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1664年12月5日、イギリス、ウェールズのメナイ海峡で1隻の船が沈没した。乗員81名が死亡。ヒュー・ウィリアムズという男が唯一生き残った。
1785年12月5日、メナイ海峡でまた別の船が沈んだ。またもやたった1人を残して全員が死亡……生存者の名はヒュー・ウィリアムズである。
さらに1820年12月5日、メナイ海峡で沈没事故が発生。唯一の生き残りはそう、ヒュー・ウィリアムズであった。
イギリスに、信じられないような偶然を伝える記録がある。年は違えど12月5日に船が沈没し、唯一生き残ったのがヒュー・ウィリアムズなのである。
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資料によって違いはあれど、生き残りはすべてヒュー・ウィリアムズ
この伝説に関する資料はいくつかあって、別の資料には、12月5日ではないという違いはあるが、ヒュー・ウィリアムズという人物が生き残ったさらに2隻の英国船の沈没事故について記されている。
そのうちの1隻では2名の生存者がいた。叔父と甥で、2人ともヒュー・ウィリアムズという名であった。生存者が2名いたとはいえ、”唯一の生き残りがヒュー・ウィリアムズ”だったと言っても差し支えないだろう。
このストーリーは海外サイトのいたるところで見かけるが、それについての説明は一切なされていない。北ウェールズに関する書籍に記載されていた伝説を繰り返しているだけであった。
このストーリーは海外サイトのそこかしこで見かけるし、日本のウィキペディアにも記載がある。だが詳しい説明はなされていない。
この伝説は、おそらく口承文学についての素晴らしいケーススタディとなるだろう。センセーショナルかつ簡潔で、ヒュー・ウィリアムズという男たちにまつわる奇妙な偶然の一致を端的に伝えている。
image credit:youtube
伝説で語られなかったあまりセンセーショナルではない事実
メナイ海峡では多くの船が運航しており危険な航路だった
まずメナイ海峡は非常に危険な航路である。海運に大きく依存する島国イギリスで最も天候の影響を受ける地域の一つであり海難事故が発生しやすい。しかもウェーズ沿岸北部は大量の船が通過する。船の数が多ければ、それだけ沈没船も増える。
残念ながら北ウェールズ沿岸の当時の詳細な地図が見つからなかったが、以下の地図でも長年の間にいくつもの沈没事故が発生したことは確認できる。
北ウェールズの難破船。R.J. Karn、『Planaship Maritime Publications』、Cornwall、1984年より抜粋。
伝説はまるでメナイ海峡を航行した船が3隻しかないかのように語られているが、実際は300隻近く事故も頻繁に起きていたということだ。
image credit:youtube
12月は特に事故の起きやすい月
さて、次は日付についてだ。これを確認できる資料は見つからなかったが、メナイ海峡の沈没事故の大半は冬季に起きているのではないだろうか。ウェールズの典型的な気候を調べれば、初冬は湿度と風と嵐で悪名高い季節であることが分かるだろう。しかも海水は非常に冷たい。
12月5日はまさに不安定な季節の真っ只中であり、凍てついた海が事故が起きた際の死亡率を高める。
image credit:youtube
ヒュー・ウィリアムズはありふれた名前
最後に名前だが、”ウィリアムズ”という姓はウェールズではちっとも珍しくない。そして”ヒュー”もまたウェールズでは非常に人気のある名前である。
したがって生存者全員の名がヒュー・ウィリアムズであったとしてもそれほど不思議ではないのだ。
image credit:youtube
つまり真実は
船の墓場である危険なメナイ海峡においても年間で特に危険な時期のたまたま同日に3隻が沈み、唯一の生き残りが非常によくある名前の人物であった
ということなのだ。
だが、それを聞いてもちっとも面白くないだろう。例え真実の物語であっても、一部を隠し類似点をつなぎ合わせるだけで人々の好奇心を掻き立てる。
その後はもうその物語は独り歩きを勝手にはじめてくれる。人々が想像力を膨らませ、様々な脚色がつけくわえられ、壮大なミステリーへと変貌するのだ。
人は信じたいものしか信じない。いったん信じてしまうとそれを裏付けるために都合のよい情報だけを集めて自分を守ろうとする生き物なんだ。
via:hoaxorfact・thescuttlefish、youtubeなど/ translated hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
ジョン・スミスみたいなもんか
2. 匿名処理班
コブラ「ヒューッ」
3. 匿名処理班
2度とテメーとは船に乗らねえ。
4. 匿名処理班
ワラタ号も不吉な船でこの名前付いた船全部沈没してるし
いまだ調査しても見つからんというおっかない船
タイタニック同様どこの舟会社も二度とつけないだろうな
5. 匿名処理班
同姓同名の人が同じ目にあってたら面白い
同じ日にサイフ落としたとか
6. 匿名処理班
40年ぐらい前の学研の本で読んだ記憶が
7. 匿名処理班
バミューダ・トライアングルみたいなもんなのね。
8. 匿名処理班
それでも割りと奇妙に感じるのは私だけ?
9. 匿名処理班
メナイ海峡に入る前にヒュー・ウィリアムズに改名する事で生還するライフハックを思いついた
10. 匿名処理班
船とか会社の名前をヒュー・ウィリアムズにすれば・・・
11. 匿名処理班
300隻も沈没、ありふれた名前。
もしかしたら生き残ったヒュー・ウィリアムズさんの他に、
亡くなったヒュー・ウィリアムズさんも沢山いたかもしれないって事だね。
12. 匿名処理班
トーチウッドのジャック・ハークネスかと思うた
13. 匿名処理班
息も絶え絶えで救助された人の正しい氏名が判明するまで、暫定的に「ヒュー・ウィリアムズ」と呼んでただけだったりしてな
14. 匿名処理班
これ船を沈める工作員の定番偽名なのでは?って考えがよぎった、ありふれた名前を使い事故が珍しくない時期を狙い
ただまあ日付一致させると目立ちすぎだよね
15. 匿名処理班
亡くなった方々の中にも多数のヒュー・ウィリアムズさんがいるってことかな
16. 匿名処理班
ちょっと違うけどライフオブパイみたいなもんやな
17. 匿名処理班
昔の記録だしそもそもあてにならない
18. 匿名処理班
陰謀論的にいうとヒューウィリアムズは何かの符丁だ。おそらくは金塊…
とかね。
19. 匿名処理班
漂流にまつわる偶然の一致と言えば
1884年、ミニョネット号事件で漂流中に食われた少年の名前:リチャード・パーカー
1837年、エドガー・アラン・ポー「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」で漂流中に食われた少年の名前:リチャード・パーカー
ていうのも、
ちなみに、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』って映画では主人公と一緒に漂流したトラの名前がリチャード・パーカーになってる
20. 匿名処理班
ただまぁ、12月5日っていう偶然の一致だけはなんだか不思議だね。
21. 匿名処理班
乗った軍艦がことごとく沈むけど自分は助かるという
黒猫のオスカー(不沈のサム)みたいな話かと思ったら少し違った
22. 匿名処理班
船乗りの符牒で生存者の事だったりして。
23. 匿名処理班
リチャード・パーカー