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破滅的トラブルは5年後に襲ってくる!「インプラント手術」にご用心
ヘタなのにやりたがる…
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ヘタなのにやりたがる理由

インプラントのスペシャリストとして知られる、おざわ歯科医院の小澤俊文院長が語る。

「僕は30年以上歯科医をやっていますが、それでもインプラントの手術は難しいと感じ続けています。安易にやる手術ではありません。インプラント手術は、術後5年くらいは何ともないことも多いので、若い歯科医は『自分は手術が上手い』と勘違いしがちです。

ところがインプラントの問題は術後5年目以降に出てくることが多い。手術や治療計画などに問題がある場合、5〜10年が経つと、インプラント周囲炎(歯茎が腫れ出血する症状)や、アバットメント(人工歯を支えるネジの一部)が折れるなど様々な口腔内トラブルが出てきます」

虫歯や歯肉炎などにより失った歯を補うための治療法として近年、急速な広がりをみせる「インプラント」。

インプラントとは、外科手術により、顎の骨にチタンでできたボルト状の「人工歯根」(歯の根っこ)を埋め込む治療法だ。インプラントを入れる部位に麻酔をかけ、歯茎の粘膜から骨を剥がし、ドリルで骨に穴を開けインプラントをねじ込んでいく。インプラントが正しく骨に固定されたら剥がした粘膜を戻し、歯茎を縫い合わせる。6〜8週間で人工歯根と骨が結合するので、それを土台として、その上にセラミックの人工歯を装着する。

インプラントのメリットは「差し歯と比べ、顎の骨にしっかり固定するので違和感がなく噛むことができる」、「見た目が美しい」、「入れ歯と違い、毎日取り外して掃除する必要がない」などが挙げられる。

しかもインプラントは一度つければ「一生モノ」とも言われており、画期的な治療法として、多くの歯科医がインプラント手術をすすめている。

ところが現実は、そのインプラント治療によりトラブルが続出しているというのだ。

 

歯学博士であり、稲毛エルム歯科クリニックの院長・長尾周格氏が語る。

「正しく処置されたインプラントの寿命は40年以上とも言われており、ほぼ一生もちます。しかし、実際には適切に処置されているインプラントは『ほとんど無い』というのが実情です。その証拠に、歯科治療に関するトラブルの大半が、このインプラント治療に関するものなのです。

具体的なトラブルとしては、義歯部分が取れた、欠けたといった軽微なものから、痛くて食べ物が噛めない、顎の骨の神経を損傷して知覚が麻痺したなど多岐にわたります」

インプラント手術により死亡事故も発生している。'07年には東京都中央区の歯科医院で、インプラント手術で70代の女性患者が窒息死。歯科医が下顎にドリルを挿入した際に動脈を損傷し、大量出血を起こしたことが原因だった。

さらに「オール・オン・4」と呼ばれる、片顎12本分の歯をすべて抜いて、4本のフィクスチャー(人工歯根)で人工歯を支えるインプラント治療を受けた50代の女性は、術後、肩や首に痺れが出たという。大学病院でレントゲンを撮ったところ、フィクスチャーが上顎を突き抜け、副鼻腔にまで侵食していたことが明らかになった。この女性は200万円以上の治療費(インプラントは自由診療のため1本20万円以上かかる)を払ったにもかかわらず、結局数十万円の実費を払ってインプラントを除去した。

前出の小澤氏や長尾氏は「インプラントは適切に行えば非常に優れた治療法」と語るが、なぜこれほど多くのトラブルが起こっているのか。長尾氏が語る。

「簡単にいうと個々の歯科医の『技術の差』です。

口腔外科の治療は難易度が高く、適切なトレーニングや、噛み合わせを整える矯正治療の技術も必要になります。

ところが実際は、自由診療を増やしたいために、技術的に未熟であるにもかかわらず、安易にインプラント治療が行われている」

東京医科歯科大学歯学部附属病院・インプラント外来科長の春日井昇平氏も続ける。

「今でこそ大学でインプラントについて教育するようになりましたが、それまでは皆独学で治療を行っていました。今でも業者の講習会に出ただけで分かった気になって、インプラント治療をやっている歯科医もいます。

歯科医の資格さえあれば専門医でなくてもできる。こうした危険な歯科医を止める術がないのが現状なんです。だから患者さん自身が、知識を身に付け、慎重に見極めるしかない」