動物写真家・岩合光昭さんに聞く「ネコへの思い」
日経ウーマンオンライン
近年、テレビCMやドラマ、SNSなどを中心に、ネコが人気を集めている。その経済効果は「ネコノミクス」と表現されるほどだ。そんなブームを横目に、動物写真家の岩合光昭さんは長年ネコを撮り続けてきた。2012年に始まったNHK BSプレミアムの『岩合光昭の世界ネコ歩き』は人気を集め、ネコが番組を見ている様子がSNSにあげられ、ネコの視聴率まで高いと話題だ。
岩合光昭(いわごう・みつあき)さん 1950年東京生まれ。地球上のあらゆる地域をフィールドに活躍する動物写真家。その独特の色やコントラスト、想像力をかきたてる写真は、日本のみならず、世界的にも高く評価されている。一方でライフワークともいえるネコの撮影にも力を入れており、NHK BS『岩合光昭の世界ネコ歩き』が好評放映中。写真展「ねこ」「ねこ歩き」「ネコライオン」などが各地で巡回中。ネコへの思いをつづった『ネコへの恋文』をこのほど発売。
「ネコの撮影を始めて、もう40年ほどになります。野生動物の撮影もしていますが、ネコほどの反響はないんです。最近、全国津々浦々、どこへ行っても『あ、ネコのおじさんが来た!』みたいに言われるようになりました」
そんな「ネコのおじさん」岩合さんが考えるネコの魅力とはなにか。
「家畜はひもでつながれていますが、ネコは家畜の中で唯一といっていいくらい、ひもでつながれていない希少な存在だと思うんです。ネコは自由で、ヒトの思い通りにならない――。そこが大きな魅力だと思います。
犬の飼い主の方は、なぜ犬が好きかというと、壁のない関係、それこそ『ネコ可愛がり』できる側面があると思うんですね。犬のほうも、ご主人のいうことを聞くのが喜びになっているので、それを良しとしています。でもネコは違いますよね。そもそも飼われているだなんて思っていない気がします。そこにはるかな隔たりがあると思っています」
さらに、岩合さんが着目するのが、ネコに感じられる「野性」だ。
「現代人は、都市型生活のおかげで、本来持っているはずの野性の部分を使うことがなく忘れてしまっています。ネコやイヌを見ると、『え?こんなことをするの?』と驚かされ、野性を呼び覚ませられるような気がしています。その驚きの頻度が、ネコは、人に寄り添う犬よりも高いのだと思うのです。そんなネコの魅力を知ってもらって『ネコの味方を増やしたい』というのが、僕の思いです。それがBSの番組を最初に作るきっかけにもなりました。ネコのことを考えるきっかけに、僕の写真や映像が役に立ってくれたらうれしいなと思います」
『岩合光昭の世界ネコ歩き』では、日本そして世界の街角や風光明媚な大自然に暮らすネコを訪ね、その愛らしい表情、野性的な行動の数々を映し出していく。
「撮影は楽しいけれど、本当に大変です。毎回実質9日間で撮影しますが、『まだ1時間分にならないぞ』というときは焦りますね。想定していたネコが1分も撮れなかったこともあって、そのときはまいったなと頭を抱えました。ロケハンのときにいたネコが姿を消していなくなっちゃったり。そういうときは『途中のあそこにも確かネコがいたよな』とか、道行く人に『ネコ知りませんか』と聞いたり、急きょ別のネコを撮影します。放送しているのはたくさん取材しているうちのごく一部です(笑)」
このように、世界各地でネコを撮り続けている岩合さんがこのほど『ネコへの恋文』というエッセー写真集を出版した。
「表紙の写真は、宮城県田代島の親子のネコです。島にはネコたちに卵ご飯ををあげているおばさんがいるんですが、その近くで撮りました。最初、子ネコだけが遊んでいたので、このコはかわいいなーと思って写真を撮り始めたら、ご飯の時間になって親ネコたちも集まってきたんです。同じ模様の猫が来たので見ていたら、クルッと丸くなって授乳を始めたので、あ、まさに親子だなと思いましたね。
写っているのは、『甘える』という、子ネコにとって大切な命の凝縮の瞬間です。子ネコが生きていくためには、母ネコとのやりとりがすべてなんですよね。母親のニオイをかぐと、今日の機嫌の良さ、今日は何を食べてきたのか、まだ食べていないのか、そういうことを一瞬で判断するわけです。だから甘えるというのはけっこう重要な行動なんですね。またお母さんのひげが前に出ているのは、お母さんも子ネコのことを探ろうとしているんです。こうやって子ネコの体調をみているんでしょうね」
エッセー集のなかには、犬との仲の良さを切り取った写真も多い。下はスペインのシエラネバダでの写真だ。
「この子ネコ、犬が勢いよくなめるので頭がフラフラしてたんですよ。いい迷惑なんじゃないかなと思いましたが、そのままずっといました。この家のお嬢さんがネコも犬も大好きで連れてきてくれたんですが、子ネコは家に来たばかり。この家になじむためには昔からいる犬に気に入られないといけない。大げさなようですが、庇護されてなくては生きていけない子ネコにとって、それはとても重要なことです。子ネコもそれがわかっていて、なめられようが押さえつけられようが、ここは我慢のしどころ、と踏ん張っていました。小さいながら生きる知恵を身につけています」
ネコは警戒心が強く、打ち解けるのに時間がかかるもの。だが岩合さんが撮るネコたちは、どのネコもふだんの素顔を見せてくれている。カメラが好きなネコもいるのだろうか?
「津軽のりんご農園に暮らすネコの一家を撮り続けているんですが、リッキーというオスは勘のいいやつで、僕が行くと明らかに『おまえ、また来たな』って顔をして、カメラを向けるとキリッとした男前の顔をするんですよ。生まれた時から撮っているので、カメラ慣れしすぎちゃったかなと苦笑いしています。ほかにも、一緒に暮らした海ちゃんというネコは、モデルみたいに、カメラを向けると意識して自ら動いてくれるようなネコでした。
そういう、カメラを意識するネコっているんです。この間もスリランカで、そういうネコに会いました。何かしなきゃいけないと思うみたいで、ホテルの看板に飛びついて、また戻ってきたりして。『そんなこと、僕は望んでないよ』と話しかけたんですけどね(笑)。レンズが向こうを向くと座って横になるんですが、またレンズを向けたら動き始めるんです。レンズというより、こちらの意識がそのネコに集中するからなのかもしれませんね」
(ライター 郡司真紀、ネコ写真提供 岩合光昭、構成 白澤淳子=日経ヘルス編集)
[nikkei WOMAN Online 2016年11月25日付記事を再構成]
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