韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が29日、2018年2月の任期満了前の辞任を表明した。2013年2月に就任してから4年弱。輸出主導の経済構造からの脱皮を目指し、内需企業や中小・ベンチャーの育成を通じた成長モデルを描いたが、それも実現したとは言いがたい。
足元の苦境ぶりを示すのは経済成長率だ。経済協力開発機構(OECD)は28日、2016年の韓国の経済成長率を2.7%に引き下げた。昨年6月には3.6%とみていた。スマートフォンの発火問題を受けたサムスン電子の失速と、国内政治の混乱などが影響しているとみられる。2017年についても2.6%の予想だ。
就任した時の国民の期待は高かった。財閥優遇策が目立った李明博(イ・ミョンバク)前政権時代にはびこった財閥の不正や格差拡大の是正を朴大統領は訴えたからだ。
実際、財閥の系列企業間の不透明な出資関係や取引を規制する新法を策定したり、全国にベンチャー支援拠点を作ったりした。無料通話アプリで飛躍するLINEの親会社のネイバーなど有望なベンチャー企業も確かに育った。
だが、経済成長率は3.3%の14年をピークに足踏みしてしまう。失業率も2013年の3.1%から、2014年(3.5%)、2015年(3.6%)と徐々に悪化。若者を中心に失業者が増えているという。
金融市場から見れば、朴政権時代は「冬の時代」かもしれない。韓国総合株価指数(KOSPI)は29日時点で朴大統領の就任直前に比べて2%安と、同期間の日本株(6割高)やドイツ株(4割高)、米国株(4割高)に比べて低空飛行が続いている。
日本や欧州など先進諸国が金融緩和にかじを切り通貨安競争が激しくなったことと無縁ではない。中国などほかの新興国の企業との競争も激化し、今年に入っても財閥系の大手海運会社、韓進海運が9月に破綻。韓国のサムスンはスマホの発火事故などで業績低迷にあえぐ。
有望なベンチャーや新産業が生まれる前の大企業の失速。朴大統領は結局、経済の立て直しを果たせなかった。
そんな朴大統領の「実績」を金融市場はもう織り込んでいたのか。29日午後の早期退陣表明を冷静に受け止めた。KOSPIは前日比ほぼ横ばいの1978で取引を終えた。韓国ウォンも午後3時半時点で対米ドルで1ドル=1167ウォン台とややドル安・ウォン高方向に振れただけだった。
(菅原透、富田美緒、岸本まりみ)