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人道犯罪や戦争犯罪を、「勝者」ではなく普遍的見地と中立な立場から裁く―…
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人道犯罪や戦争犯罪を、「勝者」ではなく普遍的見地と中立な立場から裁く――。この理念のもと、国際刑事裁判所(ICC)は2002年、オランダのハーグに設けられた。
日本を含む120カ国以上が加盟する常設の法廷として、少年兵を徴用した武装組織の元指導者や、住民殺害にかかわった政治家に有罪判決を言い渡すなど、実績を重ねてきた。
ところが、南アフリカ、ブルンジ、ガンビアのアフリカ3カ国が最近、ICCからの脱退を表明した。さらにロシアが加盟に向けた手続きをやめると発表し、フィリピンのドゥテルテ大統領も脱退を示唆した。
国際社会に「法の支配」を浸透させる長年の努力に背を向ける動きであり、看過できない。
アフリカ諸国の一部には「ICCがアフリカの指導者を狙い撃ちしている」との不満が広がっているという。
確かに、これまで有罪判決を受けた4人は、全員がアフリカ出身者。正式に捜査が行われた10件のうち9件がアフリカで起きた事件だ。
しかし、5件はアフリカ各国の要請で捜査が着手されたものだ。裁かれた行為の被害者もまた、アフリカの人びとである現実も忘れてはなるまい。ICCはアフリカ以外の事件の予備捜査も進めており、「狙い撃ち」との見方は誤解である。
3カ国は1年後の脱退発効までに方針を改め、ICCにとどまってほしい。
一方、ロシアはクリミア半島併合、フィリピンは強権的な麻薬対策が捜査対象になることへの牽制(けんせい)とみられる。露骨な捜査逃れは、国際信用を自ら貶(おとし)める振るまいだと自覚すべきだ。
ICCの役割は犯罪者を裁くだけではない。権力者が非道な手段に訴えるのを思いとどまらせる効果や、人権意識を根づかせて各国の司法制度を向上させる効果も高く評価されている。
一方、ICCには米国やロシア、中国など大国が未加盟という欠陥がある。これでは、シリア内戦のように大国が関与する地域の蛮行が見逃されてしまうとの不信が広がりかねない。
ICCは、過激派組織「イスラム国」(IS)のテロや難民・移民の命を軽視する密航ビジネスの捜査にも意欲を示している。国を越えた脅威を司法の場で抑える取り組みは、あらゆる国の利益に合致するはずだ。
すべての国に加盟を促し、人道を守る「砦(とりで)」を強固にすべきだ。ICCへの最大の拠出国で裁判官も送り出してきた日本は、その先頭に立ってほしい。