韓国の朴槿恵(パククネ)大統領がきのう、自らの進退を国会にゆだねる考えを明らかにした。

 旧知の友人を国政に介入させた疑惑などに国民が怒り、国会が弾劾(だんがい)訴追に動くなか、追い込まれたかたちだ。

 1987年に民主化されて以降、大統領が任期満了を待たずに退陣するのは例がない。

 今後、どのような手続きとタイミングで退任させるのか。大統領権限が事実上空白になれば国家統治をどう保つのか。

 韓国の憲政は、かつてない危機に直面している。

 判断を一任された国会の責任は極めて重い。ここは与野党が結束して混乱を収拾するための最善の道を急ぐときである。

 北朝鮮問題などを考えれば、日本など周辺国にとっても、ゆゆしい事態だ。韓国各党は、超党派の暫定的な内閣を組み、早く次期政権を決める大統領選の環境づくりを進めてほしい。

 憲法によると、大統領が不在になれば60日内に大統領選挙をしなければならない。しかし、立候補予定者の中には現職の地方自治体の首長らもいるため、いま朴氏が退陣すれば、準備が間に合わない可能性がある。

 この混乱を経て新たなリーダーを国民が納得して選ぶには、一定の時間を選挙までの準備期間に充てるのはやむを得まい。

 朴氏は国民に向けて、「与野党が議論し、安定的な政権移譲の案をつくってもらえるなら、その日程と法の手続きに従って職を退く」と明言した。

 野党各党は、早期退陣表明を装いながら、実は野党の足並みの乱れに乗じた時間稼ぎとみて反発しており、予定通りに弾劾訴追の手続きを進める方針だ。

 国会は野党勢力が過半数を占めるが、前例がないだけに、どんな形式で大統領を退任させる「国会の意思」を示すのか。その方法をめぐってもすんなり合意できるとは限らない。

 朴氏がもし、与野党の不和を利用して延命を図る政治ゲームを仕掛けようとしているのであれば、国家指導者として失格と言わざるをえない。

 毎週末、各地で民衆が街頭で朴氏の退陣を呼びかけている。それは、民主社会であると信じて疑わなかった国民の、国家に対する失望の表れでもある。

 混乱に一日も早く終止符を打ち、公正な選挙を経た正統性ある次期指導者が国政を立て直す。そのプロセスへ向けて、与野党は目先の党利に走る政争をやめて、団結すべきだ。

 30年を迎えようとする韓国の民主化の歩みの真価が、いまこそ問われている。