今回は偉人を主人公にした映画ではない。東映の“偉い人”の発想から生まれた異色作に宣伝マンの福永邦昭がどうコミットしたかに注目する。
緒形拳主演の「社葬」(舛田利雄監督、1989年)。岡田茂社長(当時)が、伊丹十三氏の初監督作品「お葬式」(東宝配給)のヒットに触発されて企画した。「映画界では長年忌み嫌ってきた題材。客が入るとは思ってなかったので、“柳の下”を狙って同じモチーフの映画を模索した」
岡田が指示したのが脚本家の松田寛夫。梶芽衣子主演「女囚さそり」シリーズや「誘拐報道」(82年)など入念な取材で常に骨太のシナリオで定評があった。
「松田さんは『社葬』の題名を聞いただけで創作意欲が湧いたそう。大企業のトップにまつわる裏話を岡田社長から聞いたり、実際に大会社の葬儀に紛れ込んだり、綿密な取材を重ねてオリジナル脚本を作った」
大新聞社を舞台に、社長が芸者(井森美幸)相手に腹上死して起きる次期トップの座をめぐる抗争劇。販売局長(緒形)と編集局長(江守徹)の丁々発止のやり取りが面白おかしく描かれた。
「内容はすべて大新聞社やテレビ局で起きた実話がモチーフ。社内派閥の抗争劇はどの業界もあるはずで、人間ドラマとして観客の好奇心をあおると思った」
福永も興味をそそられながら宣伝戦略を展開。企業小説の人気作家、高杉良を迎え、彼の小説や本作のモデルとなった人物の裏話を発信するとともに、彼のコメントを入れた試写状を大企業の役員クラスに郵送。これはかなりの反響があったが、試写会に来たのは代理人ばかりだった。