♪チャララ~、チャララ~
見たことがなくても、結末を知らなくても、誰もがテーマ曲の冒頭を知っている映画『仁義なき戦い』は、1973年1月に公開され、雑誌『キネマ旬報』で読者が選ぶその年の日本映画第1位に輝いた大ヒット作だ。第5作まで続いたこのシリーズの人気の要因は、菅原文太、松方弘樹、伊吹吾郎、渡瀬恒彦、金子信雄、梅宮辰夫、それに千葉真一など錚々たるスターの共演に加え、そのリアリティだった。
《サツにチンコロしたのはおどれらか!》
戦後の広島県で起きたヤクザによる抗争事件をもとにした物語と映像は、見る者に瞬きを忘れさせるほどだった。
血糊の飛び散り方まで突き詰めよ
リアリティを支えたのは、現実の直視、綿密な取材、画づくりより流れ優先の撮影など様々だが、当年42歳の若き監督・深作欣二の力量に負うところが大きい。
深作は、熱量過多の人物だった。こんなエピソードがある。
『仁義なき戦い』を見たことのある人なら頭にこびりついて離れないであろう、ヤクザが散髪中に殺害されるシーンの撮影は、商店街に実在する理髪店で行われた。
午前中で終える約束だったが、血糊の飛び散り方が“微妙に”違うとなって、壁や床をきれいに拭いては再撮影を繰り返し、OKが出たときには夕方になっていた。
その店は改装を経て現存している。主人は当時のことを良く覚えていた。
「深作さんが初めてみえたとき、『この人、悪役の人かな』って思ったらね、『ほんなら監督の~』って言われてね。『え~』思うてね」
そう、「深作欣二」をキーワードに画像検索すれば明らかなように、かなりの強面である。その人物が自分の中から発せられる熱量を上回るものの発露を期待し、ある言葉を多用して周囲をたきつけていた。
「カメラがドンと構えてたら、“微妙に動いた方がいいんじゃないの”って」(撮影助手の水巻祐介)