中村吉右衞門が２８年間の思いを語る　「鬼平犯科帳」ファイナル

多くのファンを魅了した中村吉右衞門の“鬼平”（写真：サンケイスポーツ）

　平成の年号とともに産声を上げた人気シリーズが通算１５０本目でファイナルを迎える。２、３日と前後編で放送される「鬼平犯科帳　ＴＨＥ　ＦＩＮＡＬ」（後９・０、フジテレビ系）。

　江戸時代後期に盗賊、凶賊たちから「鬼の平蔵」と恐れられた火付盗賊改方（ひつけとうぞくあらためかた）長官、長谷川平蔵を描いた池波正太郎の同名小説。１９８９年７月に中村吉右衛門（７２）主演でドラマはスタートしたが、「鬼平さんをはつらつと演じられるうちにフィナーレを迎えるのが最善」（吉右衞門）との考えから有終の美を飾ることになった。吉右衞門が２８年間にわたる鬼平への思いを語る。

　－－ファイナルを迎えた心境をお聞かせください

　「平蔵の年齢と同じ４５歳で池波先生から作品をお預かりして四半世紀。私が常に意識しておりましたのは行動力、生き生きと切れのある立ち回り、市中を駆け巡る軽やかさ、そして静かな中に見せる人情味。それこそが“鬼平犯科帳の神髄”との考えだからこそでございます。これまでを振り返りますと、本当にさまざまな場面が思い出されますが、江戸家猫八師匠や高橋悦史さん、真田健一郎さん、蟹江敬三さんら鬼籍に入った大切なキャストやスタッフもおり、改めて月日の流れを感じます」

　－－ご自身の人生や芸に影響はありましたか

　「鬼平さんの生きざまは、池波先生の生きざまそのものであったのではないかと思います。“井の中の蛙”と言いますか、歌舞伎の世界だけに住んでいる私にとってお芝居の中で体験、体現する方たちの人生というものは、普段の生活の中では本当に感じることのできないものですので、作品を通じて“ああ、こういう人生もあるんだ”と感じられたことは自分としては芸にプラスになっているのではないかと思っております」

　－－振り返られて改めて感じることはありますか

　「この作品は父（初代・松本白鸚さん）も大好きで、その影響もあり読ませていただきました。そのうちに、父がテレビで演じるということになりまして、そこに“せがれ役”で出演させていただいたこともあり、とても若い頃から身近にあった作品です。はっきり言えば、私は父の鬼平の印象に残っているところをずっとマネしておりました。父は相当な年齢になってから演じ始めましたので それほど激しい立ち回りはありませんでしたが、私は４５歳でしたので草履を履いて走り回るなど、父に出せなかったものが出せたのではないかと思っておりますけれど、そのほかの貫禄、人間を見通す力や人間性などは分かりません。たぶん、及ばないと思います（笑）」

　ファイナルにふさわしい豪華ゲストもそろった。前編「五年目の客」には若村麻由美、谷原章介、渡辺大、平泉成ら。後編「雲竜剣」には田中泯、中村嘉葎雄、木下ほうか、石倉三郎ら。また“鬼平”の熱心なファンで知られる歌手のさだまさしも白玉売りとして１シーンに出演している。

　さらに尾上菊之助、橋爪功は前後編を通じてゲスト出演。菊之助にとっては吉右衛門が義父にあたり、映像においては初共演となる。