周辺には魔物はいないから、ゆっくりしてきな」
「はい」
俺は場を抜け出して、三人の視界に入らないであろう樹木の陰まで移動する。
そして物質交換を使って、カップヌードルの一覧表示を要求する。俺だけに見えるウインドウが展開された。
表示は俺の意志一つでスクロールしたりできるので楽だ。
カップヌードルは120とだいぶ安いので一食くらいならイケるとポチろうとして……ハッとする。
……お湯がないんだけど……。
ついでにいえば箸もない。
出来上がった状態で箸付きのやつある? と心内で尋ねてみたら、はいありますよとばかりに表示が一新された。
カップヌードル(お湯入れ三分経過+割り箸) 200
お湯と箸高けえな!
それならと……それぞれ単品ずつ頼もうとしたら割り箸が60でお湯が300mlで50なので、より高くつくことが判明してゲンナリした。
そもそもお湯ってそのまま手の内に出てくるのだろうか? 火傷しちゃうな。
ここは素直にセットヌードルをいただくことにした。待つ必要がなくて安いなんてお得すぎる気がしてきた。
搾取されてんな俺……。
カップヌードルが手元に顕現し、早速いただこうとしたとき、ガサガサと草むらから音が届いた。
「だ、誰かいるのか?」
空気が一瞬で緊迫し、わずかな沈黙の後に聞こえてきたのは――――「にゃーお」という猫の鳴き声だった。
なんだ猫か、ビックリさせないでくれよ。
姿は見えないので逃げてしまったのだろう。
さてはカップ麺の匂いにつられてやってきたクチだな? 少しくらいなら分けても良かったのに。
ゆらゆらと湯気のあがった、アツアツの麺を俺はすする。口の中が麺の感触としょうゆの風味で満たされる。
「う、美味い…………俺は十七年間、なんてすごい国で過ごしていたんだ」
こちらにきて食したどんな食べ物よりも、この安価なカップ麺が美味いってどういうことだ。
食べ終わると腹は満たされたけれど、代わりに強烈なホームシックにかかってしまった。
マンガも読みたいし、ゲームもやりたいし、アニメも見たいし、ジャンクフードも食べたい。
そして家族にも会いたい……。
あれ、家族はともかく他のやつは物質交換で普通に叶えることができるんではないだろうか。
さすがに母親とかは無理だろうけど……
無堂幸江 99999999
このまさかの結果に、俺はしばらく場を動けなくなってしまうのだった。
マ、マジですか、母さん。
9999万って……。ちょっと待てよ、なら父さんもイケるのか?
無堂智徳 20000000
母さんの四分の一だと!? なんでだよ、父さん結構優秀なんだぞ。
いやまぁ……世界トップレベルの研究者で、いずれノーベル賞を取るといわれている母さんに比べたら地味かもしれないけど。
でも人まで交換できるって、物質交換ハンパないぞ。これ首相とかもイケちゃうのか?
阿倍野甚三 80000000
おおぅ……八千万……。
とりあえず、母さんが凄いってことだけはわかったよ。
翌日、日が上ると同時に移動が開始され正午くらいまでは順調に歩を進めることができた。
昼食を食べ終わると、ガルゼンが俺の剣を眺めながら不思議そうな顔で尋ねてきた。
「剣を学んだりする気はあるのか?」
「そうですね。できれば、習いたいなって。レベル上げもしたいですし」
「手伝ってやろうか?」
「いいんですか?」
「ついて来な」
いざという時戦力にするつもりなのか、ガルゼンたちは俺のレベル上げをサポートしてくれるようだ。
しかも内容は非常に安全かつ効率が良いもので、ガルゼンたちが傷めつけた魔物のトドメを俺が刺すというもの。
敵はこの辺りでは最も多いゴブリンだ。顔が醜いチビ魔物だが俊敏性が高く、鋭い爪もあるため中々どうして侮れない相手である。
ガルゼンたちが武器を使って瞬く間にゴブリンの両腕を削いでしまう。
さすがに冒険者は違うなという感心とエグイなという感想が交じったが、ポイント獲得のために弱音は吐かないことにした。
ていっ。
剣を袈裟がけに振り下ろす。ギャ!という短い悲鳴をゴブリンは漏らして地面に崩れ落ちる。
ピクピクと痙攣しているところを見るに、ダメージは通っているが致命傷ではない?
「あーそれじゃダメだ。踏み込みが浅いんだよ」
「踏み込みですか……」
「ちょっとビビってるだろ?」
恥ずかしながら見透かされてしまい、俺は頭を掻きながらうなずく。前に聖川たちに手伝ってもらった時もそうだったのだが、根本的に戦いに慣れていないから恐怖心が先立つのだ。
反撃が怖いといいますか。
ま、顔も怖いけども。
今、ゴブリンは両腕がない。だから一方的に攻撃できるはず。そう心では理解しても肉体がビビってるという。
どんだけチキンなんだ俺は……。
「ま、誰でも最初はそんなもんさ。ただ覚えておくことが一つある。中途半端な攻撃ほど危険なものは無い。あんたが今やってることは、死の道に一番近いことなんだ。己の全てを乗せていない一撃で化け物どもに勝てるはずがない。己の剣に覚悟を乗せなきゃダメだぜ」
優れた訓導に俺は強く心を動かされてしまった。さすが冒険者なんて危険な職業に就いている人はひと味違っていてカッコいいな。
俺は覚悟を決めてゴブリンの心臓に剣を突き刺す。
ポイントを確認すると三百ポイント増えていて思わずガッツポーズを作る。
いやね、魔物倒してカップラーメン三個買えないって冷静に考えたらハードだけど。
ガルゼンいわく、同じ魔物でも強さによって入る量は異なるようだ。
魔物にまレベルとかあるんだろう。
と、そこで俺は今更ながらステージを2に上げることを忘れていたことに気づく。
スキルはとっくに二個以上極めているので条件は満たしている。
ステージアップは意志一つで行えた。ステージ2のスキルも四つあるようで内容は、しゃがむ 250P、腹筋 300P、がに股歩き 250P、ウサギ跳び 350Pとなっている。
これまたクソスキル認定されそうなのばかりだが、ステージが低いから仕方ないのだろう。
ウサギ跳びとか地味にキツそうだから嫌だな。
いくつかは修得できるけど、まだポイントも少ないし取らないでおくことにした。
物質交換の方が便利すぎるので、しばらくはこちらにポイントを使うことが多くなる。
「どうする、そろそろ出発するかい?」
「あの、できればもっとポイントが欲しいんですけど」
「オーケー。じゃあ今日は魔物狩りしがらゆっくり進もうか」
「お願いします」
その後、俺はガルゼンたちに手伝ってもらって魔物を狩りに熱を入れた。ポイントがザクザク入り、最終的に約三千ほどの貯蓄ができた。
途中でレベルが三にあがり、ボーナスとして五百Pもらえたのも大きかった。
夜にはまた一人抜け出して物質交換で腹を満たす。昨日はヌードルだったのでペヤンガソース焼きそばをいただいた。
焼きそばのソースがたまらん。青ノリとコショウのトッピングも最高だ。
そんな風に食事を楽しんでいると、ガサッとまた草むらから音がした。声をかけたら、また猫の鳴き声が返ってきた。まさか昨日の猫?
よほど俺のカップ麺が食べたいのだろうか?
逃げないなら、分けてあげるってのに。
次は姿くらい見せてくれよ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。