ここでもうひとりの“偉い人”が登場。販売局長役に入れ込んだ緒形が宣伝に一役買った。美術に造詣の深い緒形は、米国在住の人気イラストレーター、ヒロ・ヤマガタに映画のイメージ画を依頼することを提案。
福永は緒形に毛筆の手紙をもらい、シナリオとともに送った。1週間後、イラストとヤマガタのメッセージが届いた。
《ストーリーが面白いので報酬は無料で結構、イラストは多色刷りで、限定200部が条件》
「早速、緒形さんに報告すると『さすが世界の一流やな』と彼の好意を称賛した。イラスト200部はプレゼントに使ったが、予想通り大きな話題を呼んだ。今あったらお宝ものです」
映画の評価はさまざまだったが、「大新聞からは黙殺された」。唯一、その年の「毎日映画コンクール」で松田が脚本賞に選ばれた。
緒形が亡くなって8年。東映で“ケンさん”といえば高倉健だが、福永には“もうひとりのケンさん”だった。
■福永邦昭(ふくなが・くにあき) 1940年3月17日、東京都生まれ、76歳。63(昭和38)年、東映に入社。洋画宣伝室や宣伝プロデューサー、宣伝部長、東映ビデオ取締役を経て、2002年で定年退職。一昨年、「日本元気シニア総研」に参加し、研究委員、シニアビジネスアドバイザーの資格を取得。