トランプ次期米大統領はワシントンでも自分のやり方をするつもりなのだから、閣僚人事もそうなると見るのが妥当な線だ。
スティーブン・ムニューチン氏は11月30日の経済専門局CNBCのインタビューで、トランプ氏から新政権の財務長官に指名されたことを明らかにしたばかりか、米国経済や他の諸問題に対する持論まで述べた。米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長については「よくやっている」と尊重しながらも、金利について語ることにためらいは見せず、新たなボスとなるトランプ氏の選挙戦中のFRB批判を思い出させた。
ルー財務長官の従来型のスタイルに慣れた後で、ムニューチン氏の就任後の動き方に驚く人も出てくるだろう。だが、アナリストらは「それがどうした」と言っている。ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのマーク・チャンドラー氏は、ゴールドマン・サックス出身のムニューチン氏は確かに普通とは違う物腰で登場したが、そもそも「トランプ政権全体が普通と違う」と語る。
大半の投資家は、普通と違うトランプ氏のやり方にも慣れつつあり、再び確かな数字に目を向けているようだ。30日にドル指数は0.5%上昇し、S&P500種株価指数は最高値を更新、米国債は利回りが上がったが、その要因はムニューチン氏の発言ではなく民間雇用と個人所得の伸びを示すデータだった可能性が高い。これは、大統領選からわずか数週間で投資家はもう先へ進んだことを映している。つまり、FRBの金融政策から政治家による財政政策への力点の移動はすでに終わったという判断だ。ムニューチン氏のテレビ出演は単にそれを裏付けたにすぎない。
だが、投資家は他の部分の不透明さに用心すべきだ。ムニューチン氏は中国を為替操作国に認定するという考え方を受け入れる構えだが、それで何が得られるのかははっきりしない。ムニューチン氏はドル相場に言及しなかったが、ドル高はトランプ氏にとって難題だ。減税とインフラ投資は米国企業を勢いづかせるかもしれない一方、同時に輸出企業の競争力をそぐドル高も意味する。
三菱東京UFJ銀行のデレク・ハルペニー氏が指摘するように、米国の10年物国債のドイツ国債とのスプレッド(利回り格差)は27年ぶりの高水準に達し、「さらなる持続的なドル高が金融市場に混乱を引き起こすリスクがある」。今のところは、投資家もムニューチン氏も減税と支出計画に焦点を合わせられる。だが、いずれかの時点で、そうした(ドル高の)リスクは無視しがたいものになるだろう。
By Roger Blitz
(2016年12月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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