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<社説>高速炉開発 あてのない無駄遣いだ

 新しい高速炉の開発は「実験炉」「原型炉」「実証炉」「実用炉」と段階を経て進められる。今、廃炉が検討されている「もんじゅ」は高速増殖炉の原型炉だ。

     ほとんど運転実績がないまま「もんじゅ」が廃炉になれば、実証炉開発への道筋が途切れたと考えるのが常識だろう。当然、高速炉の存在を前提とする核燃料サイクルそのものを見直す以外にない。

     ところが政府は「もんじゅ」抜きでも実証炉の開発を進め、サイクルを維持する方針で、計画の具体化を進めようとしている。これでは、成果が得られないまま税金をつぎ込んできた「もんじゅ」の二の舞いになるだけだ。

     先週開催された政府の第3回「高速炉開発会議」では国内に造る高速実証炉の開発方針の骨子案が示された。2018年に約10年間の開発計画を策定する予定という。しかし、「もんじゅ」の見直しを決めてからまだ3カ月で、技術的、資金的、社会的に実証炉開発が可能かどうか具体的検討がなされたわけではない。

     政府は「もんじゅ」を廃炉にしてもフランスの高速実証炉「ASTRID(アストリッド)」計画に参加することで日本の実証炉開発が維持できると主張している。だが、「アストリッド」は実現するかどうかもわからず、「もんじゅ」とは炉のタイプも異なる。たとえ実現しても、具体的に日本がどのような技術を獲得でき、実証炉開発にどう結びつくのか、はっきりしない。

     もともとフランスは「アストリッド」開発に必要なデータを「もんじゅ」で得ようと共同研究を進めてきた。「もんじゅ」が廃炉になれば他国との共同研究を探るだろう。一方で高額の開発費を日本と折半したいとの意向も示している。日本は資金を出すだけに終わるのではないか。

     そもそも、核燃料サイクルが資源利用や廃棄物処理の面で意味を持つのは、高速炉を実現し、高速炉で燃やした後の使用済み燃料を再処理し、再び高速炉で燃やすというサイクルの輪がきちんと回り、経済的にも見合うようになった時だけだ。その見通しはフランスでも立っていない。

     これほど実現性の見えない核燃料サイクルに日本政府がこだわるのはなぜなのか。原発から出る使用済み燃料を、「ごみ」ではなく「資源」として青森県に貯蔵するための方便だとすれば、別の解決方法を探った方がいい。

     福島第1原発の廃炉費用や賠償費用が膨れあがっていることと考え合わせれば、これ以上、あてのない労力と資金をかける余裕は日本にはない。一刻も早く立ち止まって、原子力政策を根本から見直すべきだ。

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