大河ドラマ『真田丸』 特別インタビュー
片桐且元役  小林 隆さん

徳川との戦いの前に大坂城に残りたいけども、自分がいることで豊臣の足並みが揃わなくなるのなら、もう出るしかないだろう。答えは一つしかない、そんな思いでいたのでしょう。

2016.12.05

―且元さんというと、豊臣と徳川の調整役・交渉役で、さらに豊臣家の中でも板挟みになって胃を痛めるというシーンが描かれていますが、且元さんをどんな人物と見ていますか?

 今回とっても情けない人間になっていますけど、最初は坪内逍遥の『桐一葉』をイメージしたんです。脚本家からも最初はそういうイメージと言われていて、「せっかくの大河だからカッコよくいきたいよね」とね。「でも、めちゃくちゃ情けなくても面白い役かな」とも言ってたんです。どうも、そっちに舵を切っちゃったようです。且元は三成と同じで北近江の人間で、秀吉が長浜城の城主、あのあたりを治めるようになってから、秀吉が若い優秀な人材を登用しようということで選ばれた。三成も且元もそうだった。秀吉が見込んだぐらいだから、やっぱりできる人間ではあると思うんですけど、でも、周りに飛び抜けて優秀な三成がいたもんで比べられて。やっぱり差があるんでしょうけど、逆にとても人間っぽいっていうかね。三成ばっかりじゃ成り立たないし、且元みたいな人間ばっかりでも行き先困るでしょうけど、そういったなかのひとりで、何をやっても裏目、裏目に出る。人生の間が悪いというかね。それが今回の且元。
 そういう人っているじゃないですか。実は、私も結構そういうところがあって、「なるほどね、こういうところがあるから脚本家は見込んで書いてるのかな」と考えた。関ヶ原以後、特に徳川と豊臣の間で政治的な、かなり高いレベルでの政治交渉、判断をしなきゃいけない人間だから、描かれているキャラクターはズッコケだけど、絶対そこは押さえていようとずっと思っていたんです。ところが、出てくる本がああだから、当初のキャラクター設定をもう保てないっていう気分になった。
 秀吉の子供を揶揄した落首のことを報告しちゃったことが、もうダメです。こんなことを殿下に伝えたらダメだってことは絶対分かる人だと思うんだけど。でも、新しいキャラクターを作るわけにもいかないし、ストーリー上、僕はズッコケ且元の役割になっちゃった。
 キャラクター設定は最初随分悩んだんです。それこそ史実と作家との板挟みになって。これ、究極の板挟みですよ。
 4月末頃、大坂城天守閣の下でトークショーがあったんです。館長の北川央さんは歴史家で、詳しいんですよ。あの方は且元が大好きらしくて、会っていきなり「片桐且元はすごい人なんです」って言われちゃって、「ごめんなさい、僕のせいじゃないんです」って心の中で思っていました。館長の話では且元はとにかくすごい。彼を主人公にしてドラマができるぐらいの人なんだそうです。でも「今回はごめんなさい」です。

―且元の魅力はどこにあるのでしょうか?

 今回の且元に限らずですけど、歴史上の人物をドラマや小説で描くと、どうしても少し盛っちゃうというか、立派にイメージしちゃいがちでしょう。本当は人間的な部分っていうのをそれぞれが持ってて、等身大の歴史上の人物というか、本当はこんなもんだったんじゃないかと思う。歴史に名を残したからって常にその瞬間、瞬間で立派な功績がある、なんてことはなかっただろうし。家康だって今回はこれまでにない描き方してる。でも最後は勝利者ですね。それぞれのキャラクターに対して人間味がきちんと描かれている。且元の場合は良かれと思ってやってるんだけど、裏目、裏目に出ちゃうところ。
 大坂城を去るシーンは特にね。
 あれほど太閤殿下から「秀頼を頼む。秀頼を頼む」って言われて、そのつもりでがんばったけど、関ヶ原で三成がいなくなり、形部がいなくなり、清正も亡くなっていて、本当に且元しかいないっていう状況になってしまった。孤軍奮闘するんですけど、いかんせんひとりじゃ…。
 徳川との戦いが近くなると、もう、ひとりでしゃべってる。信繫に話すっていうかたちで、方広寺の鐘銘事件を且元の回想シーンで描いている。