コラム

「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

2016年12月01日(木)17時30分
「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

ridvan_celik-iStock.

<教育現場での一斉指導が困難となる一方で、悪しき「横並び主義」の束縛から逃れられない日本の教育は苦悩している>

 脳科学者の茂木健一郎氏が、日本の小学校における算数教育について問題提起をしています。氏のブログから該当する部分を引用してみましょう。

「昨日、小学校の算数のテストで、「3.9+5.1=9.0」と書いたら、減点されたというツイートが流れてきて、とてもびっくりした。これははっきり言って一種の子どもに対する「虐待」である。」

 更に茂木氏は「これ以外にも、小学校の算数には謎の奇習があると聞く。」として、次のような例を挙げています。

「かけ算の順序、足し算の順序、という「問題」があって、2×3=6は正解だが、3×2=6は不正解、同じように2+3=5は正解だが、3+2=5は不正解、という「世界」があるのだという。」

 まず、「3.9+5.1=9.0」ではダメという問題ですが、では正解は何かというと「9」でなくてはいけないのだそうです。実際の教育現場では、筆算をした結果の「9.0」において「0」にも、そして「小数点」にも斜線を引いて抹消しないといけない、その通りにしないと減点するという指導をしている学級もあるようです。

【参考記事】数学の「できない子」を強制的に生み出す日本の教育

 私は最初、ずいぶん難しいことを教えるようになったのだと驚きました。というのは、「9.0」と書くと、有効数字が2桁であり、小数第2位を四捨五入した「近似値」というニュアンスが出るので、それを否定しなくてはならない、つまり「ちょうど9」だという「真の値」を示すために「9」と書かせる、そう思ったからです。

 ところが、調べてみると理由は違うのです。そうではなくて、ゼロをそのままにしておくと「90」と間違える生徒がいるので、「0を消させる」必要があり、またゼロだけを消すと「9.」という小数点だけを残すという「ルール違反」になるので、念のために「小数点も消させる」というのが真相なのだそうです。

 つまり「3.9+5.1=」という筆算をやらせた結果「90」や「9.」と答えてしまう誤答が増えた結果として、これを防止しなくてはならない、そのような教育現場の切羽詰まった状況が背景にはあるようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

ニュース速報

ビジネス

仏政府は企業の持ち株売却を、ルノーに言及=フィヨン

ビジネス

早期の米利上げ必要、景気後退予想せず=ダラス連銀総

ワールド

プーチン氏が西側に異例の融和姿勢、トランプ次期米政

ビジネス

中国35都市、不動産の「下落リスク高い」=政府系シ

MAGAZINE

特集:トランプ時代の国際情勢

2016-12・ 6号(11/29発売)

トランプ次期米大統領が導く「新秩序」は世界を新たな繁栄に導くのか、混乱に陥れるのか

人気ランキング

  • 1

    偽ニュース問題、米大統領選は始まりに過ぎない?

  • 2

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 3

    「ドイツ版CIA」の情報部員はISISのスパイだった

  • 4

    新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

  • 5

    トランプの「ウソ」に期待する危険

  • 6

    【動画】 ペットボトルを便利なヒモに変身させるカッ…

  • 7

    トルコという難民の「ダム」は決壊するのか

  • 8

    【動画】マライアを裸にするドキュメンタリー『マラ…

  • 9

    悪名高き軍がミャンマーで復活

  • 10

    7年後はマイルで宇宙へ? ANAとHIS、有人宇宙機運…

  • 1

    トランプも南シナ海の「主導権」追求へ 中国政府系シンクタンクが分析

  • 2

    スラバヤ沖海戦で沈没の連合軍軍艦が消えた 海底から資源業者が勝手に回収か

  • 3

    悪名高き軍がミャンマーで復活

  • 4

    金正恩氏を「罵倒する動画」を北朝鮮メディアがうっ…

  • 5

    バルト3国発、第3次大戦を画策するプーチン──その時…

  • 6

    偽ニュース問題、米大統領選は始まりに過ぎない?

  • 7

    新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

  • 8

    米国へ向かう中米移民急増 トランプ就任目前で駆け…

  • 9

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 10

    イタリア政府、憲法改正国民投票を12月4日実施 首相…

  • 1

    トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

  • 2

    68年ぶりの超特大スーパームーン、11月14日に:気になる大地震との関連性

  • 3

    「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び

  • 4

    注目は午前10時のフロリダ、米大統領選の結果は何時…

  • 5

    親友の愛人らが指図!?  朴槿恵大統領は「操り人形」…

  • 6

    まさかの逆転劇 トランプの支持率、クリントンを僅…

  • 7

    トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

  • 8

    米大統領選、クリントンはまだ勝つ可能性がある──専…

  • 9

    トランプ勝利で日本はどうなる? 安保政策は発言通…

  • 10

    【敗戦の辞】トランプに完敗したメディアの「驕り」

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「家族で楽しむTOKYOナイトスポット」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!