薬の公定価格(薬価)を決める仕組みの抜本改革に向けて、安倍首相が基本方針を年内にまとめるよう指示した。

 きっかけは、高額のがん治療薬「オプジーボ」の緊急値下げだ。原則2年に1度の薬価改定を待たずに、来年の2月から半額にすることになった。

 オプジーボは当初、対象患者の少ない一部の皮膚がんの治療薬として承認され、高い価格が設定された。その後、肺がんなどの治療でも使えるようになって対象患者が拡大。1人につき年間3500万円ほどかかるため、保険財政への影響が心配されていた。

 政府の経済財政諮問会議の民間議員は、今回の見直しにとどまらず、この際すべての薬価を毎年改定する仕組みに改めることを提言し、首相官邸も後押ししている。以前からたびたび議論になってきたテーマだ。

 一方、塩崎厚生労働相は、効能追加などで使用患者が増えて販売額が急増した薬は、最大で年4回値下げを検討することや、薬価の決め方の透明性向上などを提案した。毎年改定には製薬業界が「研究開発などに悪影響が出る」と反発しており、調査に協力する卸業者の負担も大きいため、対象を絞って見直しを進めたい考えだ。

 薬の値段が下がれば患者の負担は軽くなり、医療費の抑制にもつながる。一方で、薬は安ければ安いほど良いというものでもない。すぐれた薬の開発が滞ることになれば、長期的には国民のためにならない。

 大事なのは、市場での取引価格や普及度合いなどを踏まえ、国民が納得できる薬価を導く仕組みを築くことだ。どのような方法がよいのか。実行性や費用対効果も考えながら、新たなルールを検討してほしい。

 同時に、薬の使い方にも目を向けたい。

 たくさんの薬の飲み残しのような、むだをなくす取り組みの大切さは言うまでもない。

 さらに、例えば今回問題となったオプジーボのような薬は、効果のある人とない人がはっきり分かれると言われている。どの薬がどんな人に効果があるのか、そうした研究も進みつつある。厚労省は、医師や医療機関向けに、高額な薬を適正に使ってもらうための指針作りを検討している。ぜひ作業を急いでほしい。

 安全性や効能が確認された薬や治療方法は、みんながその恩恵を受けられる。そんな日本の公的医療保険の良さを残しながら、制度を維持していく方策に知恵を絞らねばならない。