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2016年12月04日07:00
金に目がくらんでチャンピオンシップをやめるなんて!
いやー、劇的な結末でした。Jリーグの王者を決めるJリーグチャンピオンシップは、鹿島アントラーズが年間勝点1位の浦和レッズをくだして、優勝を勝ち取りました。2点以上取って勝たねばならないという厳しい条件の試合を、見事に2-1でもぎとっていくあたりは、さすが鹿島アントラーズ。
僕はこの制度が今季で終わることを非常に残念に思います。Jリーグ、そして日本サッカーにとっての失着であろうと思います。改めてこの制度にはまだ役割があり、学ぶべきものがあると感じました。そもそも、年間勝点で15も離すほどに強いチームならば、一発勝負は当然として二発勝負に負けるなんてことはあってはならない。それも、ほぼほぼ勝利を手中におさめた状態から引っくり返されるなんてことは。
チャンピオンシップ第2戦、浦和レッズは2失点以上しさえしなければ優勝という状態でした。90分を1失点以内におさえれば負けても優勝なのです。圧倒的に優位です。しかも、幸先よく1点を先行したことで、より状況は有利に傾きました。0-2の負けも1-2の負けも同じではありますが、1点持った状態なら「最悪の最悪で相手に2点を取られても、1点追加すれば再逆転できる」のですから。もう攻める必要はまったくなく、守り倒せば勝利は自分のものでした。
しかし、実際にはそうはならなかった。むしろ浦和は勝負を決めにいき、いつものようにワイドに展開して人数をかける攻撃サッカーを続行したのです。すると、縦一発で人数の少ないゴール前を突かれて1失点目。さらには、カウンターから抜け出した相手FWを倒してPK献上で2失点目。1失点も無失点も変わらない鹿島にとって、平常運転をつづける浦和の姿勢はありがたいものだったでしょう。せっかくの年間勝点1位をフイにする痛恨の戦いぶりでした。
「年間勝点1位」が勝者ではないのは、ルールの通り。
そしてこの日、「年間勝点1位」は強者でもないことを自ら示しました。
勝つべき日に勝てない者が、何故強者なのか。攻めなくてもいいところで攻め、見逃してはいけない相手の動きを見逃し、倒してはいけない場所で倒し、追いかける側になっては狼狽とミスを重ねてワクを外した。日本代表でも同じような場面をよく見ますが、これはひとえに「この1試合で勝つ」すべを知らない、日本サッカーの構造的な問題だろうと思います。
ファンも運営側も、総じて「一年間ダラダラーッとやった結果」を重視していますが、それは勝負のほんの一側面でしかありません。4年間勝ちつづけた世界王者でも、五輪の大舞台で敗れれば「弱い」と言われるのが多くのスポーツの現実。勝つべき日に勝って、ようやく評価される。この1試合を取り返す機会はどこにもない試合での勝利だけが評価される。そういうものです。
しかし、日本サッカーは一年間ダラダラーッとやるリーグ戦が重視されるせいか、「この1試合」にすべてを出し切るチカラが弱いように感じます。大舞台で繰り返されるアホみたいなプレーの数々。日本を代表するレベルの選手が、大舞台で自分のゴールに蹴り込んだり、簡単にPKを献上したり、大チャンスでとんでもない方向にシュートを外したりという場面が頻繁に見られます。
「この1試合」は、実力が100あるとしたら、120出さねばならないのです。でもきっと、うまく出せないタイプの選手を多く生んでしまっているのです。「偶然」で出たり出なかったりする選手を生んでしまっているのです。一年間ダラダラーッとやっているせいで。実際問題、年間を通じても「この1試合」と呼べる試合はほとんどないでしょう。たまたま勝点が近い状態で、シーズン佳境に直接対決をするような偶然でもない限りは。まぁ、昇格・降格争いも「この1試合」にあたるのでしょうが、そこに日本を代表するレベルの選手はたまにしかいませんので。
スポーツの現実は厳しい。
「この1試合」の日、寝坊したら終わりです。
「この1試合」の日、熱を出したら終わりです。
「この1試合」の日、怪我をしたら終わりです。
「この1試合」の日、弱気を出したら終わりです。
「この1試合」の日、集中力を欠いたら終わりです。
「この1試合」の日、凡ミスをしたら終わりです。
「この1試合」の日、誤審に見舞われたら終わりです。
「この1試合」の日、チカラを出せなければ終わりです。
それをすべて乗り切った先にだけ栄光がある。
日本サッカーには、強いだろうチームに理不尽なリスクを負わせて、「この1試合」を体験させるシステムが必要です。すべてを懸け、この1試合の結果で一年間が水泡に帰すような、取り返すことができない試合を経験させるシステムが。負けても「負けたな」と思うだけのルヴァンカップでは足りない。年間勝点1位が、こういう形でひっくり返されているところを見ると、チャンピオンシップというものの役割は決して終わっていないと感じます。金の工面はついたのかもしれませんが。
もちろん、価値観は人それぞれ、チームそれぞれですので、「こういう試合で負けちゃうチームが好き」っていうのは全然アリです。僕もそういうチームは好きです。むしろ好き。ただ、「年間勝点1位が真のチャンピオン」などという間違ったプライドは捨てたほうがいい。今季はそういう戦いではありません。2年前からそう決まっていたはずです。「この1試合」で負けたら敗者という、スポーツ界標準の戦いをやったら、年間勝点1位は勝者にも強者にもふさわしくなかったという現実が露出しただけのことです。
これは日本サッカー全体に薄く広がる甘さだと思います。
オリンピックチャンピオンを狙うアスリートは、「私は4年間ずっと勝ちつづけてきたのに…」「こんな理不尽な仕組みはとても受け入れられない…」「本当のチャンピオンは私だと思います…」なんて言わないのです。カッコ悪いですからね。すごくすごくカッコ悪いですからね。
ということで、「サッカーは最後に鹿島が勝つスポーツ」という現実を噛み締めながら、3日のNHK中継による「Jリーグチャンピオンシップ 浦和レッズVS鹿島アントラーズ戦」をチェックしていきましょう。
◆ほとんどのファールを流す主審でも流せないレベルの体当たり!
「サッカーとは最後に鹿島が勝つスポーツ」…これは僕が2週間前くらいに作った言葉。思いつき100%ではありますが、何かの真理に触れているような気もします。ユニフォームについた星の数、すなわちタイトルの数。鹿島アントラーズが獲得した17個のタイトルは、やはり特別なチカラを示すものだと思います。偶然で17個もタイトルは獲れないでしょう。
第2戦の舞台は浦和サポーターで真っ赤に染まった埼玉スタジアム。スタジアム全体の圧力を受けながら一角で鹿島サポーターも懸命に声を上げますが、いかんせん数の上では浦和が圧倒的。平日とは言え鹿島のホームで行なった第1戦は2万人そこそこの集客だったあたりを考えると、「こりゃあ浦和さんの勝ちでしょうがないですかね」と他人事としては思う状況です。
第1戦の感じからして、強そうなのは浦和。ボールを持つ時間も長く、ゴールに迫る回数も多く、かなりの時間で押していました。決着は興ざめするような杓子定規判定でのPKでしたが、仮に0-0で終わっていたとしても、浦和優位の下馬評は立ったことでしょう。それぐらい強そうでした。
第2戦もその構造は変わりません。立ち上がりから何度も鹿島ゴールに迫り、前半4分にはゴール正面でシュートを放つビッグチャンスも。鹿島はついていって跳ね返すのがやっとという感じで、2点取らなければいけないのに防戦に追い込まれます。
↓そして前半7分、あっさりと鮮やかに浦和が先制!
スローインで裏に抜けて、クロスに合わせてダイレクトボレー!
ゲームみたいなキレイなゴール!
浦和圧倒的やん!

得点の直後にも右サイド突破から、クロスバーを直撃するシュートを放つなど、浦和は押しています。前半26分にも武藤が抜け出したチャンスがありました。あまりに押しているので「もう終わったな」と裏番組を見ようかなと思ったほど。しかし、この状況を鹿島はいたって冷静に受け止めていました。無失点も1失点も同じことというレギュレーションの理解は当然。さらにその上で、精神的支柱である小笠原満男は「むしろこれで浦和が難しくなった」と感じていたと言います。
何が難しいのか、傍目にはよくわかりません。浦和の優位は変わらないのです。ただ、勝ち切るということの難しさを肌身で感じてきた鹿島の男にはわかるのでしょう。優位に立った状態で自分をコントロールし、勝利をつかみ取るまでの苦難が。「イケる」「勝った」と思ってからの果てしなく長い時間が。
鹿島はなかなか打開策を見い出せないなかで、球際の強さ、あと一歩の粘りで対抗します。ほとんどの時間に渡って攻撃ができず、シュートすら撃てないという前半がつづいても、まったくもって下を向くことがありません。少ないカウンターのチャンスでゴールを目指し、ピンチを黙々と跳ね返しつづける。鹿島らしい戦いです。
ほとんど攻め手がないなら、少ないチャンスで決めればいい。前にボールが運べないなら、セットプレーを狙えばいい。気持ちよく勝てなくても、勝てばいいという伝統のスピリット。このチームで育った男ならば、ワールドカップで無人のゴールに流し込むのを失敗するなんてことは、きっとないだろう…そう感じさせる集中力で、反撃のチャンスをうかがいます。そして、ジワジワジリジリと盛り返しながら、迎えた前半40分!
↓DFラインからの縦一発で遠藤が裏に抜け出し、逆サイドで叩き込んだのは金崎!
攻める必要なんてまったくないのに、ずっと人数かけて攻めてるもんだから、縦1本で3対3の状況作られちゃった!
銃を構えながら「来るな!」って90分脅しているだけでいいのに!
結局前半は1-1で折り返し。日本代表ハリルホジッチ監督が「誰にしようかな…」と高みの見物を決め込む中で、試合は勝負の後半に突入します。もちろん、依然として浦和が有利であることは変わりません。このままいったら浦和優勝なのです。だから、リスクを負う必要などないのです。リードしているのだから。
しかし、「俺たちはそういうんじゃない!」という魂の叫びのようなものが聴こえる浦和の戦い。浦和はチャンピオンシップやJ1リーグを勝ちにいくだけでは納得できなかったのか、この試合を勝ちにきました。ひきつづき人数をかけて攻める攻撃的サッカー。ありがたい。感謝の気持ちがわいてきます。
有利なほうが、リスクをとらなくなったら途端に勝負は面白くなくなります。しかし浦和は、槙野智章・森脇良太・柏木陽介といったエンタメ勢が、そしてチーム全体が、「俺たちは最後まで面白いサッカーをやるんだ」という意志をこの舞台でも貫いています。どんどん前に上がっていって人が飛んでくる、エンターテインメントサッカーのプロフェッショナルたち。「だから負けるんだな…」と思いながら、「だから人気があるんだな…」とも思わされる。浦和のおかげで、試合は熱く、面白いものになりました。
後半13分、点を取らなければならない鹿島はFWの鈴木を投入し、先に動きます。すると浦和はたてつづけに2人を代えて対抗。柏木のポジションが前にずれたところからすると、点を取って決めるということなのか、それともやや軸足を後ろにずらして引き気味にいくのか。優位な状況が浦和の動きを難しいものにさせていたのか、ハッキリとひとつのメッセージが伝わる交代ではありませんでした。
このあたりに小笠原の言う「浦和は難しくなった」があるのかもしれません。「攻めて勝つ」のか「守って勝つ」のか。どちらも正しいだけに、どちらを選ぶかで意見がわかれやすいもの。同じ方向に向かって全員が同じことを遂行できてこそ、チームのチカラも活かされるわけで、そこを統一していくためには選択肢の多さがマイナスに働いた格好です。
浦和はFWのズラタンを投入して、後半26分で全部のカードを切り終えるという早仕掛け。一方、鹿島も小笠原を下げて西をボランチの位置に上げて勝負に出ます。「次の1点を取るのはどっちか」という構図での勝負。浦和は次の1点取る必要は全然ないんですが、次の1点勝負を敢然と受けて立ちました。カッコいいですね。面白いですね!
↓そして迎えた前半32分!鹿島がカウンターから裏に送ると、抜け出した鈴木を浦和のDF・槙野が倒してPK献上!次の1点は鹿島に!
凡ミスの三暗刻みたいな痛快プレーだなwwwww
こんなに一生懸命攻めてること自体もアレだし、裏に人がいるのを気づかずにボールを流すのもアレだし、倒すなら倒すで決断が遅いし、エリアまで入ってから倒すというのはもうアカン!
「1点もやらずに時間をやりすごす」という意識だったら、「攻めない」「すぐ蹴り出す」「すぐ倒す」だったのに!
浦和・槙野もPKを与えるつもりはなかったのかもしれません。手をかけて倒しにいったのは、ペナルティエリアの外でした。しかし、見た目にもガッシリとした鹿島・鈴木の突破は一手では倒せなかった。エリア内に侵入を許したところで、足を当ててようやく倒すというプレー。ほとんどのファールを流し、この決定機阻止をイエローでとどめる本日の主審でも、さすがに流すことができない見事な体当たりでした。第1戦の主審ならPK2本とレッドカードをくれそうな、見事なプレーでした!
↓ちなみに、こういう状況にバッチリはまるスタンプも出ていますよ!
楽しいじゃないかwwwww
味方にしたらイラッとするけど、他人事として見れば最高の選手だなwwwww
点を取るしかなくなった浦和は、ようやく意志のまとまりを見せ、攻めダルマと化します。DF槙野を前線に上げて、攻撃力にも期待する構え。「槙野がPK献上せなんだら槙野を前線に上げる必要はなかったのに、槙野がPK献上したから槙野の攻撃力に期待」という禅問答のような布陣に、僕もおもちゃのサルのように手を叩いて大喜び。
↓NHKも負けてるほうのファンをスーパースローで煽る煽る!
餅は餅屋というけれど、餅がマズかったので食後のコーヒーで挽回しようとしてる感じだな!
餅で頑張ろう!

しかし、浦和以上の意志統一を見せるのは鹿島のほう。「よっしゃ、時間稼ぎや」と全員が私利私欲を捨てて団結します。徹底的に跳ね返していくセーフティな守備。ベンチはさっき入ったばかりのFW鈴木を下げて、追い回し&時間稼ぎ相撲要員のFW赤崎を投入するというメッセージつきの采配で、やることを明確にしていきます。
交代で退くことが決まった鈴木は、普通なら「俺かよ!」と苛立ってもおかしくないところ。しかし、さすが鹿島の男。気持ちを切り替えて、自分のなすべきことに全力を尽くします。プレーが切れ、主審の笛が鳴ったあと、実に33秒。何度もうしろを振り向いてのチームメイトを鼓舞するジェスチャーと、身体を揺らすだけで全然前に足を出さないノロノロ歩行で、鈴木は時間を使います。最後の数歩のクッソ遅い歩みには、おもちゃのサルもパチパチパチパチ大拍手。歩くの遅いぞ!最低だなこのチーム!もっとやれ!
↓期待に応える鹿島の鹿島らしいサッカーが優勝へのカウントダウンを刻む!
金崎のようなエゴっぽい選手にすら、ここまで徹底させる!
鹿島イズムがチームに息づいている!
↓そして、すべての時間を鹿島が削りとったあと、浦和・槙野は会心の仁王立ちでエンターテインメントサッカーを貫いた!
負けたときのポーズを考えてたみたいな立ち振る舞いwwww
惜しいなwwwww
もうちょっとサッカー上手だったら、もっと大きな舞台でコレが見られるのにwwww
面白いんだけど、大舞台まで届かないのが惜しいwwwww

鹿島アントラーズの勝利で幕を閉じた2016年のJ1リーグ。しかし、負けた浦和も落ち込むことはありません。何と、来年は「年間勝点1位が優勝」というルールでやることになったのです。大相撲で言ったら「年間で一番勝ち星を挙げたら横綱にしてもらえる」というクソのようなルールですが、来年は一年間ダラダラーッと強かったチームが優勝ということになっております。
1試合だけなら技術・戦術で上回ってくる相手がいるかもしれませんが、一年間ダラダラーッとやるのであれば、資本に欠くチームはどこかで崩れるものです。勝てそうにない相手とは五分五分程度で頑張り、弱ってヘタったチームから確実に勝ちを拾えば、来年こそは王座につくことができるはず。今年できたんだから来年もきっとできるはずです。
「この1試合」に勝たなくても優勝できる温情ルールを活用して、ぜひ頑張ってもらいたいものですね!
ダラダラ強くて「この1試合」にも強い、それが真の強者であり勝者!
いやー、劇的な結末でした。Jリーグの王者を決めるJリーグチャンピオンシップは、鹿島アントラーズが年間勝点1位の浦和レッズをくだして、優勝を勝ち取りました。2点以上取って勝たねばならないという厳しい条件の試合を、見事に2-1でもぎとっていくあたりは、さすが鹿島アントラーズ。
僕はこの制度が今季で終わることを非常に残念に思います。Jリーグ、そして日本サッカーにとっての失着であろうと思います。改めてこの制度にはまだ役割があり、学ぶべきものがあると感じました。そもそも、年間勝点で15も離すほどに強いチームならば、一発勝負は当然として二発勝負に負けるなんてことはあってはならない。それも、ほぼほぼ勝利を手中におさめた状態から引っくり返されるなんてことは。
チャンピオンシップ第2戦、浦和レッズは2失点以上しさえしなければ優勝という状態でした。90分を1失点以内におさえれば負けても優勝なのです。圧倒的に優位です。しかも、幸先よく1点を先行したことで、より状況は有利に傾きました。0-2の負けも1-2の負けも同じではありますが、1点持った状態なら「最悪の最悪で相手に2点を取られても、1点追加すれば再逆転できる」のですから。もう攻める必要はまったくなく、守り倒せば勝利は自分のものでした。
しかし、実際にはそうはならなかった。むしろ浦和は勝負を決めにいき、いつものようにワイドに展開して人数をかける攻撃サッカーを続行したのです。すると、縦一発で人数の少ないゴール前を突かれて1失点目。さらには、カウンターから抜け出した相手FWを倒してPK献上で2失点目。1失点も無失点も変わらない鹿島にとって、平常運転をつづける浦和の姿勢はありがたいものだったでしょう。せっかくの年間勝点1位をフイにする痛恨の戦いぶりでした。
「年間勝点1位」が勝者ではないのは、ルールの通り。
そしてこの日、「年間勝点1位」は強者でもないことを自ら示しました。
勝つべき日に勝てない者が、何故強者なのか。攻めなくてもいいところで攻め、見逃してはいけない相手の動きを見逃し、倒してはいけない場所で倒し、追いかける側になっては狼狽とミスを重ねてワクを外した。日本代表でも同じような場面をよく見ますが、これはひとえに「この1試合で勝つ」すべを知らない、日本サッカーの構造的な問題だろうと思います。
ファンも運営側も、総じて「一年間ダラダラーッとやった結果」を重視していますが、それは勝負のほんの一側面でしかありません。4年間勝ちつづけた世界王者でも、五輪の大舞台で敗れれば「弱い」と言われるのが多くのスポーツの現実。勝つべき日に勝って、ようやく評価される。この1試合を取り返す機会はどこにもない試合での勝利だけが評価される。そういうものです。
しかし、日本サッカーは一年間ダラダラーッとやるリーグ戦が重視されるせいか、「この1試合」にすべてを出し切るチカラが弱いように感じます。大舞台で繰り返されるアホみたいなプレーの数々。日本を代表するレベルの選手が、大舞台で自分のゴールに蹴り込んだり、簡単にPKを献上したり、大チャンスでとんでもない方向にシュートを外したりという場面が頻繁に見られます。
「この1試合」は、実力が100あるとしたら、120出さねばならないのです。でもきっと、うまく出せないタイプの選手を多く生んでしまっているのです。「偶然」で出たり出なかったりする選手を生んでしまっているのです。一年間ダラダラーッとやっているせいで。実際問題、年間を通じても「この1試合」と呼べる試合はほとんどないでしょう。たまたま勝点が近い状態で、シーズン佳境に直接対決をするような偶然でもない限りは。まぁ、昇格・降格争いも「この1試合」にあたるのでしょうが、そこに日本を代表するレベルの選手はたまにしかいませんので。
スポーツの現実は厳しい。
「この1試合」の日、寝坊したら終わりです。
「この1試合」の日、熱を出したら終わりです。
「この1試合」の日、怪我をしたら終わりです。
「この1試合」の日、弱気を出したら終わりです。
「この1試合」の日、集中力を欠いたら終わりです。
「この1試合」の日、凡ミスをしたら終わりです。
「この1試合」の日、誤審に見舞われたら終わりです。
「この1試合」の日、チカラを出せなければ終わりです。
それをすべて乗り切った先にだけ栄光がある。
日本サッカーには、強いだろうチームに理不尽なリスクを負わせて、「この1試合」を体験させるシステムが必要です。すべてを懸け、この1試合の結果で一年間が水泡に帰すような、取り返すことができない試合を経験させるシステムが。負けても「負けたな」と思うだけのルヴァンカップでは足りない。年間勝点1位が、こういう形でひっくり返されているところを見ると、チャンピオンシップというものの役割は決して終わっていないと感じます。金の工面はついたのかもしれませんが。
もちろん、価値観は人それぞれ、チームそれぞれですので、「こういう試合で負けちゃうチームが好き」っていうのは全然アリです。僕もそういうチームは好きです。むしろ好き。ただ、「年間勝点1位が真のチャンピオン」などという間違ったプライドは捨てたほうがいい。今季はそういう戦いではありません。2年前からそう決まっていたはずです。「この1試合」で負けたら敗者という、スポーツ界標準の戦いをやったら、年間勝点1位は勝者にも強者にもふさわしくなかったという現実が露出しただけのことです。
これは日本サッカー全体に薄く広がる甘さだと思います。
オリンピックチャンピオンを狙うアスリートは、「私は4年間ずっと勝ちつづけてきたのに…」「こんな理不尽な仕組みはとても受け入れられない…」「本当のチャンピオンは私だと思います…」なんて言わないのです。カッコ悪いですからね。すごくすごくカッコ悪いですからね。
ということで、「サッカーは最後に鹿島が勝つスポーツ」という現実を噛み締めながら、3日のNHK中継による「Jリーグチャンピオンシップ 浦和レッズVS鹿島アントラーズ戦」をチェックしていきましょう。
◆ほとんどのファールを流す主審でも流せないレベルの体当たり!
「サッカーとは最後に鹿島が勝つスポーツ」…これは僕が2週間前くらいに作った言葉。思いつき100%ではありますが、何かの真理に触れているような気もします。ユニフォームについた星の数、すなわちタイトルの数。鹿島アントラーズが獲得した17個のタイトルは、やはり特別なチカラを示すものだと思います。偶然で17個もタイトルは獲れないでしょう。
第2戦の舞台は浦和サポーターで真っ赤に染まった埼玉スタジアム。スタジアム全体の圧力を受けながら一角で鹿島サポーターも懸命に声を上げますが、いかんせん数の上では浦和が圧倒的。平日とは言え鹿島のホームで行なった第1戦は2万人そこそこの集客だったあたりを考えると、「こりゃあ浦和さんの勝ちでしょうがないですかね」と他人事としては思う状況です。
第1戦の感じからして、強そうなのは浦和。ボールを持つ時間も長く、ゴールに迫る回数も多く、かなりの時間で押していました。決着は興ざめするような杓子定規判定でのPKでしたが、仮に0-0で終わっていたとしても、浦和優位の下馬評は立ったことでしょう。それぐらい強そうでした。
第2戦もその構造は変わりません。立ち上がりから何度も鹿島ゴールに迫り、前半4分にはゴール正面でシュートを放つビッグチャンスも。鹿島はついていって跳ね返すのがやっとという感じで、2点取らなければいけないのに防戦に追い込まれます。
↓そして前半7分、あっさりと鮮やかに浦和が先制!
スローインで裏に抜けて、クロスに合わせてダイレクトボレー!
ゲームみたいなキレイなゴール!
浦和圧倒的やん!
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得点の直後にも右サイド突破から、クロスバーを直撃するシュートを放つなど、浦和は押しています。前半26分にも武藤が抜け出したチャンスがありました。あまりに押しているので「もう終わったな」と裏番組を見ようかなと思ったほど。しかし、この状況を鹿島はいたって冷静に受け止めていました。無失点も1失点も同じことというレギュレーションの理解は当然。さらにその上で、精神的支柱である小笠原満男は「むしろこれで浦和が難しくなった」と感じていたと言います。
何が難しいのか、傍目にはよくわかりません。浦和の優位は変わらないのです。ただ、勝ち切るということの難しさを肌身で感じてきた鹿島の男にはわかるのでしょう。優位に立った状態で自分をコントロールし、勝利をつかみ取るまでの苦難が。「イケる」「勝った」と思ってからの果てしなく長い時間が。
鹿島はなかなか打開策を見い出せないなかで、球際の強さ、あと一歩の粘りで対抗します。ほとんどの時間に渡って攻撃ができず、シュートすら撃てないという前半がつづいても、まったくもって下を向くことがありません。少ないカウンターのチャンスでゴールを目指し、ピンチを黙々と跳ね返しつづける。鹿島らしい戦いです。
ほとんど攻め手がないなら、少ないチャンスで決めればいい。前にボールが運べないなら、セットプレーを狙えばいい。気持ちよく勝てなくても、勝てばいいという伝統のスピリット。このチームで育った男ならば、ワールドカップで無人のゴールに流し込むのを失敗するなんてことは、きっとないだろう…そう感じさせる集中力で、反撃のチャンスをうかがいます。そして、ジワジワジリジリと盛り返しながら、迎えた前半40分!
↓DFラインからの縦一発で遠藤が裏に抜け出し、逆サイドで叩き込んだのは金崎!
攻める必要なんてまったくないのに、ずっと人数かけて攻めてるもんだから、縦1本で3対3の状況作られちゃった!
銃を構えながら「来るな!」って90分脅しているだけでいいのに!
結局前半は1-1で折り返し。日本代表ハリルホジッチ監督が「誰にしようかな…」と高みの見物を決め込む中で、試合は勝負の後半に突入します。もちろん、依然として浦和が有利であることは変わりません。このままいったら浦和優勝なのです。だから、リスクを負う必要などないのです。リードしているのだから。
しかし、「俺たちはそういうんじゃない!」という魂の叫びのようなものが聴こえる浦和の戦い。浦和はチャンピオンシップやJ1リーグを勝ちにいくだけでは納得できなかったのか、この試合を勝ちにきました。ひきつづき人数をかけて攻める攻撃的サッカー。ありがたい。感謝の気持ちがわいてきます。
有利なほうが、リスクをとらなくなったら途端に勝負は面白くなくなります。しかし浦和は、槙野智章・森脇良太・柏木陽介といったエンタメ勢が、そしてチーム全体が、「俺たちは最後まで面白いサッカーをやるんだ」という意志をこの舞台でも貫いています。どんどん前に上がっていって人が飛んでくる、エンターテインメントサッカーのプロフェッショナルたち。「だから負けるんだな…」と思いながら、「だから人気があるんだな…」とも思わされる。浦和のおかげで、試合は熱く、面白いものになりました。
後半13分、点を取らなければならない鹿島はFWの鈴木を投入し、先に動きます。すると浦和はたてつづけに2人を代えて対抗。柏木のポジションが前にずれたところからすると、点を取って決めるということなのか、それともやや軸足を後ろにずらして引き気味にいくのか。優位な状況が浦和の動きを難しいものにさせていたのか、ハッキリとひとつのメッセージが伝わる交代ではありませんでした。
このあたりに小笠原の言う「浦和は難しくなった」があるのかもしれません。「攻めて勝つ」のか「守って勝つ」のか。どちらも正しいだけに、どちらを選ぶかで意見がわかれやすいもの。同じ方向に向かって全員が同じことを遂行できてこそ、チームのチカラも活かされるわけで、そこを統一していくためには選択肢の多さがマイナスに働いた格好です。
浦和はFWのズラタンを投入して、後半26分で全部のカードを切り終えるという早仕掛け。一方、鹿島も小笠原を下げて西をボランチの位置に上げて勝負に出ます。「次の1点を取るのはどっちか」という構図での勝負。浦和は次の1点取る必要は全然ないんですが、次の1点勝負を敢然と受けて立ちました。カッコいいですね。面白いですね!
↓そして迎えた前半32分!鹿島がカウンターから裏に送ると、抜け出した鈴木を浦和のDF・槙野が倒してPK献上!次の1点は鹿島に!
凡ミスの三暗刻みたいな痛快プレーだなwwwww
こんなに一生懸命攻めてること自体もアレだし、裏に人がいるのを気づかずにボールを流すのもアレだし、倒すなら倒すで決断が遅いし、エリアまで入ってから倒すというのはもうアカン!
「1点もやらずに時間をやりすごす」という意識だったら、「攻めない」「すぐ蹴り出す」「すぐ倒す」だったのに!
浦和・槙野もPKを与えるつもりはなかったのかもしれません。手をかけて倒しにいったのは、ペナルティエリアの外でした。しかし、見た目にもガッシリとした鹿島・鈴木の突破は一手では倒せなかった。エリア内に侵入を許したところで、足を当ててようやく倒すというプレー。ほとんどのファールを流し、この決定機阻止をイエローでとどめる本日の主審でも、さすがに流すことができない見事な体当たりでした。第1戦の主審ならPK2本とレッドカードをくれそうな、見事なプレーでした!
↓ちなみに、こういう状況にバッチリはまるスタンプも出ていますよ!
槙野スタンプの汎用性の高さ pic.twitter.com/xrLZ8GS7YA
— UG (@soccerugfilez) 2016年12月3日
楽しいじゃないかwwwww
味方にしたらイラッとするけど、他人事として見れば最高の選手だなwwwww
点を取るしかなくなった浦和は、ようやく意志のまとまりを見せ、攻めダルマと化します。DF槙野を前線に上げて、攻撃力にも期待する構え。「槙野がPK献上せなんだら槙野を前線に上げる必要はなかったのに、槙野がPK献上したから槙野の攻撃力に期待」という禅問答のような布陣に、僕もおもちゃのサルのように手を叩いて大喜び。
↓NHKも負けてるほうのファンをスーパースローで煽る煽る!
槙野智章のスーパースローじわる
— とむ (@rom_0129) 2016年12月3日
#nhk #JリーグCS pic.twitter.com/dTS1y5HRD4
餅は餅屋というけれど、餅がマズかったので食後のコーヒーで挽回しようとしてる感じだな!
餅で頑張ろう!
価格:1,404円 |
しかし、浦和以上の意志統一を見せるのは鹿島のほう。「よっしゃ、時間稼ぎや」と全員が私利私欲を捨てて団結します。徹底的に跳ね返していくセーフティな守備。ベンチはさっき入ったばかりのFW鈴木を下げて、追い回し&時間稼ぎ相撲要員のFW赤崎を投入するというメッセージつきの采配で、やることを明確にしていきます。
交代で退くことが決まった鈴木は、普通なら「俺かよ!」と苛立ってもおかしくないところ。しかし、さすが鹿島の男。気持ちを切り替えて、自分のなすべきことに全力を尽くします。プレーが切れ、主審の笛が鳴ったあと、実に33秒。何度もうしろを振り向いてのチームメイトを鼓舞するジェスチャーと、身体を揺らすだけで全然前に足を出さないノロノロ歩行で、鈴木は時間を使います。最後の数歩のクッソ遅い歩みには、おもちゃのサルもパチパチパチパチ大拍手。歩くの遅いぞ!最低だなこのチーム!もっとやれ!
↓期待に応える鹿島の鹿島らしいサッカーが優勝へのカウントダウンを刻む!
●後半43分
右サイドでボールを受け、ドリブルで突破する鹿島・金崎。この日も2点をあげた殊勲のエースは、逆サイドにフリーの赤崎が見えているのに、ハットトリックも追加点も目指さず、コーナーポストを目指してドリブル開始。コーナーポスト付近での相撲を選択するという鹿島イズムを見せる。
●後半47分
浦和がGK西川がゴール前に上がろうとしたり帰ろうとしたりフワフワする中で、ガッチリ一枚岩にまとまる鹿島。プレーが切れたタイミングで石井監督が主審に近づくと、何やら激しく文句。「ベンチが文句を言って時間を稼ぐ」という総力戦で、監督もまた鹿島の男なのだということを示す。あまりに汚いやり口に頭にきたのか、浦和の武藤は石井監督に寄ってきて「帰れよ!」と直接文句。なお、ヒートアップした武藤は、その直後に決定機でフカす。
●後半49分
相手がシュートをフカしてゴールキックになったあと、鹿島・曽ヶ端は悠然として蹴らず。誰かが時間でも伝えているのか、目安の4分台を超えたところで金崎に向けて蹴ると、金崎はヘッドでサイドラインの外に叩き出し、流れるような動きで右手を指して「時計」のアピール。「あぁこのチームってこういうのを集団で徹底しているんだな」という感じがして、ホントすごく好き。
金崎のようなエゴっぽい選手にすら、ここまで徹底させる!
鹿島イズムがチームに息づいている!
↓そして、すべての時間を鹿島が削りとったあと、浦和・槙野は会心の仁王立ちでエンターテインメントサッカーを貫いた!
ある意味一番いい扱いされてる槙野智章#nhk #JリーグCS pic.twitter.com/JyAGtvgPeT
— とむ (@rom_0129) 2016年12月3日
負けたときのポーズを考えてたみたいな立ち振る舞いwwww
惜しいなwwwww
もうちょっとサッカー上手だったら、もっと大きな舞台でコレが見られるのにwwww
面白いんだけど、大舞台まで届かないのが惜しいwwwww
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鹿島アントラーズの勝利で幕を閉じた2016年のJ1リーグ。しかし、負けた浦和も落ち込むことはありません。何と、来年は「年間勝点1位が優勝」というルールでやることになったのです。大相撲で言ったら「年間で一番勝ち星を挙げたら横綱にしてもらえる」というクソのようなルールですが、来年は一年間ダラダラーッと強かったチームが優勝ということになっております。
1試合だけなら技術・戦術で上回ってくる相手がいるかもしれませんが、一年間ダラダラーッとやるのであれば、資本に欠くチームはどこかで崩れるものです。勝てそうにない相手とは五分五分程度で頑張り、弱ってヘタったチームから確実に勝ちを拾えば、来年こそは王座につくことができるはず。今年できたんだから来年もきっとできるはずです。
「この1試合」に勝たなくても優勝できる温情ルールを活用して、ぜひ頑張ってもらいたいものですね!
ダラダラ強くて「この1試合」にも強い、それが真の強者であり勝者!
全然賛同はしないけど、一側面の見方としてそういう考え方もありかなとは思う。