チェスといえば、白と黒の駒を操るボードゲームを想像するだろう。
しかし、このチェスの駒はカラフルな可愛らしいミニこけし。名付けて「こけス」(Kokess)である。
駒はこけしでルールはチェスの「こけス」
これまで青森県黒石市の物産店などで売っていたが、11月18日に新東北みやげコンテストで入賞し、話題になっている。
生み出したのは、地元の商業高校の生徒たち。
現在こけスを製造する同市の今金雄(こん・かねお)さん(61)に、6年以上にわたる開発秘話を伺った。
高校生たちが課題研究で開発
こけスは2010年、黒石商業高校の3年生による課題研究として始まった。
今さんは当時、教諭として指導を担当。
東北新幹線の青森区間開業に合わせ、生徒とともに既存の物を生かした新たなお土産の企画を練っていたという。
研究チームに、たまたまこけし作家(通称・こけし工人)の家庭の子がいたことから、こけしが話題に上った。
「自分が子供の頃、こけしを人形みたいにおんぶして遊んだ話をすると、観賞用になったこけしを子供の遊びに戻そうということになり、話を進めました。
その後にチェスの駒にしたらどうだろうという案が出て、「こけス」が生まれました」
同市は津軽こけし作りが盛んで、伝統工芸品の知名度を上げることで地域活性化につなげる計画になった。
のちに、市内のこけし工人に駒の設計を依頼し、試作品が完成。
当時の駒はまだ顔がなく、よりチェスの駒に近い形。盤面は白黒ではなく、升目をカラフルに縁取ったものだった。
そして彼らが卒業し、後輩たちが研究を引き継ぐ。
ルール決め、販路開拓…代々改良
しかし、引き継ぎも簡単ではない。ゆっくりと改良を重ねてきた。
「授業は週2時間で、3年生ですから毎年生徒が変わります。
前年度まで経緯と、これからの目標の説明から始まるので1年間でなかなか進めません」
こけスの1セットの例
3年目の12年度に、ゲームとしての具体的なルール設定や販売用の製品、パッケージの試作に着手した。
13年度には体験会など普及活動のほか、商業高校生を対象にしたコンテストで東北大会2位を獲得。この年の12月、マニア向けとして42,000円で発売する。
翌14年度はマーケティングの年。一般販売に向け、生徒たちは製造業者や販売店を探したという。
「子供のおもちゃとしては高価すぎる」(今さん)値段を安くする研究をまとめ、東北大会でみごと優勝。
この発表の時は生徒の一人が緊張の余り鼻血が止まらず、登壇できなくなるトラブルも。
しかし、チーム全員が原稿をすべて暗記しており、欠けた生徒分を補って発表を成功させた。
生徒たちの熱心さに、今さんが心打たれた瞬間だ。
風呂敷型のこけスのパッケージ
最後となる15年度は、より安価にするための木工所探しやパッケージデザインを研究。
外国人観光客も興味を持つように、盤面として使える風呂敷と和菓子風の紙箱を採用した。
風呂敷は両側にルールを記し、初心者でも気軽に遊べるよう工夫している。
同年9月、ついに「普及版こけス」の販売が始まる。
生徒たちとの約束
今さんは今年3月の定年退職の際、生徒たちと立てた「仮説」を検証することを約束した。
こけしの「既存製品の新用途開拓商品」として世界的なゲームチェスとコラボレーションさせることを発案しました。
こけしの要素を活かすことで観光で来たお客さんへ、チェスの要素を持つことで海外からの観光客へ販売できるのではと考えました。
(こけス公式サイトより)
箱に詰めたこけス
現在は個人としてこけスの製造・普及に取り組む。
駒本体は生徒と探した富山県の木工所が製造し、色付けや顔入れを今さんが手作業で担う。
制作数は1週間に3セット。手描きのため、一つとして同じ顔はない。
こけスを製造する今さん
今回の新東北みやげコンテストへの出品は、将来の海外販売を見据えて販路拡大を狙ったものだ。
今さんによると、入賞を受け、すでに国内の空港管理会社や大手クラフト店との商談が進む。
「反応が結構あります。まだ結果は出ていませんが、この機会を大事にして販売経路を広げたいと思います」
販路拡大、関東でも体験可能
現在のこけス価格は、1セット12,000円。黒石市へのふるさと寄付金の返礼品としても受け取れる。
体験したい場合は市内の一部の温泉施設やホテルに設置しており、利用者がプレーできる。
また、関東では神奈川県大和市のバーでも遊べる。マスターが青森県出身だったことが縁だという。
「生徒は毎年変わりましたが、皆よく意見を出して頑張ってくれました」と今さん。
奇抜な見た目のボードゲームには、高校生たちと教師の温かい思い出がこもっていた。