複雑な世界を複雑なまま受け入れる
――書評『超予測力』
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第40回は、ペンシルバニア大学教授のフィリップ E. テトロックと、ジャーナリストのダン・ガードナーによる『超予測力』を紹介する。
優れた予測を本物の「宝」にする
英国のEU脱退。そして、ドナルド・トランプの次期米国大統領当選。
この2つのニュースが、世界中に衝撃を与えたのは記憶に新しい。それはその結末が、主要メディアをはじめとする大方の予想に反するものであったからでもある。ただ冷静に振り返ったとき、その予測は適切なプロセスを経ていたのかという疑問は残る。また、私たちはその予測を正しく受け止めていたのだろうか、とも。
本書は『超予測力』というタイトルそのままに、「いかに先を読むか」がテーマである。フィリップ E. テトロックによる長年の研究プロジェクトを通じて、その力は後天的に磨くことができる事実が明らかにされている。優れた予測者を示す超予測者は、「超頭がいい」わけでも「超数字に強い」わけでも「超ニュースオタク」でもなく、「どう考えるか」に突出していると筆者は言う。
また筆者は、「優れた予測者によってどれだけ素晴らしい予測が導かれたとしても、それを活かす側に適切な能力がなければ、それは宝の持ち腐れになってしまう」とも言っている。そのため本書では、予測者の予測精度をいかに上げるかのみならず、意志決定者に必要な心構えもていねいに記されている。その内容は論理的で説得力に満ちており、同時に痛烈な皮肉が込められているため、読めば読むほど耳が痛くなってくるものでもある。
たとえば、人はその確率が50%より高いか低いかを重視するが、それは確率論を理解していないという旨の主張には、自分自身にも思い当たる出来事が多すぎる。そのわかりやすい例として、筆者は天気予報を挙げた。「『明日の降水確率は70%』の正しい意味とは、『雨は降るかもしれないし降らないかもしれない』ということ、そして天気予報士が優秀であれば、降雨を予想した100日のうち70%で雨が降り、30%では降らないはずであるということだ」
あらためて言われると、たしかにその通りだと思える。しかし、外出時に傘を持参するかの判断で、降水確率が50%より上か下かだけを基準にしているのは、おそらく私だけではないだろう。そして降水確率が50%未満の予報で雨が降ったときには、自分を省みることなどなく予報士を逆恨みする。自分が思っている以上に、私たちは確率を正しく理解していない。そんな情けない事実を、本書を通して何度も突きつけられることになる。
この本は、個人としても組織としても予測力を高めるヒントを与えてくれる。そしてそのことは、ますます不確性が高まる現代において、リーダーの意思決定をサポートする作品であるとも言えるだろう。
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