先週の当コラムでも取り上げた「私の12月イチオシ・イベント」であるイタリア国民投票。
とうとう投票日がこの週末に迫ってきました。そこで、今週のコラムでは、イタリア国民投票だけでなく、もう一段掘り下げ、どうしてイタリアの国民投票がここまで注目を浴びているのかについても、書きたいと思います。特にユーロを取引している方は、是非お読みいただけると幸いです。
それでは、投票時間も含んだ「国民投票の詳細」をご紹介します。
今回の国民投票は、投票終了と同時に出口調査が発表されるようです。ただし、イタリアの出口調査は他国と比較すると、精度がかなり低いため、決め付けは禁物でしょう。
先週のコラムでは、投票結果と為替の動きについて、自分なりの予想を載せました。
今週は、政局の変化を考えてみたいと思います。まず最初に、私の主観に基づいた「YES、NO」それぞれの結果による政局の変化を、わかりやすく図にしてみました。
私もこれを調べるまでは、「イタリア銀行問題」にばかりフォーカスを当てていました。もちろん、この問題は今後もイタリアを悩ませ続けるでしょう。しかし、それとは別の意味で重要な問題は、レンツィ首相が昨年導入した「2015年新選挙法 Italicum」です。
最初に、Italicumの内容を説明しましょう。この新選挙法は、2015年5月に導入されたばかりです。
先週のコラムでも書きましたが、イタリアでは政権交代が激しいため、それを出来る限り回避するためにも、このような「単独過半数以上の議席を持つ与党政権」の確立が必要です。しかし、Italicumには、大きな落とし穴がありました…。
Italicumの生みの親であるレンツィ首相も、内容の一部変更、或いは大幅改正を最近は口にしているそうです。その「気になる変更部分」とは何か?それは自身が属する民主党(PD党)政権に有利に働くと考えて設定した「40%以上の得票率を獲得した政党」という部分でした。
この選挙法が導入された当時は、反体制派/反ユーロ政党:5つ星運動の人気は、それほどではありませんでした。しかし、今年に入り世界的なポピュリズム台頭の追い風に助けられ、同党の支持率はジリジリと上昇しています。もし今すぐイタリアで総選挙が実施されれば、40%以上の票を獲得するのは5つ星運動に違いないとまで言われています。
下のチャートは、「民主党vs5つ星運動」の二者択一式の世論調査結果ですが、年初は『民主党>5つ星運動』であった支持率が、6月の英国の国民投票実施以降は、ほぼ例外なく『民主党<5つ星運動』となっているのが確認できます。
出典:各種報道データ
レンツィ首相としては、自身が属する民主党にとって良かれと思って作ったItalicumでしたが、Brexit(英国のEU離脱)以降のポピュリズムの台頭により、思わぬ誤算が生じたようです。
「国民投票結果はNO」がコンセンサスとなっているため、ここではその場合の反応について考えてみました。
・為替
初動は、ユーロが対ドルで50〜100ポイント程度、売られると考えています。しかし、問題はその後のイタリア政局の動きにかかっているでしょう。考えられる可能性として、
**来年早々、解散総選挙が実施される
最悪シナリオとなり、ユーロは更に下落。
**Italicum改正版が来年上半期に可決されるという前提に基づき、解散総選挙が下半期に実施される
この場合、5つ星運動が政権を取るチャンスが減少するため、ユーロは戻すでしょう。ただし、「Italicum改正版の可決は無理/否決された」という展開となった瞬間、ユーロは下落。
**レンツィ首相の辞任が認められず、今までの日常に戻る
この場合、ここからのレンツィ政権が議会の支持を得れるか?得れないか?で大きく左右されると考えます。
**レンツィ首相辞任を大統領が承認せず、レンツィ暫定政権が、2018年総選挙まで継続
自分としては、これが一番嫌なパターンです。暫定政権である以上、重要法案などの決定は遅れる/出来ない状態が続きます。ユーロはジリジリと売られていくと予想。
**レンツィ首相辞任を大統領が承認し、新しい首相が誕生する
首相が誰になるかが判らないため、予想なし。
・株
銀行株を中心に、売られると予想。欧州内の他の銀行株も同時に売られるでしょう。
・債券(国債)
初動は売り(国債利回りの上昇)だと考えるのが普通ですが、12月8日にECB理事会があり、そこでイタリア国債の購入枠拡大などの「特別措置」が取られるという噂があるため、かなり乱高下が激しい展開になりそうな予感がします。
レンツィ首相の辞任を大統領が承認するか否かにより、いろいろなケースが考えられるため、決め打ちは出来ません。ただし、同首相が続投するとしても、求心力が弱まることは避けられないでしょう。その場合、EU規則に反する公的資金を使った銀行救済策の実施に赤信号が灯る可能性が出てきます。
当然ですが、その場合、銀行株の大幅下落は避けられず、最悪のケースとしては、体力の弱い欧州系の銀行(ドイツ銀行など)に飛び火することも十分にあり得ると考えています。
レンツィ首相の求心力が弱まり、来年上半期に議会で審議されるであろうItalicum改正版が否決された状態で、(現行のItalicumに基づく)解散総選挙となれば、5つ星運動政権が誕生することもあるでしょう。その場合、一気にイタリアのユーロ離脱(Italexit) リスクが高まります。
ただし、ここで強調したい事は、この党と他国の反体制派ポピュリズム政党との大きな違いは、「ユーロ加盟には反対するが、EU加盟そのものは容認している点」です。つまり、5つ星運動が政権を取っても、英国のようにEUから離脱する動きにはならないはずです。
しかし、世界3大通貨のひとつであるユーロから、イタリアが抜けるような動きにでもなれば、それがマーケットへ与えるネガティブ・インパクトは相当なものとなるでしょう。
12月8日に開催される欧州中銀(ECB)金融政策理事会で、ECBが実施している国債購入プログラム(PSPP)の内容変更が発表されるのではないか?という噂が立っています。
既にいくつかの通信社が、この憶測を記事にしており、それを読みますと、「ECBの国債購入プログラムにおける購入額は、キャピタル・キー(ECBへの拠出金の大きさ)をもとに設定されている。12月8日の会合では、購入基準に柔軟性を持たせ、イタリア国債の購入を大幅に増やす特別措置が取られるのではないか?」という内容です。
果たして、このような「特別措置」の設定を、ECB加盟各国の中銀総裁達は認めるのか?その辺りはいまのところはなんとも言えません。
私のブログの読者の方から、「イギリスの次にEUから離脱するのは、イタリアですか?」という質問をいただきました。
さきほども書きましたが、万が一、5つ星運動が政権を取ったとしても、彼らはユーロ圏からの離脱支持であり、EUには残留することを望んでいます。それに加え、イタリア共和国憲法75条で国民投票に関する規定がありますが、この中で「国際条約の批准を承認する法律及び予算法律は、国民投票の対象とすることができない」とされており、英国のような「EU加盟の是非を問う国民投票」の実施は、イタリアでは不可能です。
そうなると考えられる最悪シナリオは、イタリアはEUには残留するが、ユーロからは離脱(Italexit=Italy+Exit)するリスクが出てくることです。
こう書くと、「それなら、ItalexitはBrexitよりも、深刻度のマグニチュードが低い」と考える読者の方もいらっしゃるでしょうが、私はそうは思いません。Brexitとは、EUからの離脱です。それに対し、Italexitはユーロからの離脱です。それぞれ「離脱する場所」は違いますが、イタリアの問題は「世界3大通貨であるユーロの崩壊リスク」となるため、欧州発金融/銀行/通貨危機を引き起こすきっかけとなるため、Brexit以上の混乱となると私は考えます。