ぼくは再度休職した。
しかし試練はそれだけではなかった。
ある日突然、九州の実家から電話があった。親父からだ。
「お母さんが幻覚を見るようになってどうしようもない。お前の言う事なら聞くといっているから帰ってきてくれないか?」
幻覚?おふくろは統合失調症になったのか?しかしもうすでに齢68だぞ?今までそんな気配はなかったが・・・。
ぼくは本来は自宅療養をしていなければならないのだが、母は親父のことを「女と浮気している。」という妄想を信じ込んでいてどうしようもないらしい。子供はぼくひとりなのでぼくが行区よりほかがない。抗うつ薬を大量に処方してもらい実家に帰ることになった。
実家に到着したぼくは唖然とした。
本来きれい好きなおふくろだが、部屋は泥棒にでも入られたような状態になっている。しかしとにかく、おふくろと話をした。
「マイク、帰ってきたんだね。」
「うん。調子はどう?」
「お母さんはなんともないよ。神様の声に従ってテレビを見ないようにしてるし、夜寝ないようにしてるから。」
「?’&%$#!”」←(ぼくの心の中の声)
ぼくは落ち着いて聞いてみた。「神様がそんなこと言ったの?」
「そうだよ。今も言ってるじゃない。」
「?」←(再度、ぼくの心の中の声)
ぼくの母はすでにその何年か前、教会に通うようになっていた。そして信仰を持っていたが、いくら信仰を持っていても神様の声を聞いた人は聖書の時代以降聞いたことが無い。無論ぼくだってそんな経験はない。百歩譲って仮に何らかの声を聞いたとしてもそれが神様の声だとどうやって識別するのだろう?
しかも、そのあとおふくろと話をしていると、最初は意味が通っているのだが、だんだん「解釈不能」な会話になっていく。おいおい!
内心、これはまずい、と僕は思った。このままだとおふくろの人格が崩壊して最悪の場合、廃人同様になってしまうかもしれない。これはほおって置くわけには行かない。一刻も早く治療を受けさせないと・・・。
しかもたちの悪いことにおふくろには「病識(自分が病気だという意識)」が全くない。そういう人間をどうやって病院に連れていけばいいのだろう?
ぼくは憂うつ感と億劫感との闘いを抱えていたが、さらにこんどは母親の幻覚、幻聴の治療といういわゆる二正面作戦をしなければならないことになった。「病人が病人の世話をする。」という笑えないことをだ。
ぼくの脳みそはもつだろうか・・・?