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【コラム】

筆洗

 落語家の立川談春さんの書いた『赤めだか』に、師匠の立川談志さんからこんな教えを受ける場面がある。テーマは「型破り」と「型(形)なし」。大きく異なる▼「型ができてない者が芝居をすると型(形)なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりした奴(やつ)がオリジナリティーを押し出せば型破りになれる。どうだ、わかるか」。「型」とはその道の守るべき基本、土台であろう▼その人のやり方は「型破り」なのか、あるいは、「メチャクチャだ」の「形なし」の方か。毎度お騒がせの次期米大統領のトランプさんである。今度は台湾の蔡英文総統と電話で会談した▼電話一本とはいえ、米大統領や大統領になる人物が台湾総統と直接話をするのは一九七九年の国交断絶以来初めて。「一つの中国」が長年の米中関係の土台だとすれば、その電話は「型破り」か「形なし」か、はさておき、「型通り」ではなかった▼既成政治や常識的な外交の「型」に飽き、不満を覚える観客はトランプさんのやり方を「型破り」と評価するかもしれない。それが大統領に当選した理由でもあろう。だが微妙な上に微妙なバランスで維持してきた米中関係の長年の「型」をぽいと捨てて「形なし」にならぬかと心配もする▼「型をつくるには稽古しかないんだ」。これも談志さんの教え。オリジナリティー優先の人は聞く耳持たぬだろうが。

 

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