それぞれの時代を彩ってきた日本の刑事ドラマ。『西部警察』『大都会』などを手がけたテレビデューサーの石野憲助さんとライターの岩佐陽一さんがベスト10を選ぶ。
石野 日本の刑事ドラマの原型を作ったのは芦田伸介さんらが出た『七人の刑事』。後の刑事ドラマに多大な影響を与えました。
岩佐 そうですね。7人がフォーメーションで捜査するのは斬新でしたし、止むに止まれぬ動機を抱える犯人に刑事が同情するような人間ドラマ的要素を取り入れたのも画期的でした。それまでの警察を描いたドラマは単に事件を解決するだけのものが中心でしたから。
石野 石原プロで私が最初に刑事ドラマを手掛けた時も『七人の刑事』を見て勉強した。そうして作ったのが『大都会-闘いの日々-』です。倉本聰さんに脚本を書いてもらい、渡哲也さん演じる暴力団担当の黒岩刑事と石原裕次郎さん演じる新聞記者の2人を主人公にした社会派のヒューマンドラマです。
岩佐 いま改めて見ても傑作です。
石野 だけど黒岩がとにかく悩みが多く暗い役でね。玄人受けはするけど、視聴率は伸びなかった。
岩佐 マル暴の黒岩の妹が暴力団からの報復でレイプされたり、黒岩と惹かれ合い、彼に捜査情報を流す女が実は裏社会のフィクサーの愛人だったりとヘビーな内容でした。
石野 刑事ドラマのパターンって、大きく分けると3つだと思うんですよ。
1つ目が『七人の刑事』や『大都会-闘いの日々-』のような人間ドラマを描いていくもので、これは評価はよくても視聴率が頭打ちになることが多い。
2つ目が『西部警察』のようなアクション中心。
3つ目が『あぶない刑事』や『相棒』のような登場人物のキャラクターを押し出すパターン。
突き詰めればすべてこの3つに当てはまると思う。
岩佐 今にして思えば、その3つの要素をバランスよく取り入れていたのが刑事ドラマの代表格とも言える『太陽にほえろ!』じゃないでしょうかね。
石野 刑事ドラマで『太陽』を超える作品はそうそうないね。日テレの名プロデューサー・岡田晋吉さんの代表作だけど、決して二枚目とは言えない松田優作を抜擢するなど、岡田さんは俳優を見る眼もあった。
岩佐 『太陽』が革命的だったのは、本当なら無様に死んでいくだけの殉職シーンをリアルに描きつつ、ヒロイックに魅せたところ。優作さんの「なんじゃこりゃ!」もそうですが、撃たれる様が逆にかっこ良くて人気を不動のものにした。
石野 私は同じ日本テレビで『大都会』シリーズを作っていたけれど、硬派な『大都会-闘いの日々-』が大ヒットとはいかなかったので、『大都会 PARTII』はアクション中心のドラマにしたんです。
岩佐 タイトルも、渡さんと裕次郎さんのダブル主演というのも同じだけど、もう完全に別の作品ですよね。第一シリーズは全31話の中で発砲シーンは1回しかなかったのに、PARTIIになったら銃撃戦ばかりになった。
石野 『大都会PARTII』のもう一つの功績は、暴力事件を起こしてテレビ界から干されていた松田優作を復帰させたことですよ。『太陽』で優作を見出したプロデューサーの岡田さんが周囲の反対を押し切ってレギュラー出演させた。
岩佐 この作品への出演がなかったら、そのままテレビへの復帰は果たせず、名作『探偵物語』も生まれなかった。
石野 『大都会 PARTII』をさらに派手にしたのが『大都会 PARTIII』。サングラスをかけてショットガンをぶっ放す渡さんの姿は強烈でした。
こうした派手なアクションのお陰で視聴率はうなぎ登り。PARTIIでも20%を超えていましたが、犯人を容赦なく射殺しちゃうようになったPARTIIIでは30%近くまでいった。そしてそのアクション路線をさらに引き継いで作られたのが『西部警察』です。アクション系刑事ドラマの究極の姿です。