マラリアやエイズの患者にとって生死を分ける治療薬の価格を一気に55倍以上に引き上げ、強欲の象徴として「米国で最も憎まれた男」と呼ばれた製薬企業トップの鼻を、オーストラリアの高校生たちが見事に明かしたかもしれない。
米製薬ベンチャー「チューリング製薬」のマーティン・シュクレリ最高経営責任者(当時)は2015年8月、60年以上前に開発された感染症治療薬「ダラプリム」の権利を買い取り、薬価を1錠13.50ドル(約1500円)から一気に55倍以上の750ドル(約8万6000円)に値上げすると発表した。
しかし豪シドニー・グラマー・スクールの男子高校生たち(全員17歳)が、「ダラプリム」の活性成分ピリメタミンを学校の実験室で作りだすことに成功した。
「そんなに大変じゃなかったけど、まさにそこがポイントだと思います。僕たちは高校生なので」と生徒のひとり、チャールズ・ジェイムソンさんはBBCに話した。
生徒たちは1年かけて実験を重ねた末、ピリメタミン3.7グラムを費用20ドルで生成することに成功した。米国で同じ量を買うとなると、11万ドルはする。
オーストラリアと英国を含むほとんどの国では、ダラプリムの小売価格は1錠あたり1.5ドル(約170円)以下だ。
高校生たちは、ダラプリムの薬価が不当に引き上げられたことを問題視して、実験を行ったと話す。
「まったく不当で、倫理的に間違っていると思う」と生徒のひとり、ジェイムズ・ウッドさんは話した。「命を救う薬なのに、手に入れられない人が多すぎる」。
指導教師のマルコム・ビンズ博士は、「みんなが結果に喜んでいる。生徒たちはみんな、本当に最高だと大喜びだ」と話す。
1950年代に開発されたダラプリムは、トキソプラズマ症と呼ばれる珍しい感染症に対する最も有効な治療薬だ。
「チューリング製薬」がダラプリムの独占権を取得すると、シュクレリCEOは一気に薬価を5000%以上引き上げ、国際的な非難を浴びた。シュクレリCEOは、ダラプリムが極めて特殊で使用範囲が限定的なものなので、薬価引き上げは正当だと主張していたが、同社は後に価格を引き下げた。しかしそれでも今年8月の時点で1錠370ドル以上する例も見られた。
シドニー大学の化学者アリス・ウィリアムソン博士は、「オープンソース・マラリア」というオンライン・プラットフォームで、高校生たちの開発実験を支援した。
「いくらもしない材料を使って、米国で本当に金銭的価値のあるものを作りだした」とウィリアムソン博士は生徒たちの成果を評価。米国での薬価は「ばかげている」し、「学校で安く手に入るなら、薬にあれだけの値段をつけるなど、まったく言い訳が立たない。特に、あの薬が本当に必要なのに、おそらく高くて手が出ない人たち対しては」と批判した。
ヘッジファンド投資家のシュクレリCEOは2015年12月、証券詐欺の疑いで連邦捜査局(FBI)に逮捕され、チューリング製薬のCEOを退いた。初公判は2017年1月26日に予定されている。
(取材:グレッグ・ダンロップ記者)
(英語記事 Martin Shkreli: Australian boys recreate life-saving drug)