News Up 対面通行に潜む危険

News Up 対面通行に潜む危険
安全に走行できるはずの高速道路や自動車専用道路ですが、地方都市を中心に費用の削減や整備の遅れなどから、対向車線の車とセンターラインを隔ててすれ違う「対面通行」の区間がいくつも残っています。対向車とすれ違うたびに「怖い」と感じる人も多いのではないでしょうか。今、こうした対面通行の高速道路などで衝突事故が相次いでいます。
先月(11月)、秋田県大仙市の秋田自動車道で、対向車線にはみ出した乗用車が前から来た車と衝突して大学生2人が死亡したほか、徳島市の徳島自動車道でもはみ出した車がトラックと衝突するなどして男性1人が死亡しました。

今月に入っても事故は続いています。北海道の道東自動車道では、乗用車が対向車線にはみ出してトラックと正面衝突するなど4台が絡む事故になり、1人が死亡、2人がけがをしました。

相次ぐ重大事故

先月(11月)、秋田県大仙市の秋田自動車道で、対向車線にはみ出した乗用車が前から来た車と衝突して大学生2人が死亡したほか、徳島市の徳島自動車道でもはみ出した車がトラックと衝突するなどして男性1人が死亡しました。

今月に入っても事故は続いています。北海道の道東自動車道では、乗用車が対向車線にはみ出してトラックと正面衝突するなど4台が絡む事故になり、1人が死亡、2人がけがをしました。

石川県では2人の中学生が死亡

石川県ではことし10月、自動車専用道路の「のと里山海道」で起きた事故で中学生2人が命を落としています。野球部員だった2人は試合会場に向かうため仲間と一緒にマイクロバスに乗っていましたが、走行中、対向車線をはみ出した車と衝突したと見られています。

なぜ対面通行区間が存在するのか

「のと里山海道」は、全長88キロのうち半分の区間が片側1車線の対面通行になっています。
対面通行になった理由は、費用を削減して早期に開通させるためでした。将来的には、中央分離帯のある片側2車線の道路にする想定でしたが、まずは片側1車線だけを開通させ、上り下り合わせて「暫定2車線」として昭和57年に運用を開始したのです。

ところが、「暫定2車線」の道路には中央分離帯の設置が義務づけられていません。道幅が狭く、上りと下りを隔てる中央部分にポールが立てられているだけです。このポールは樹脂製で、車がはみ出すのを食い止めるほどの強度はないのです。このように、暫定的に2車線のままになっている区間は、全国で合わせて2500キロ余りに上っています。その多くで、4車線化のめどは立っていません。

事故多発の理由は

今回、NHKは、交通事故や道路整備に詳しい交通ジャーナリストの清水草一さんとともに、事故が相次いでいる原因について検証しました。清水さんがまず指摘したのは走行車の「スピード」です。
「のと里山海道」は、対面通行区間のほとんどで制限速度が70キロに設定されています。しかし、NHKが計測器を使って通過する100台の車のスピードを測ったところ、8割以上の車が制限速度をオーバーしていました。

さらに清水さんは、3年前に行われた通行料の無料化も事故の増加に大きく影響していると指摘します。無料化によって交通量が倍増した結果、事故の件数も1.3倍に増えたためです。清水さんは、「事故を防ぐにはとにかく中央分離帯が必要だ」と強く訴えています。

進まぬ対策 4車線化には予算が…

「のと里山海道」を管理する石川県は、どう考えているのでしょうか。谷本知事に見解を尋ねたところ、「すべての区間を4車線化して中央分離帯を設けるには途方もない予算が必要で、それを一挙にやると県の財政は破綻する」と回答しました。石川県は一部の区間について4車線化の工事を進めていますが、限界があり、全線で整備するめどは全く立っていません。

注目集める“防護柵”

4車線化が進まない中、ほかに事故を防ぐ手立てはないのでしょうか。
実は今、注目を集めている研究があります。「ワイヤロープ式防護柵」と呼ばれる柵の開発です。
センターライン上に支柱を立てて、5本のワイヤロープを張ったもので、国の研究機関の寒地土木研究所が実験を進めています。支柱の太さは10センチ以下で、狭い道路でも設置することができるうえ、コストも低く抑えることが可能だといいます。

この防護柵の強みは、対向車線にはみ出しそうになった車をはじき返す仕組みにあります。実験を重ねた結果、大型のトラックが防護柵のワイヤーに衝突しても、対向車線側にたわむ幅を1メートル未満に抑えられるようになりました。現在、全国6か所の対面通行の道路に試験的に設置されています。

寒地土木研究所 寒地交通チームの平澤匡介主任研究員は、「この防護柵をできるだけ普及させて、正面衝突による事故を1件でも減らすというのが開発者としての目的であり、使命です」と話しています。

同じ原理を使ったワイヤロープは、スウェーデンやアメリカですでに導入が進んでいて、重大事故が減ったという報告もあります。国土交通省は今後、対面通行区間での事故対策を取りまとめる予定ですが、このワイヤロープ式防護柵も有効な手段の1つになりうるとして、本格的に導入できないか検討を進めています。

「暫定2車線」の道路はいずれは4車線化される想定で開通したものですが、全国にはすでに20年以上も状況が変わっていない区間が数多くあり、これでは、もはや「暫定」とは言えません。対面通行の区間で痛ましい事故がなくなるよう、一刻も早い安全対策が求められています。