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チョコ、ケーキ 変な味焼きそばで最後発が狙うブルーオーシャン

5日に発売される「一平ちゃん夜店の焼きそば ショートケーキ味」=東京都千代田区で2016年11月30日、増田博樹撮影
「一平ちゃん夜店の焼そば ショートケーキ味」に入っている、左から特製マヨ、かやく、ソース=東京都千代田区で2016年12月1日、増田博樹撮影
ショートケーキ味の調理例。イチゴ味とヨーグルト味の紅白のキューブが色鮮やかでクリスマス気分を盛り上げる=東京都渋谷区で2016年11月30日、増田博樹撮影

 明星食品(東京都渋谷区)が5日にカップ焼きそば「一平ちゃん夜店の焼そば ショートケーキ味」を全国で発売する。11月下旬の発表以降、謎の味をめぐってネット上ではさまざまな意見が飛び交っている。ショートケーキ味は、今年1月に発売された「チョコソース」味に次ぐ“変な味”シリーズの第2弾。常識はずれの味の焼きそばに同社を駆り立てるものは一体何なのだろうか。【増田博樹/デジタル報道センター】

変な味の焼きそば その底流にあったもの

 同社が掲げる大方針は、カップめんの季節商戦への参入だ。スーパーは季節の催事に合わせて目立つ場所で大量陳列をするが、カップめんは縁が薄く商機をつかみきれていない。そこで昨年夏に、「一平ちゃん夜店の焼そば」の「蒲焼(かばやき)のたれ味」を、同年冬にはクリスマス向けに「フライドチキン味」をそれぞれ投入し、季節商戦に本格参入した。ここまでは経営戦略としても、焼きそばの味としても常識的な範囲だろう。

 しかし、並行して“暴走”が始まっていた。

 同社はほぼ毎月、一平ちゃんの新商品を出している。このため「バリエーションを日々考えるうちに、『焼きそば』というより、(ウスターソースにこだわらない)『小麦粉を使った食べ物』という考え方になっていました。関係部署の仲間が集まって合いそうな材料を持ち寄って試すうちに、『甘い物が結構いけるんじゃないか』となったのです」。

ショートケーキ味を企画した菅野洋樹さん(左)と松川賢一さん=東京都渋谷区で2016年11月30日、増田博樹撮影
バレンタインデー商戦向けに今年1月発売された「一平ちゃん夜店の焼そば チョコソース」=明星食品提供

 企画担当でマーケティング部副主事の松川賢一さんは、変な味誕生の最初のきっかけをそう語る。では、具体的な材料は何か。試行錯誤を繰り返すうちにたどり着いたのがチョコレートだ。チョコレートをかけたポテトやせんべいの菓子は甘さとしょっぱさで人気があり、「ずばり、という感じでした」(松川さん)。時期は2014年の暮れで、翌年のバレンタインデーも近かった。役員は「面白い。徹底的にやってみなさい」と決断。後に変な味の第1弾となる商品は「チョコソース」味に決まった。

 だが、困難に直面する。松川さんの上司で同部ブランドマネジャーの菅野洋樹さんが振り返る。「かば焼きやチキンなら、開発担当者がおいしい店に行き、その味に近づける努力をすればよいのですが、チョコ焼きそばはこの世になく、どんな味が正しいのか分かりませんでした」

 開発チーム全員が共有できる「ゴール」をどこに据えるのか。何度作っても賛否が分かれる。結局、15年のバレンタインデーには間に合わず、その約1年かけて、約100個に上る試作品を作った。温かくて甘いものは、たくさんは食べられない。このため、飽きずに1杯食べ切れるように味のバランスを工夫し、今年1月中旬、発売にこぎつけた。

ショートケーキ味 スイーツに大きくかじを切る

 世に出た「チョコソース」。実際に食べたという神戸市の男性会社員(47)は「甘さと辛さがミックスされ、とても複雑な味でした。一度食べればもういいといった印象です」。「あまり思い出したくない味」とも言い、ネット上でも「一生後悔する」「この世のものではない」などさんざんな評価が見られた。

 だが、同社の調査では「うまい」「まずい」がほぼ拮抗(きっこう)。売れ行きも計画の3倍に上った。さらに、「まずい」という人ほど面白がったのだろう、「まずいから試してみて」とSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での拡散などに積極的だったこともプラスに働いた。

 それでも心配になり、同社は夏に利用者などに対するアンケートを実施。「これで明星食品を嫌いにならないか」との問いに対しては、スタッフが安心できる程度に好意的な評価が多かったという。そして、小売チェーンや消費者、社内からも「来年もあるのか」「次はどうするのか」と問い合わせが相次いだ。ともに期待を込めて、だ。

 変な味第2弾をどうするか。社内外の声に追い詰められたという菅野さんらは、「この世のありとあらゆる甘い物を試した」という。幸い、チョコソースでの苦労が生かされ、焼きそばと甘いものの組み合わせ方については一定の知見も得ていた。本来、17年のバレンタイン商戦を視野に入れていたが、思ったよりも早く完成度の高いショートケーキ味発売のめどが立ち、間近に迫った今年のクリスマスを目指すことになった。

 「チョコ」はウスターソースとスイーツが同じ程度のバランスになるよう調整したため、「両方の味を楽しめる」という声がある一方、不思議で微妙な味に不満の声も多く聞かれた。

 このため、ショートケーキ味ではスイーツの方向に大きくかじを切った。ソースや特製マヨ(マヨネーズ状のソース)はバニラ風味で、味は甘さがしょっぱさを上回る。かやくは、やや酸っぱいイチゴやヨーグルト風味のキューブ。めんに乗せると赤と白が色鮮やかで、クリスマスの華やかな気分を盛り上げる。甘いだけでは食べにくいため、甘みを適宜断って食べやすくするという役割もキューブにはある。パーティーなどで、大勢で楽しみながら食べるのがコンセプトだという。なお、価格は180円(税別)。

新たな焼きそばの地平を開く

 無謀とも思える甘い焼きそばだが、そこに突き進む原動力は何だろうか。

 カップ焼きそば業界では、まるか食品(群馬県伊勢崎市)の「ペヤングソースやきそば」、日清食品の「日清焼そばU.F.O.」が先行し、「一平ちゃん」は最後発組に属する。だから、独自の路線を歩む必要があるのだという。ケーキのような大胆な味に取り組むのも、同社が遊び心のある商品をこれまでにも数多く世に出し、「(若い消費者と)一緒に悪さをしている仲間、というポジションを得られている」(菅野さん)と信じるためだ。

 同社の経営方針の一つは「異質の才を集めろ。そのためには異質なことをせよ」。ショートケーキ味は、役員試食の際は味も見た目も完成品より控えめだった。だが、「ショートケーキをもっと突き詰めろ」と一喝されたのだという。

 菅野さんは言う。「食べ物に変わった物があってもいい。多様性を広げたいと思っています。そして、社会からちょっと逸脱したことに対して企業が真剣に取り組んでいることに若い人が共感して、いつか仲間になってくるようなことがあれば」

 甘い物を温かいめんですすって食べる。大げさに言えば、新しい食文化開拓への挑戦、とでも言えるだろうか。次の変な味焼きそばも、今、開発が進んでいる。

◇<おまけ>ショートケーキ味 試食してみた

 かやく、ソース、バニラ風味という特製マヨを熱々のめんに絡めた時、ふわっと上がる湯気の香りは甘ったるい。おそるおそる一口ほおばると、意外といける。塩を多めに入れたパンケーキのような味と言えなくもない。

 いわゆるソースの味はせず、しょうゆラーメンに近い味がする。ソース焼きそばというより、甘い香りがする油そばといった印象。かやくはイチゴとヨーグルトの酸味があり、アクセントにはなっている。それらが醸し出すアンサンブルは、直線的な味のソース焼きそばと比べて、非常に複雑だ。

 似たような味がするものを探したが見つからない。いずれにしても、甘い香りは非常に強く、食後もしばらく部屋に残る。胃にも残るので、味よりも、後に引く甘い香りに拒絶反応を起こす人が多そう。ただしソースと違い、服についても気になるにおいではないのはメリットなのかもしれない。クリスマスの甘い夜にはいい……かも。【大村健一/デジタル報道センター】

×  ×  ×

 覚悟して女子4人で挑んだ。ソースは一見、普通の焼きそばソースの色。あれ?と思いつつ混ぜ始めると、色はどこかに隠れ、代わって強烈な甘い香りが職場に広がる。

 見た目は、よく言えば「フルーツパスタ」。でも口に運ぶと「1970年代にデパート屋上の露店で食べたホットケーキの味」だ。見た目が焼きそばなのに、甘い。なぜだ。バター風だが人工的なフレーバーはいったい……。

 一緒に食べた3人は、「きょう晩ご飯いらないかもー」「いったい誰をターゲットにしてるんだろう」「(交際相手がおらず、現実の生活が充実していない)非リア充でカップめんが主食の男子かなー」と、味に反して辛口な評価が続出。

 さらに、「これってどういう過程で決まった企画かなー」「『ダイバーシティー(多様性)の時代だから、いろいろあっていい!』みたいな?」と、話題は現在の男性中心社会の深層にまで踏み込むものだった。

 結論としては話題作りには最適。たとえば、クリスマス会の「罰ゲーム」向きかと思う。【元村有希子/デジタル報道センター】

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