蹴球探訪
奇跡の初優勝見えた レスター・岡崎が激白「試合後はいつも悔しい」(4月27日)
【プロ野球】<竹下陽二のWHO ARE YOU>チャオ!!ナバーロ アディオスは言わない2016年12月1日 紙面から
春のキャンプ時に、沖縄・那覇空港で銃弾所持のため逮捕された、ロッテのヤマイコ・ナバーロ(29)。結局、思うような成績が残せず、退団することになった。私は、猛暑の7月に一度だけ、千葉マリンスタジアムのベンチ裏でナバーロと話し込んだことがある。今回は愛すべきヒゲの怪人の素顔を書こう。 ナバーロに会うために真夏の千葉マリンに出掛けた。ナバーロと言えば、今春の沖縄キャンプでの那覇空港での銃弾所持逮捕劇。ヒゲをたくわえていかにもワルそうに見えるが、実際、話してみるまで分からない。 ドミニカ共和国出身のナバーロ用に、アミーゴのメヒア(西武)に「カーロ・ムチョ」「ムイ・カリエンテ」(メチャクチャ暑いねえ)というスペイン語を教えてもらった。いきなり、流ちょうなスパニッシュで語りかけたら、ナバーロも心を開くに違いないという魂胆だ。 試合前の練習中、炎天下の中、待つこと3時間。意識が薄れかけたその最中、ナバーロは練習を終えて、足早に今まさにベンチ裏のロッカーに消えようとしていた。ここを逃したら話ができない。そこで口をついて出たのは、即席で覚えたスパニッシュではなく、「ナバーロ!」「ナバーロ!」の5連発。このただごとではない、断末魔の叫びにナバーロも立ち止まってくれた。 「なんか、用?」と半開きのドアからひげ面を出すナバーロ。「あなたに会いに千葉マリンに来たんです。ちょっち、お話を」と私。「なんの話?」とナバーロ。「いや、そのー、野球とか人生全般というか」と私。最初は、少し警戒していたようだが、ロッカーから出て来てくれた。 次第にうち解けたナバーロはベンチ裏の狭い通路の壁に背をもたせかけてしゃがみ込んで話し始めた。私も反対側の壁に背を向け、しゃがみ込んでナバーロと対峙(たいじ)した。ドミニカ共和国と日本のヒゲ男のなんとも奇妙なツーショット。誰も入り込めない2人だけの空間になっていた。英語での会話は、ちょっと、理解できないところもあったが、ナバーロが日々の生活のことを語り始めた時に、私は思わず聞き入ってしまった。 「たとえば、おまえさんがバッターとする。その日、4打数ノーヒットに終わった。どう感じる? 落ち込む? それだけか? マンション帰ったら、自分で夜食作って、それを食べながら、その日のビデオを見て、反省するわけだ。始動が遅いとか。なんだっていいけど。で、寝て、起きて。球場行って、ハードに練習するしかない。日々、その繰り返しだよ。人間は完璧じゃないから。完璧なのは、神様だけだから」 そう言うと、ナバーロは天井を指さした。フィアンセは母国にいたものの、単身で来日していたナバーロ。しかし、ナイターから帰って、料理するとは意外だった。簡単な料理なんだろうが、その光景を思い浮かべると、わびしさも感じた。 意外と真面目な人ですね。例の事件で出場停止を食らった時、最初に電話くれたのは、お母さんだったらしいね 「おー、おふくろは最高さ。おふくろは、そんなに落ち込まないでとか心配するなとか、いろんな言葉で励ましてくれたよ」 そんなこんなで15分間ぐらい話し込んだろうか。最後に「そのヒゲ、いいですね」と言うと「ドミニカ共和国では男はだいたい、ヒゲ伸ばすんだよ。おまえさんもヒゲ伸ばしてるじゃないか。でも、白いな。でも、オレもほら、白いヒゲがあるんだぜ」と生い茂るアゴヒゲの中の2本の白いヒゲを見せてくれた。いつしか、2人の間で信頼感のようなものも芽生えた。 なんか、あなたのドリームはありますか? と聞いたら、ドリームをドリンキング(飲み)と勘違いされて、飲み? 今日はナイターだから、遅くなるから行けない、と返される珍問答もあった。真面目な男だった。途中、球団関係者が通り掛かったが、私とナバーロが長年の友人に見えたのか。放置してくれた。 パッと見は豪傑だけど、内面はとても繊細で愛すべき好漢だった。春のキャンプ時の逮捕劇がなければ、野球の成績も変わっていたかもしれない。それが、惜しまれる。結局、夏場以降、ナバーロはドップリとスランプに落ち込んで浮上することはなかった。私は浮かない顔のナバーロを遠巻きに見るだけで、記事にする機会も逸してしまった。いつの日か、人懐っこい笑顔のナバーロに再会したい。だから、アディオス(サヨナラ)は言わない。ここは、チャオ(またね)と言っておこう。 PR情報
|