酔っ払いの多少の下ネタを笑って流せる程度の、ある意味でおおらかな、ある意味で毒された感覚は持っている。
目くじらを立てるほどでもないから、不愉快は不愉快だけれど笑って流せる。
酔っ払った上司が言う「ディープキスする?」という類の冗談は、正直どこの職場でもあり得そうな気がしているし、そんなの親戚のおじさんにだって言われてきた。
接待帰りの帰り道、「寒いから手を繋ぎたくなってきちゃったな」と言って、上司が私の手を掴む。
私はその手を払いのけて「あ、それは別料金なんで!」と冗談にしてしまう。
いつもそうやって誤魔化している。不愉快だけど、相手も酔っ払っているし、本気なわけはないんだし、強く言うと面倒臭そうだし……。
そうしてへらへらかわし続けている。
一瞬のことだ。その瞬間、とてつもなく不愉快なだけで、仕事をしているだけなら普通にいい人たちだ。
騒ぎ立てるほどのことでもない。
そう思いながら、今までやってきていた。
1週間前、新入社員の女の子と、セクハラおじさんたちと一緒に飲む機会があった。
セクハラおじさんたちは例の如く、お酒と冗談を巧みに持ち込んで、セクハラじみた言動を重ねる。
私の正面に座っていた新入社員の女の子は、私と同じように笑いながら、ときに諌めながら、セクハラおじさんたちをかわし続けていた。
彼女は嫌そうな素振りも見せず上手く笑いに変えていて、なんだか場が盛り上がっているようにすら見えた。
みんなこれくらいのことは当たり前にかわせるのだろうか?
それとも私みたいに不愉快さを抱えながらも、かわしているのだろうか?
もし彼女が不愉快さを抱えながらも、貼り付けた笑顔でこの場をしのいでいるのだとしたら。
へらへら笑いながらかわし続けていたせいで、「ここまでは大丈夫」というラインを作ってしまったんじゃないかと唐突に怖くなった。
いちいち騒ぐのは面倒くさいし、かわせるならかわし続けて適当にしておきたい。
でも面倒くさがってへらへら笑っていたせいで、私のサボりのせいで、誰かを困らせる日もそう遠くないように思われる。
騒ぎ立てるほどのことでもないけれど、うまくやりすぎても駄目な気がする。
仕事に影響が出るのは嫌だけれど、これが当たり前の対応と思ってもらっちゃ困る。
加減が分からない。
本当にセクハラが難しい。