アレルギー対策で初の基本指針 厚生労働省

アレルギー対策で初の基本指針 厚生労働省
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ぜんそくや花粉症などアレルギー疾患の患者が急増するなか、厚生労働省は、地域ごとに専門的な治療を行う拠点病院の整備や、患者の相談支援にあたる体制の充実などを盛り込んだ、アレルギー対策の基本指針を初めて取りまとめました。
アレルギー疾患は、この10年ほどで急増し、厚生労働省によりますと、国民の2人に1人がかかっていると推計されています。

しかし、専門の医師が不足していることから、適切な治療が受けられず、重症化する患者が後を絶たないことが問題となっています。

このため、厚生労働省の協議会は、ぜんそくとアトピー性皮膚炎、花粉症、鼻炎、食物アレルギー、それに結膜炎の6つのアレルギー疾患について、2日、対策の基本指針を初めて取りまとめました。

それによりますと、地域ごとに専門性の高い医師を配置した拠点病院や、かかりつけ医と連携して適切な医療を提供できる体制を整備するとともに、予防や治療の先進的な研究を進めるとしています。

また、インターネット上に科学的な根拠が明らかとはいえない治療などの情報があふれているとして、患者と医療関係者向けにホームページを作成し、最新の研究成果などの情報を提供するほか、患者の相談に応じる専門窓口を医療機関などに設置して支援体制を充実させるとしています。

厚生労働省は「アレルギー疾患は長期間、症状に苦しめられることが多く、生活への影響も大きい。今後は自治体などと連携して患者が安心して生活できる体制を整備したい」と話しています。

アレルギー疾患の現状は“2人に1人”

アレルギー疾患の対策を検討している厚生労働省の委員会は、平成17年にまとめた報告書で、「全人口の3人に1人が何らかのアレルギーを患っていると考えられる」と指摘していました。

その後、患者が増加し続け、平成23年の報告書では「全人口の2人に1人」と推計を見直しました。

このうち、ぜんそくの患者は少なくともおよそ800万人と推計しています。

花粉症を含むアレルギー性鼻炎は、国民の40%以上が患っていて、今後も増えると予想されています。

また、アトピー性皮膚炎は、国民のおよそ1割が発症しているほか、食物アレルギーについては、0歳児全体の最大で10%が何らかの食べ物のアレルギーがあると指摘しています。

アトピーが重症化した女性は

関東地方に住む荻野美和子さん(38)は、生まれてすぐにアトピー性皮膚炎と診断され、炎症を抑える効果のあるステロイドを含む軟こうを塗って症状を抑えてきました。

しかし、就職活動をしていた大学4年生の頃に皮膚の炎症が悪化し始めたため、荻野さんは、ステロイドが効かなくなったのではないかと考えたといいます。

そして、ホームページでステロイドを一切使わずにアトピーを治せるとうたった医療機関を受診したということです。

荻野さんは、そこで処方された薬を飲み、勧められたお茶を飲み、入浴剤も使いましたが、症状は改善しませんでした。

それどころか、炎症は顔や手足を中心に全身に広がり、かゆみが止まらなくなったということです。

荻野さんは、体中かきむしってしまうため傷が絶えなくなり、誰にも会いたくないと家に閉じこもるようになって、企業から得た就職の内定も辞退したということです。

それから5年後、荻野さんは、27歳の頃に家族の強い勧めで都内の医療機関に8日間入院し、ステロイドを使った集中的な治療を受けたところ、皮膚の状態は劇的に改善したということです。

そして、今は、結婚して2人の娘を産み、育児をしながらエアロビクスの講師をしているということです。

荻野さんは「今は普通の生活を送ることができるようになったが、アトピーが悪化していたときは、ステロイドを使わなくても治るという医師の言葉を信じて大切な20代の5年半が暗いものになってしまった。誰もが適切な治療を受けられるような体制を整備してほしい」と話しています。

不適切な治療で重症化も

不適切な治療が原因で重症化する患者が増えています。

アレルギー疾患に詳しい医師や患者会などによりますと、アトピー性皮膚炎やぜんそくは、炎症を抑えるために、一時的にステロイドを使った治療が必要になることがありますが、副作用を避けようとしてステロイドを使わない治療を続けると重症化することもあるということです。

また、アレルギーのある妊婦が子どもへの影響を恐れて薬の服用をやめたために重い発作を起こしたり、子どもの食物アレルギーは適切な食事指導や治療によって多くの場合、改善が期待できるのに、医師から対象の食べ物を一切与えないよう指示されて、治りにくくなったケースもあるということです。

日本アレルギー学会は、医療関係者を対象に、適切な治療などを紹介するガイドラインを公表しています。

専門家「医療体制の整備を急ぐ必要」

アレルギー疾患に詳しい、国立病院機構相模原病院の谷口正実臨床研究センター長は「ここ10年から20年ほどで、アレルギー疾患の患者が増えている要因のひとつは、生活環境が過度に清潔になっていることが考えられる。発症の原因は多岐にわたり、治療薬の選択が難しいのも特徴で、専門の医師が少ないため診断が誤っているケースも少なくない。アレルギー疾患は生命に関わることは少ないが、重症化すると仕事が手につかなくなるなど、生活の質が低下するため、医療体制の整備を急がなければならない」と指摘しています。