複眼でとらえる

 その人はたくさんの本に囲まれて静かに座っていた。生み出した数々の作品のように静かに。その目ははるか遠くを見ているようで、薄っぺらい自分を悟られまいと、必死に言葉をつないだ▼桐生市新里町に住む詩人の久保田穣さんが亡くなった。初めての取材は2007年、6冊目の詩集「サン・ジュアンの木」が第35回壺井繁治賞を受賞した際。「詩人」を取材するのは初めてのことで、ひどく緊張していたことを覚えている▼同年末には草津町のハンセン病療養所で生きる詩人たちの作品と生活をテーマとした詩評論集「栗生楽泉園の詩人たち」が小野十三郎賞特別賞を受賞。出会ったときはすでに詩人で、教員時代は知らなかったが、この取材での優しい笑顔に教員の顔を見た気がした▼最後の取材は3年前の現代詩を読む会「言の葉の会」の創立25周年記念詩集「ことのは」発刊。久しぶりの対面にも温かく接していただいた。その際、いただいた月報の文章には詩とはまた異なる熱さを感じた▼訃報に際し、過去の作品をいま一度読み返す。詩と新聞に使われる言葉は違うものだが、日常の風景から世界を、世界の出来事から日常を見つめ、つづられた詩から教わることは多い。合掌。(野)

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