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科学研究と技術開発つなぐ人材にも日米の差
校條 浩(米ネットサービス・ベンチャーズ マネージングパートナー)

2016/11/29付
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 東京工業大学の大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したのはまだ記憶に新しい。その大隅教授がインタビュー記事などで大変興味深い発言をされていた。

 「科学が世の中にどう役立つか、という観点が重視されることに危惧している。ほんとうに役に立つかは(最初からは)答えられない。企業なら数年で開発することが求められるだろうが、科学研究には100年後に検証されるようなものがたくさんある。安易に『役に立つ』ということを考えるのはよくない」

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

 「科学技術」とひとくくりにされるが、「科学研究」と「技術開発」は天と地ほど違う。

 科学研究は、好奇心と興味にひかれて面白いと思うことを探求するものだ。大隅教授も、細胞の中で毒を貯蔵する働きを持つ液胞の研究を始めたときには、周囲から変なものをやっていると思われていたらしい。

 一方、技術開発は、社会に新たな価値を提供しようとする目的意識を持った活動だ。世の中の「役にたつ」ことが前提と言ってよい。例えば、自動運転は、センサーや半導体チップなどの電子デバイス、外部情報とつなぐネットワーク、画像認識や人工知能といった情報処理などの技術の集大成だ。

 すべての要素技術の裏には、それぞれ科学研究の長い歴史がある。大隅教授のように、「面白い」という好奇心や探究心から科学を追求してきた多くの研究者によるおびただしい数の研究成果があって、その土台の上にそれぞれの要素技術があり、それらの要素技術の上に自動運転のような新たな製品開発が可能となる。科学研究と技術開発は水と油のように性格が違うが、社会のためには両方とも必要なのだ。

 では、科学研究から技術開発へのバトンタッチはどう進めたらいいのだろうか。科学研究と技術開発では価値観も時間軸も違うし、人材に求められる能力も性格も違う。

 最近、大学発ベンチャーの振興が叫ばれ、多くのプロジェクトと予算が動いているが、実際には苦労が多いようだ。うまくいかないのは、大学「発」の考え方にある。

 100年単位での真理探究にいそしむ科学者に社会のニーズに合った製品・サービスの開発への主体的な貢献を期待するのが間違っている。そうではなく、ニーズを満たすために技術開発を進める開発者が大学に知識を探しにくるという、大学「源」の発想が必要だろう。しかし、大学にある研究成果がどう製品に結びつくのかを想像し利用することは大変難しい。科学研究と技術開発には大きな溝があるのだ。

 このような溝を埋めるには、「仕掛け屋人材」が必要だ。科学研究の成果の意義を理解できるだけでなく、市場のニーズや技術トレンドにも詳しく、料理人のように新しい食材から新たな料理を創造できる人材。米国には、このような「仕掛け屋人材」がたくさんいる。

 無線LAN(Wi―Fi)のコア技術であるスペクトラム拡散は、もともと干渉に強く秘匿性に優れるということで軍事技術として開発された。それを民生用に応用させるきっかけを作ったのは仕掛け屋コンサルタントたちだった。

 今、日本の産業界に必要なのは仕掛け屋人材だ。大学や既存企業、ベンチャー企業を渡り歩いて科学研究と技術開発、製品開発をつなぐことで事業を創造する――。技術立国を自認する日本の未来のために仕掛け屋人材を発掘・育成しようではないか。

[日経産業新聞2016年11月29日付]

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