マリノスは本当に“やばい”のかー サポーターの憂鬱と、希望(下)

今季のリーグ最終戦で浦和と引き分けに終わり、肩を落とすマリノスイレブン=埼玉スタジアム

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 【カナロコスポーツ=佐藤将人】サッカーJ1の名門、横浜F・マリノスが揺れている。ベテランに対する契約更新の不手際、長年クラブを支えたスタッフの解雇に始まり、モンバエルツ監督の3期目続投に選手が公然と反対する異常事態となっている。当事者はもちろん、クラブを長年愛するサポーターも気が気ではない。「クラブ史上、最もまずい状況」「これまでにない不安感がある」。サポーターの声を拾っていくと、背景にはマリノス特有の歴史、それ故の現実が見えてくる。マリノスは本当に“やばい”のかー。何が“やばい”のか-。

アイデンティティー



 CFGがもたらした最もわかりやすい変化は、モンバエルツ監督の招聘だ。欧州に張り巡らされたネットワークを活用して選び出されたフランス人監督は、2015年の1年目は7位、2年目の今季はリーグ連覇を果たした04年以降で最低の10位と順位を落とした。

 11月21日に3期目の続投が発表されると、一部選手を中心に猛反発の声が上がる。長谷川亨社長が急遽説明会を開く事態になり、選手側からはたまっていた不満が噴出した。

 ある選手はこう語った。

 「サッカーとしても会社としても方針が決まっていない。結局すべてが緩くて、10位という結果も、選手個人の力でやり切れただけ」

 日産時代の80年代後半から応援を続ける大浦英之さん(42)は、サッカーの質そのものに疑問を呈する選手の声にうなずく。そして何より、「アイデンティティー」が忘れられようとしているのではないかと、不安に思っている。

 「やはりマリノスのアイデンティティーは堅守。隙のない守備で相手にバックパスをさせたときに拍手が起きるのが、マリノスらしさ。今季は得点も増えたが失点も増えた。攻撃的で見ていて楽しいサッカーもいいけど、ディフェンス力というものをネガティブにとらえすぎている。その意味で言えば、やはり22番(中沢)のような存在こそがマリノスの象徴。自分からすれば、最も出て行ってほしくない選手です」

 マリノス最後のリーグ優勝となる04年の連覇もそう。浦和とのチャンピオンシップはけが人続出で戦況不利のなか、守りに守って、最後はPK戦で栄冠を手にした。「エンブレムについている3つの星は、3度のリーグ制覇を表している。堅守をもとに築いたそのプライドが薄れているのではないかと思う」

 攻撃に関してもそうだ。FWカイケという目玉の補強が期待外れに終わったにせよ、「結局、2年たって戦術は齋藤学(頼み)という状態」。モンバエルツ監督は就任当初こそ縦に速く展開するサッカーを指向しているのがわかったが、ずるずるとぶれていった。

 「やっているサッカー自体に不安感が強いし、これで学が移籍したり、けがをしたらどうなるのか。さらに中村俊輔までいなくなるとしたら。このままだと来年は22番(中沢)が痛々しく体を張っている試合しか思い浮かばない。長くマリノスを見てきたけど、これほどの不安感を持ったことはない。なんとなくやれてきてしまっているが、これで堅守という看板がなくなれば、すがるものがなくなる気がする」

 だから、語ってほしい。このクラブはどういうサッカーで、どこを目指すのか。フロントからも、CFGからも、監督からも、そのビジョンが見えてこない。サポーターは別に来年絶対優勝しろと求めているわけではない。夢を見るための言葉を、そのための道しるべを聞きたいのだ。
 

夢とビジョンを



 クラブ側、そして日産、CFG側により具体的な行動を求めるサポーターもいる。モンバエルツ監督の続投が発表された11月21日。練習場には複数の横断幕が掲げられた。

選手も俺達もスタッフも車じゃない。心ある人だ。愛する家族を傷付ける奴を愛せない

選手にもファンにも愛されるクラブ作りは出来ていますか?

俺達は俊輔と優勝したい

タイトル奪取のために経験ある中堅ベテランの力も絶対に必要

社長や監督は来ては去る しかしファンとの絆は揺るがない 来年も共に闘おう


 掲出したのはスタジアムゴール裏の応援を担う、複数のサポーターグループだ。代表者らで話し合い、文言とタイミングを決めたという。コールリーダーとしてまとめ役を務める加藤拓明さん(29)は、自らのブログにその理由を記した。

 「新聞報道では監督続投に批判の横断幕というフレーズが踊りましたが、私たちが主張したのは結果に対してだけではありません。監督が2年間でマリノスに残してくれたものには感謝をしています。しかしその去就が二転三転し、最終的には親会社との調整で決まるという事はどうなのということです。マリノスがマリノスの意思で監督すら決めれない状況というわけです。変化を恐れているとか否定しているのではなく、そのやり方に異議を唱えている点をご理解ください」

 本来、練習場での横断幕はクラブから禁止されているという。リスクを承知の上で、「これほどの危機感を持ったことがないから」こその行動だという。

 理由は明白だ。「シティー側が何をしたいのか。日産が、マリノスが、シティーに何をさせたいのか。そこが全然見えてこないから」

 CFGとの提携を結実させたのは、前社長の嘉悦朗氏だった。

 「嘉悦さんがシティーとやりたかったことが、今の社長をはじめクラブ内に共有されているとは思えない。その中でシティーが送り込んだ外国人のスタッフにチームが動かされている」

 今年3月まで7年に渡って統括本部長を務めた下条佳明さんら日産OBがクラブを去る中、7月にそのポストにシティー・フットボール・ジャパン(CFGの日本法人)の代表で、J1神戸を運営する法人の取締役などを歴任した利重孝夫氏が就任した。

 「利重さんが悪いわけではないが、日産の出身でもないし、もともとはマーケティングの人。その人に強化の責任者を任せた時点で、マリノスとしての意志が感じられない。(15年12月に就任した)社長の長谷川さんも加え、一気に体制を変えすぎている。このままでは日産も、マリノスの声も届かない、ただのシティーの日本支部みたいな状況になってしまうんじゃないかと思う」

 マリノスはすでに12年もリーグ王者から遠ざかっており、何らかの変化が必要なことは間違いない。その文脈にあってJリーグで初の外国資本であり、しかも英の超強豪クラブを持つCFGとの提携は、希望を持って迎えられた。

 どんな組織であっても、一定程度の産みの苦しみ、変革に伴う痛みは不可避だ。だが提携から2年半が経過したこの冬に浮かんできたのは、フロントと現場の溝であり、選手から監督に対する不信任であり、築き上げてきた歴史の軽視という、負の側面ばかりだ。これを上回る希望(超有望選手の獲得や、クラブの明確なビジョン)が見えていればいいが、そうはいっていない現状が、不安をより深いものとしている。

 「今のクラブには夢がない」。加藤さんが言う。一部サポーターからは「不安をあおりすぎだ」と言われる行動も、ビジョンを語らせたいがための意思表示だと。「クラブに夢や目標があって、フロントからスタッフ、選手までそれに向かって一丸となれた時に、化学反応が起きて優勝争いができる。まだマリノスはなんとかなると思っている」。何より、小学生のころからずっと愛してきた地元クラブが、大好きで仕方ないのだ。

 30年近くチームを見続けてきた大浦さんは言う。「優勝とか、目指すべきサッカーとかいろいろ望むことはあるけど、クラブの一番の目的は存続していくこと」。そのために、今何をしているのか、この先何をしていくのか。それさえ明確に見えてくれば、安心してスタジアムに行ける。

 大浦さんは今年、体を壊して一時的にスタジアムへ行けなかった。痛感したのは、そこが自分にとってどれほど大切な「居場所」だったかということだ。

 「サポーターたちは自分たちが応援する場所を『住所』という。つまり家であり、故郷だと。仕事だとか年齢だとか何をしているとか、全然関係ない。ただマリノスが好きということだけで、ずっとつながっていられる。そんな居場所はここだけという人が、たくさん集まるのがスタジアム。勝ってほしいし、優勝もしてほしいけど、それよりも大事なことがある。町にサッカークラブがあるということは、とてもすごいことなんです」

 集団で語られるサポーター、ファンという人種。その少なくない「一人一人」がマリノスの現状に不安を感じていることを、フロントはもう少しシリアスに考えた方がいい。最後の最後までクラブを支えてくれるのは、彼らのような「なんだかんだいって絶対に離れない人たち」だから。

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