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【私説・論説室から】

上野公園のギンナン

 ギンナンの詰まった箱が届いた。送ってくれたのは東京都荒川区のボランティア団体「赤銀杏(あかぎんなん)会」の石崎克雄さん(70)。上野公園のホームレスの人々に三十年間、毎朝欠かさず手製の弁当を配っている石崎さんは、秋になると公園のギンナンを各地の支援者に送る。

 ギンナンは、ホームレスの人たちが早朝からボランティアで公園を掃除し、道に落ちたのを拾い集める。手が荒れるのをこらえて皮をむき、石崎さんが洗って干すのだ。

 今年は秋が短い。東京では早くも十一月に初雪が降った。公園の人々にとっては寒さをしのぐのが大変な毎日だ。手間をかけられたひと粒ひと粒は、厳しい越冬の始まりを知らせる公園からの便りだった。

 二〇二〇年の東京五輪を前に、公園は華やかさを増す。フランスの建築家ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館は世界文化遺産に登録された。一方で、景観にそぐわないとばかり、ホームレスの排除が始まらないか−。今のところ目に見える形での追い出しはないが、石崎さんの心配は尽きない。

 夜も明けないうちに起き出して、九十食分の弁当をつくる。自転車で公園に向かい、「元気か」と声をかけながら、一人一人に配り終えるまでは気を抜けない。毛布がほしい。ジャンパーがほしい。頭の中を思いが駆けめぐり、紅葉を楽しむ余裕もない。石崎さんの格闘の季節が始まった。 (佐藤直子)

 

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