コツブムシの繁殖機構を乗っ取るヤドリムシ
ワラジムシ目(等脚類)のうち、約8割は自由生活 Free-living であり、他の生き物に寄生しない。
しかし残りの2割は、他の生き物に寄生して、血液、体液などを吸うことがある。
ワラジムシ目のウオノエ亜目には、寄生する種が多い。
タイノエ、ウミクワガタ、ヤドリムシなど。(ダイオウグソクムシもウオノエ亜目だが自由生活)
そのうち、カクレヤドリムシ上科 Cryptoniscoidea の一種 Ancyroniscus bonnieri は、同じワラジムシ目のコツブムシの一種 Dynamene bidentata に寄生することがわかっている。
Dynamene bidentataの生態
Dynamene bidentata は地中海など大西洋北部の浅い海に生息するコツブムシの一種である。オス
http://nature22.com/estran22/crustace/isopodes/isopodes.html より引用
和名はない。つけるなら、フタトゲコツブムシかな。
オスは背中に2本のとげを持つが、メスは持たない。
潮間帯や潮下帯の岩の隙間や死んだフジツボの殻をすみかにしている。
日本にも死んだフジツボを住処にするコツブムシが見られる。
ワラジムシ目なので、コツブムシのメスも卵をお腹の育房で保護し、孵化するまで抱える性質を持つ。
カクレヤドリムシの一種 Ancyroniscus bonnieri は、この卵を抱えているメスに寄生する。
Ancyroniscus bonnieri の生態
(最近はsci-hubやresearchgateでタダで論文が読めるのだが、これは読めないようだ。)
Ancyroniscus bonnieri は Dynamene bidentata だけに寄生する。
寄生率は高く、1~3割ほど。
成体と寄生型幼生は、見た目がハエの幼虫のようで、目はなく、口器や胸脚などは退化している。
プランクトン幼生は発達した胸脚を持つ。
このカクレヤドリムシの幼生は、何らかの方法でこのコツブムシの体内に侵入し、内臓の組織に住み着く。
このときは、オスのコツブムシに寄生することもあり、一匹のコツブムシに最大4匹まで寄生する。
ただし、カクレヤドリムシのメスが卵をつくる場合は、コツブムシのメス一匹を独占する。
コツブムシの卵を食べ、代わりに自分の卵を産み付けてしまう恐ろしい寄生虫である。(・∀・;)
寄生されたコツブムシは、カクレヤドリムシの卵を育てる。
ほとんどのダンゴムシが持つ、卵が孵るまでメスがお腹で保護する形質を逆手にとっているのである。
このようなヤドリムシは日本にいるのだろうか?
なんでホストは特定のコツブムシだけなのか?
コツブムシはヤドリムシに対抗する手段を備えているのか?
いろいろ気になる。
詳しい生活史
長いです。
1.コツブムシが成熟し、卵が育房内にできると、カクレヤドリムシのメスは繁殖行動を開始する。
2.外骨格を破り、育房内に、頭と胸節の前半分を出す。
寄生されたコツブムシの断面図。論文より引用
pp: 成熟前のカクレヤドリムシのメス。pe: 吸収されているコツブムシの卵
3.体組織に後ろ半分を固定したまま、コツブムシの卵を食い尽くす。
カクレヤドリムシのサイズが小さいと食べ残すことがある。
寄生しているのに口器や胸脚がわずかに残るのは、卵をエサにするため。
4.カクレヤドリムシのお腹は、卵を消化して得た脂質で膨れる。
成熟したメスは、この栄養を元に、自分の卵を作り出す。
5.作った卵は、コツブムシの育房と体組織内の両方に産む。
コツブムシよりも数が多い。
カクレヤドリムシに卵を産み付けられたコツブムシ。論文より引用
6.数ヶ月すると卵が孵り、カクレヤドリムシの幼虫が出てくる。
親のコツブムシ、カクレヤドリムシは共に死ぬ。
7.そして、出てきた幼虫は、プランクトンになり、一次寄生者のカイアシ類に寄生しながら生活する。
そして、コツブムシが見つかるまで漂い続ける。
この論文にカイアシ類に寄生するヤドリムシ類の写真が載っている。
ここには、「ヤドリムシに寄生されているカイアシは珍しい。」と書いてある。
カクレヤドリムシも生きていくのが大変なのかな。私も大変です。(._.)
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