カート・ヴォネガットという人間について
カート・ヴォネガットは1922年にインディアナ州で生まれました。ヴォネガットはドイツ移民系のアメリカ人で、第2次世界大戦に従軍した経験があります。その経験が彼の大きなバックボーンとなっていることは間違いないでしょう。戦争は壮絶なもの。その中でも彼にまつわるお話でもっとも有名なのがドレスデンの空爆です。
ドレスデンの空爆というのは第2次世界大戦終盤に行われた英米連合空軍によるドイツ都市・ドレスデンへの大規模空爆です。当時ヴォネガットはドイツ軍の捕虜となっており、ドレスデンで拘束されていました。そして、アメリカ兵ながら空爆を体験し被害者となったのです。
祖国に爆弾を落とされたという現実、そして焼け野原となったドレスデンの光景と、そこで経験した凄惨な事件の数々……ヴォネガットはそんな戦争を生き抜き、祖国へ帰還します。帰還した彼はさらなる不幸に直面します。従軍している間に、彼の母親は睡眠薬で自殺していたのです。貧しさと息子のドイツ戦線配属が原因です。
この一連の事件は、作家カート・ヴォネガットの作風に大きく影響しています。戦争体験をバックボーンとした“人類への大きな絶望”と“人類への愛”をユーモラスな物語で表現する小説群は、まさに唯一無二です。
そんなヴォネガットを敬愛する人物は数多く、日本では大江健三郎や村上春樹、爆笑問題・太田光などが影響を大きく受けたことで知られています。また舞城王太郎の作品からもヴォネガットのエッセンスを感じることができます。
人に絶望しながら、人を愛することをやめなかった彼の小説を読まずに人生をすごすのは本当にもったいない。ぜひとも、1度は手にとっていただきたく思います。
ドレスデンの空爆というのは第2次世界大戦終盤に行われた英米連合空軍によるドイツ都市・ドレスデンへの大規模空爆です。当時ヴォネガットはドイツ軍の捕虜となっており、ドレスデンで拘束されていました。そして、アメリカ兵ながら空爆を体験し被害者となったのです。
祖国に爆弾を落とされたという現実、そして焼け野原となったドレスデンの光景と、そこで経験した凄惨な事件の数々……ヴォネガットはそんな戦争を生き抜き、祖国へ帰還します。帰還した彼はさらなる不幸に直面します。従軍している間に、彼の母親は睡眠薬で自殺していたのです。貧しさと息子のドイツ戦線配属が原因です。
この一連の事件は、作家カート・ヴォネガットの作風に大きく影響しています。戦争体験をバックボーンとした“人類への大きな絶望”と“人類への愛”をユーモラスな物語で表現する小説群は、まさに唯一無二です。
そんなヴォネガットを敬愛する人物は数多く、日本では大江健三郎や村上春樹、爆笑問題・太田光などが影響を大きく受けたことで知られています。また舞城王太郎の作品からもヴォネガットのエッセンスを感じることができます。
人に絶望しながら、人を愛することをやめなかった彼の小説を読まずに人生をすごすのは本当にもったいない。ぜひとも、1度は手にとっていただきたく思います。
スローターハウスで迎えた、あの日
カート・ヴォネガットの著書として名高い『スローターハウス5』はアメリカ文学最高傑作とも評される小説です。前述したドレスデンの空爆を取り扱った小説でもあります。
ヴォネガットが実際に経験したドレスデンの現実をベースに、ビリー・ピルグリムという人物を主人公にして物語が進みます。もちろん、ただの戦争小説ではありません。トラファマドール星人という時空を超越した異星人がストーリーに絡み、小説内の時間軸がランダムに交錯しつつお話は進行していきます。
ヴォネガットが実際に経験したドレスデンの現実をベースに、ビリー・ピルグリムという人物を主人公にして物語が進みます。もちろん、ただの戦争小説ではありません。トラファマドール星人という時空を超越した異星人がストーリーに絡み、小説内の時間軸がランダムに交錯しつつお話は進行していきます。
スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)
| 作者 | カート・ヴォネガット・ジュニア |
|---|---|
| 出版社 | 早川書房 |
| 出版日 | 1978年12月31日 |
SF的な要素も面白いのですが、1番の魅力は小説すべてから溢れるヴォネガットの“愛情”に他なりません。この小説の登場人物というのは、全員変人です。主人公のビリーは生気を失ったゾンビのような若者で、彼と一緒にドイツ軍から逃げる太っちょ砲兵は拷問好きの変人。ビリーの家族もなかなかにアクが強く、ダルマのような妻と生意気な娘がビリーの人生を飾ります。そんな一癖も二癖もある人物を、やわらかく描写し、そして人間味溢れる姿で描くヴォネガットのセンスは、この残酷な小説世界をあたたかく照らす唯一の光です。
小説全編にちりばめられる「そういうものだ。」という語句からにじむヴォネガットの絶望。そしてそれに対する、前述したヴォネガットの愛情……相反する心でつづられる物語は、過去から未来、未来から過去へと時間軸を躍らせながら、読者のページをめくる手を加速させます。
ヴォネガットと同じく、ビリーもまたドレスデンの地にたどり着き……そしてタイトルにもなった『スローターハウス5』(現実でヴォネガットが過ごした屠殺場)で運命の空爆を迎えます。
ラストシーンからにじみ出る静かな迫力と、心をつかんで離さぬ読後感……きっと、あなたもカート・ヴォネガットが好きになるはずです。
ナイス、ナイス、ヴェリ・ナイス
『猫のゆりかご』はカート・ヴォネガットの出世作であり、彼の在籍したシカゴ大学はこの小説を持ってヴォネガットに博士号を授けます。
さて、この『猫のゆりかご』は簡単にいうなれば“ドタバタ世界崩壊小説”です。この本の中心となるのがフェリックス・ハニカーという架空の科学者。小説の主人公たる語り手は、ある本を書くために彼の調査をしていました。すると、彼が「アイス・ナイン」と呼ばれる世界を破壊しかねないすべてを凍らせる物質を完成させていた事実が発覚します。
さらなる聞き込みの結果、その危険物質はハニカーの死の際に、3人の我が子に分け与えたとのことで、そのうちの1人がサン・ロレンゾ共和国(架空の国家)で高官をしていました。語り手は彼と会い「アイス・ナイン」について調べるため、サン・ロレンゾ共和国に向かいます。
さて、この『猫のゆりかご』は簡単にいうなれば“ドタバタ世界崩壊小説”です。この本の中心となるのがフェリックス・ハニカーという架空の科学者。小説の主人公たる語り手は、ある本を書くために彼の調査をしていました。すると、彼が「アイス・ナイン」と呼ばれる世界を破壊しかねないすべてを凍らせる物質を完成させていた事実が発覚します。
さらなる聞き込みの結果、その危険物質はハニカーの死の際に、3人の我が子に分け与えたとのことで、そのうちの1人がサン・ロレンゾ共和国(架空の国家)で高官をしていました。語り手は彼と会い「アイス・ナイン」について調べるため、サン・ロレンゾ共和国に向かいます。
猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)
| 作者 | カート・ヴォネガット・ジュニア |
|---|---|
| 出版社 | 早川書房 |
| 出版日 | 情報なし |
その「アイス・ナイン」と肩を並べ、存在感を発揮するのが「ボコノン教」です。これはサン・ロレンゾ共和国で流行している宗教なのですが、これがまた妙な宗教なのです。聖典の前置きに「すべて真っ赤な嘘である」とあったり「ナイス、ナイス、ヴェリ・ナイス」とうたうカリプソという正式な歌があったりと、とにかくハチャメチャです。
小説全編で語られるボコノン教のユーモラスな教えはまさに“まじめにふざけている”状態であり、じわじわくる面白さだらけです。聖典の拷問に関する項目では「もしわたしが鉤吊りにされるようなことがあれば、たいへん人間らしい振る舞いをすると思いなさい」とつづられています。ボコノンの神さまは痛みが大変苦手なようです。
しかし、この小説は“世界崩壊小説”であります。サン・ロレンゾ共和国の独裁者がハニカーの子どもから「アイス・ナイン」を入手し、それを使って自殺を試みた結果……結末はぜひともその手で確かめていただきたいです。
もう孤独じゃない
カート・ヴォネガットの書いた小説でもっともトリッキーと思われるのが『スラップスティック』です。
この『スラップスティック』はヴォネガット本人曰く、自伝小説とのこと。確かに、小説冒頭は実の兄との会話から始まっております。しかし現実でのやり取りを冒頭に持ってくるというのは『スローターハウス5』でも見られた手法です。物語本編になると現実離れした設定が目白押しになります。
小説の舞台は緑死病という奇病と重力の乱れによって崩壊したマンハッタンです。そこで孤独に生きる老人が過去を回想する形でお話が進みます。
この『スラップスティック』はヴォネガット本人曰く、自伝小説とのこと。確かに、小説冒頭は実の兄との会話から始まっております。しかし現実でのやり取りを冒頭に持ってくるというのは『スローターハウス5』でも見られた手法です。物語本編になると現実離れした設定が目白押しになります。
小説の舞台は緑死病という奇病と重力の乱れによって崩壊したマンハッタンです。そこで孤独に生きる老人が過去を回想する形でお話が進みます。
スラップスティック―または、もう孤独じゃない! (ハヤカワ文庫 SF 528)
| 作者 | カート・ヴォネガット |
|---|---|
| 出版社 | 早川書房 |
| 出版日 | 情報なし |
その老人、ウィルバーの歩んできた人生が壮絶です。大富豪の家で姉と一緒に双子として生まれた彼は、化け物のような外見をしていますが、世界最高の知性を持っていました。
それは姉と体を寄せ合っている間だけ発揮できるものでした。そんな双子ですから、彼は姉と大の仲良しです。しかし、そんな幸せな時間が続くはずもなく、姉とウィルバーは離れ離れになってしまいます。
この小説がカート・ヴォネガットの自伝であるといわれるゆえんは、この姉の存在にあります。実はヴォネガットにはお姉さんがいましたが、彼女は癌にて早逝してしまいました。この『スラップスティック』はそんな姉への愛情がつづられたある種の家族小説であり、
「聞こえたかい、イライザ?(作中の姉の名)」わたしはいった。「愛してるよ! ほんとに愛してる!」
というような天国の姉に向けたヴォネガットの深い愛情が各所にちりばめられています。大統領になった際に行った「もう孤独じゃない!」というキャンペーンも、元々は姉と2人で思いついたものであり、その政策を行っていくウィルバーに、ヴォネガットとその姉の関係を見ることができます。
愛とはありふれた親切である。冒頭でそう語ったヴォネガットのあたたかな感情が詰まった1冊です。
戦争は、ろくでもない
『スローターハウス5』と同じく第2次世界大戦を真正面から描いたのがこの『母なる夜』です。
作品のあらましはこう。アメリカの劇作家であるハワード・W・キャンベルは、ひょんなことからドイツのラジオ放送をすることになり、そしてアメリカの軍事スパイとしてドイツの内部を調査する羽目になります。
そして戦争が終わりナチスの一員であるとして、イスラエルにて軍事裁判を受けることになってしまいます。アメリカの軍事スパイをしていたという証明もできず、彼はアメリカの裏切り者として扱われることに。その後、アメリカ国内にて隠れるような生活を送るキャンベルが人生を振り返る形でそれらの過去を回想していきます。
作品のあらましはこう。アメリカの劇作家であるハワード・W・キャンベルは、ひょんなことからドイツのラジオ放送をすることになり、そしてアメリカの軍事スパイとしてドイツの内部を調査する羽目になります。
そして戦争が終わりナチスの一員であるとして、イスラエルにて軍事裁判を受けることになってしまいます。アメリカの軍事スパイをしていたという証明もできず、彼はアメリカの裏切り者として扱われることに。その後、アメリカ国内にて隠れるような生活を送るキャンベルが人生を振り返る形でそれらの過去を回想していきます。
母なる夜 (ハヤカワ文庫SF)
| 作者 | カート,Jr. ヴォネガット |
|---|---|
| 出版社 | 早川書房 |
| 出版日 | 情報なし |
戦争というものに壊されたキャンベルの人生がもの悲しいです。国の裏切り者とされた彼は隠匿生活を余儀なくされるのですが、ある日外から聞こえた子どもの「かくれんぼ」の声をきっかけに、「わたしのかくれんぼをやめさせるために、だれか甘くもの悲しい声で叫んでくれないものか」と切実に願うシーンは胸を締め付けます。
戦争とは人の人生をこうも変えてしまう。戦争への静かな怒りがひしひしと伝わってくる『母なる夜』、一読の価値ありです。
天にいる誰かさんは……
全米一の大富豪、マラカイ・コンスタント。彼に降りかかった太陽系規模の騒動を描いたのが『タイタンの妖女』です。
この小説の中心にいるのがウィンストン・ナイルス・ラムフォードなる人物です。この人は自家用宇宙船で旅していたところ、“時間等曲率漏斗”なる不可思議空間に巻き込まれ、その結果太陽とベテルギウスの空間に偏在するようになりました。その恩恵として彼は未来と過去を知ることができるようになり、未来を予言するようになります。
そんなラムフォードから突如呼び出されたのが主人公のマラカイ・コンスタントです。彼はラムフォードから火星から水星、地球、そして土星の衛星であるタイタンへ旅するだろうと予言されます。そして実際にコンスタントは予言どおり旅をすることになるのですが……。
この小説の中心にいるのがウィンストン・ナイルス・ラムフォードなる人物です。この人は自家用宇宙船で旅していたところ、“時間等曲率漏斗”なる不可思議空間に巻き込まれ、その結果太陽とベテルギウスの空間に偏在するようになりました。その恩恵として彼は未来と過去を知ることができるようになり、未来を予言するようになります。
そんなラムフォードから突如呼び出されたのが主人公のマラカイ・コンスタントです。彼はラムフォードから火星から水星、地球、そして土星の衛星であるタイタンへ旅するだろうと予言されます。そして実際にコンスタントは予言どおり旅をすることになるのですが……。
タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)
| 作者 | カート・ヴォネガット・ジュニア |
|---|---|
| 出版社 | 早川書房 |
| 出版日 | 2009年02月25日 |
登場人物のなかでもひときわ存在感を放つのがラムフォードです。彼はまさに神のような存在であり、大きなヴィジョンの下でコンスタントや地球人たちを利用していきます。その規模はすさまじく、地球を団結させるためにラムフォードが遂行した計画では罪のない地球人20万人が命を落とすことになります。
この『タイタンの妖女』に登場する人物のすべては、前述したように誰かに利用されています。人生とは誰のための人生なのか。物語を理解していくと、そんな疑問が浮かび上がります。この疑問は物語だけでなく、わたしたちのすごす現実にも通用する疑問です。しかし物語終盤のある人物の台詞が、その疑問に対して明確な答えを示します。
ユーモアを織り交ぜながら、グロテスクでどうしようもない世界を描き、読み手を笑わせ、そして深く考えさせる。まさにヴォネガットの真骨頂が現れた小説です。
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