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インタビュー

家康の後継ぎとして徳川幕府の二代目征夷大将軍となった秀忠。
“情けない”から成長していく秀忠を星野源さんが語ります!

 

“戦国のマナー”になじめていない

徳川秀忠というと、「関ヶ原の戦いに遅参し、父・家康に激怒された息子」というイメージを強く持たれている方が多いかもしれません。ですが、最新の研究では、遅参は秀忠のせいではなく、実はそんなに怒られていないという説も唱えられているそうです。また、秀忠は“ダメダメな人”ではなく、実は“怖い人”だったという説もあります。いろいろな説がありすぎて、僕には実在の秀忠の人物像がわからなくなってしまいました。

そのため、脚本を頼りに演じていこうと思ったのですが、第28回「受難」の初登場シーンでは、お辞儀をしすぎて周囲を戸惑わせるというだけ。しかも、その後のシーンの撮影まで間隔が少し空いてしまいます。“ダメダメ”なのか? “怖い”のか? そのどちらでもないのか? 『真田丸』では秀忠がどのような方向性で描かれていくのか、その時にはわからなかったので、自分なりに秀忠の人物像を作り上げていこうと決めて、撮影に臨みました。

軸に据えたのは、秀忠は“次世代の人間である”ということです。秀忠は物語の中で生き残り、次世代の中心人物として太平の世を築いていきます。家康や真田昌幸のような“戦世代”の人ではないので、“戦国のマナー”に微妙になじめていない感じを出していければ、と考えました。秀忠は自分なりに懸命に頑張るのですが、父には怒られ、皆からはバカにされ、悩みます。これは本人が悪いというより、次世代の人間だからなのではと。

秀忠は物語が進むにつれて、徐々に変わっていきます。父・家康に対して反抗しすぎるわけでもなく、要所要所で本多正信を頼りにし、さまざまなことに折り合いをつけながら、一歩一歩進んでいく。『真田丸』の秀忠は、そういうタイプの人物なんだと思います。あれだけ偉大な父によく耐えたな、と思います。ヒーローという感じではないですが、そばにいたら、いいやつなんじゃないかという印象があります。
そういう役なので、ダメなところを茶化さないように演じなければ、と思いました。彼は真面目にやっているのですが、戦国という世の中になじめていないだけなんです。秀忠の中にある人間らしさは、特別なものではありません。多くのみなさんが持っているものですが、そういう人間が次の世を作ったのだから、とても魅力的だと思います。

父・家康に怒られつつも認められ

第44回「築城」では、関ヶ原の戦いの二の舞とならないように、急いで家康の待つ京へ駆けつけるのですが、「そなたは将軍ぞ、もっとゆっくり来い」と怒られます。はたから見れば怒られただけですが、秀忠の身からすれば、急に「個」として認められ始めるんですよね。お前は将軍なんだから、自分のことは自分でしっかりと考えて頑張りなさい、と。怒られているけど、認められている感じ。このとき「申し訳ございませぬ」と頭を下げましたけれど、うれしかったんじゃないかなと思うんです。それまで父上の一部だった秀忠が、ここで「個」として突き放されたように、芝居をしていて感じました。

第42回「味方」で「総大将はわしだ」と繰り返し言っているように、「個」として認められないと承認欲求が強まり、「俺が、俺が」となってしまいます。でも「個」を認められたことで、父から学ぼうという姿勢に変わっていくんですよね。どうしたらいいか、その後は何度も聞くんですよ。だからあの時に、思いが変わる瞬間があったのかな、と個人的に思っています。
家康を演じる内野聖陽さんの動きは、日常的に拝見するように心がけていました。細かい真似をしようとは考えていませんでしたが、内野さんの動きを長くみていれば、自然と受け入れてお芝居で返せることもあるのではないか、と思ったので。

第31回「終焉(しゅうえん)」で、屋敷に忍び込んでいた昌相の気配に信之が気づき、怯える秀忠が信之の背中に隠れるシーンがありましたが、隠れる際の肩の角度を父上と重なるようにしてみたんです。そうしたら、情けない感じに見えて、DNAが繋がっているように感じました。第36回「勝負」では、第二次上田合戦で昌幸からの書状を受け取った秀忠が、「これは怒ってもよいのか」と正信に聞いてから文を破るシーンがありましたが、これは特に真似したつもりはなかったのですが、みなさんに「父上に似ている」と言っていただき、うれしかったですね。

「僕にとっての理想の二代目」と聞き

初めての大河ドラマ出演で、厳しい現場を想像していたのですが、みなさんがものすごく優しくて驚きました。秀忠と同じように“時代劇のマナー”になじめていない僕はわからないことだらけで、特に内野さんと近藤正臣さんから、たくさんのことを教えていただきました。お二人とも同じ目線で接してくださるので、楽しい時間を過ごすことができました。

家康は戦の中心にいた人ですが、秀忠は戦のない世の中に変えていく人です。次に何かを橋渡しして、世の中を変えていく、未来を作る二代目なのかなと考えました。
世の中に合っていないという秀忠が感じていた苦悩の上に、現代を生きる僕らがいる。戦国という時代では、武士らしく死ねば格好いいだろうけれども、悲鳴をあげながら逃げるのも「ここで死んだらだめだ」という思いがあってこそなんだと思います。

脚本の三谷幸喜さんとはこれまでしっかりお話ししたことがなかったのですが、撮影に入り、しばらくしてから電話でお話しする機会がありました。その時、「秀忠は僕にとっての理想の二代目なんです」というお話を聞いたんです。『真田丸』の隠れたテーマが「偉大な父を持つ息子の苦悩」だとも。「理想の二代目」という言葉は、なんとなくわかります。

家康は戦の中心にいた人ですが、秀忠は戦のない世の中に変えていく人です。次に何かを橋渡しして、世の中を変えていく、未来を作る二代目なのかなと考えました。
世の中に合っていないという秀忠が感じていた苦悩の上に、現代を生きる僕らがいる。戦国という時代では、武士らしく死ねば格好いいだろうけれども、悲鳴をあげながら逃げるのも「ここで死んだらだめだ」という思いがあってこそなんだと思います。

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