政府・与党が、ビール類への税を2020年度から6年かけて段階的に統一する方針を固めた。ビールは減税し、発泡酒と第3のビール、さらにチューハイ類を増税する。醸造酒の税額をそろえるために日本酒の減税とワインの増税も実施し、「酒税全体の簡素化」を図るという。
酒への課税はアルコール依存症の広がりを防ぐ狙いもある。消費を抑えるにはアルコール度数が高いほど税を多くするのが明快だ。健康への影響や酔いの程度を論じるのも度数が基本で種類は関係ない。また欧米では、ウイスキーなど度数の高い蒸留酒は累進的に大きな税額で、ビールやワインなどの税額は小さい。
ところが、日本ではビールの税額が突出して大きい。350ミリリットルあたり77円と、ドイツの19倍、米国の9倍という。同じ度数に換算すると焼酎などの4倍以上の税額をかけている。輸入品や高級品に高い税金を課してきた名残が、ビールだけに生きていると言われる。
業界は重い負担を回避するため、1990年代以降、技術開発を重ねてきた。麦芽の比率を下げたり、他のアルコール分を加えたりし、税金が350ミリリットル47円の発泡酒や同28円の第3のビールを生み出した。その度に税務当局は、工夫の芽を摘むように抜け道をふさいだ経緯がある。
今回、政府・与党は3種類あるビール類の垣根を取り払って55円に一本化するという。「似た味の飲み物なのに税額が異なる市場のゆがみを是正する」との考えだが、ビールへの税が突出して高い酒税全体の構造的なゆがみは放置したままだ。
また、醸造酒のくくりで日本酒とワインの税額をそろえ、720ミリリットルで日本酒約86円、ワイン約58円が、いずれも72円になる。減税によって日本酒の消費を促す考えもあるようだ。不可解なのはチューハイ類も「簡素化」を名目に、増税することだ。第3のビールと同じ350ミリリットル28円が約35円になる。第3のビールとともに、消費者に人気の酒類を狙い撃ちした「大衆増税」の色彩が濃いと言わざるを得ない。
簡素で明快なのは、欧米が基本とするアルコール度数に比例した税額設定だ。この考えでウイスキーや焼酎など蒸留酒は97年から段階的に、度数が同じ場合、同じ税額になるようにした。これにならえばビールなどは最も税額が小さくなり、ビールは350ミリリットル15円程度で、チューハイ類は度数8度のものは同30円程度である。
政府は酒税収入が減ると反論するだろうが、「税収中立」は絶対条件ではなく法人税改革ではこだわることなく実施した。取りやすいところから取るという思惑がにじむ現在の方向は、根本から再検討すべきだ。