「ミーハー心で行動し、熱量をもった個人とつながること」分野を越境するプロデューサー・西村真里子の仕事術

Eightユーザーのつながる技術を探る「ビジネスネットワークの裏ワザ」

名刺をEightに取り込むだけではもったいない。あなたのビジネスネットワークをもっと効果的に活用できれば、仕事の課題に対して新たな解決の糸口が見つかるかもしれない。つながりを生かして、ひとりの力では実現できないことを達成していく人たちには、きっと新人研修では教えてくれないビジネスネットワーク活用の"裏ワザ"があるはずだ。

注目のEightユーザーを取材する企画「ビジネスネットワークの裏ワザ」。今回は、スタートアップのためのデザインとマーケティングのメンタリングプログラムなどを主催するなど、さまざまな領域同士をつなぎコラボレーションを生み出しているHEART CATCH代表の西村真里子が登場する。


仕事のプロセスを楽しむことが「HEART CATCH」となる

「いかにして仕事を楽しくするか。アウトプットだけでなく、そのプロセスも楽しくしたい」。西村はそんな考えを、日々巡らせているという。

IBM、アドビシステムズ、バスキュールと、テクノロジーやデザイン、マーケティングの領域を渡り歩き、組織のなかでさまざまなプロジェクトに携わってきた。そんな彼女が、なぜ自身の会社であるHEART CATCHを立ち上げたのか。

「いまやインターネットがあればどこでも仕事ができる環境にあります。新しい働き方、仕事のあり方を模索するなかで、組織内ではなく自分自身で実践し新たな道をつくってみたいと考えたことがきっかけです」

2016年、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の技術ベンチャーに対してデザインとマーケティングの視点をもとにしたプレゼンテーションを支援する活動も行っている。

バスキュール時代に、テレビとソーシャルメディアを融合させたテレビ企画をつくったことがきっかけで、日本テレビが運営するクリエイティブ、テクノロジー、ムーブメントをさまざまな視点で紹介するウェブメディア「SENSORS」の編集長を務めている。また、スタートアップのためのデザインとマーケティングのメンタリングプログラム「HEART CATCH 2015」を実施するなど、異なる領域の分野のプロフェッショナル同士をつなぎ新たな価値を社会に生み出すための場をつくりだしている。

「わたし自身が、エンジニア、マーケッター、プロデューサー、大企業とベンチャーなど、職種や領域を越境してきました。その根底には、世の中に対して新たな価値や体験を提供するために自分ができることは何かを考え行動すること。そして、自分の価値をひとつの会社・組織に固定しないこと。自分自身が仕事をしていて楽しいと思えることと向き合うこと。そして、大事にしていることとして、仕事のプロセスを楽しくすることで良いアウトプットが生まると信じています。そうした環境をより多くの人たちにも提供していければ」

オープンイノベーションが重要視される現在、「デザイナーやアーティストと協業したい!」という企業の声は、以前よりも増しているという。

裏ワザ1. 可能性を引き出す「舞台」をつくること

西村の原点は、学生時代に読んだサン=テグジュペリの『人間の土地』だという。

「パイロットであり作家でもあるサン=テグジュペリの『人間の土地』に"虐殺されたモーツァルト"という言葉がでてきます。人々は誰もが才能を持っているのに、成長するにつれて周囲の環境に押し殺される人が多い。組織や社会に埋もれるのではなく、まずは飛び込んでみてやってみようとする意思が大事。同時に、人の才能を活かすために自分ができることは何かを考えるようになりました」

幼少期から百科事典や工具に囲まれた生活を送っていたことから、ものをつくることの楽しさに目覚めた。「ステージに立つことはいつでもできるけど、空間を彩ることは大学でしかできない」という考えから、大学に入ると舞台照明に携わるようになる。

「最高の演者が集まるところで、面白いステージをいかに演出するか。自分自身がそうしたステージを観たいと思っているし、観客にも最高の体験を届けたい。その思いがいまの仕事にもつながっています」

他者の能力を最大限引き出すためにできることは何か。人が持つ才能を信じ、仕事を通じて才能を発揮するための環境をデザインすること。西村はそうした思いでこれまで仕事をしてきたという。

編集長であるSENSORSでは、テレビとウェブの担当者が同じテーブルにつき、現在起きている最先端のテクノロジーについて議論を交わし、それぞれの文脈にあった形で情報発信やリアルイベントを展開している。テレビとウェブそれぞれの良さを理解している西村だからこそ、それぞれの媒体に最適化された形で情報や体験を届ける設えが可能だ。それを支えるのも、テレビのプロとウェブのプロが集い、互いの知見を活かすマネジメントできる西村ならではといえる。

日々さまざまな領域の第一線で活躍する人と出会い、SENSORSなどの媒体でインタビューなどを行っている西村。国内外を問わず各地を飛び回っている。

裏ワザ2. 徹底してミーハーであれ

領域を越えたさまざまな人と出会うために必要な要素はなにか。西村は「徹底してミーハーであれ」と語る。

「第一線で活躍している人たちは、見えている視野が広い。そこには多くの学びがあり、知的欲求が満たされていく。なので、会いたい人に積極的に会いに行き、そこから次のビジネスの種を見つけにいきます。ただ会うだけでなく、そこから自分がどんな学びを得たのか、積極的にSNSで発信することも忘れない。もちろん、会う前には事前にその人の考えを勉強し、かつ、その人が興味を持ちそうな話題を提供できるようにしています。いざお会いしたときにも、さまざまな話題を投げてみて、そこから『西村は何か面白そうな人間だ』と思ってもらえたら、と思っています。その根底には、出会いを大切にしたいのと、自分との出会いが少しでも価値あるものになれば、という思いがあるからです」

会いたいという気持ちに純粋に向き合う秘訣は、その人を心の底から好きだと思うこと、と西村は話す。相手に対して心の底から興味を持つことで、出会いにおける振舞いも変わってくる。こうした一つひとつの小さなきっかけを大事にすることが、ビジネスネットワークを築いていくのだ。

「どこにいるか、ではなく何に夢中になっているか」。その人の持つ熱量が、他者を引き寄せる力になるという。

裏ワザ3. 熱量のある個人とつながること

さまざまな人との出会いを経てくるなかで、今後、組織や企業という枠組みを越えて熱量のある個人同士のつながりが価値になってくる時代が来ると西村は考えるようになった。生き方、働き方がシフトしている現代において、量子的な動きがこれからのイノベーションを生み出す種となるという。

「ニューヨークMoMAシニアキュレーターのパオラ・アントネッリが提唱した、既存概念では結び付けられなかったモノをつなげる『量子デザイン』という考え方は、領域を越境しふたつの物事とつなげる"IN BETWEEN"という概念と作品によって説明されていました。この考え方は、個人のキャリア構築にも通じる話です。いまや、個人がひとつの領域に留まるのではなく、異なる領域を越えながらも、揺るぎないエンパワーされた個人が原子核を飛び回る電子のように活発に活動すればするほど、その人自身の周囲に新たな熱量を持った人たちが集まってきます。それによって、個人がより活躍し、進化する環境が生まれてくるようになるはずです。そんな環境をデザインする仕事を目指しています」

自身も既存のキャリアプランでは結びつかない職種や企業を渡り歩いてきた。そのなかで大事にしてきたのは、自分自身の興味や知的好奇心に素直になり、行動していくことだった。

「HEART CATCH 2015」を立ち上げたのも、スタートアップにデザインとマーケティングの重要性を知ってもらい、いままでにはない新たな形のスタートアップ支援のあり方を模索したことで生まれた企画だ。

「ゼロから自身で立ち上げた企画。だからこそ企画に賭ける思いを伝えたことで、60名以上ものメンターがプロジェクトに参加してくれました。意思を持った60名が集まったこと、互いに思いを共有したことで、さまざまなプロジェクトが生まれるようになりました」

西村は次なる企画に向けて動き出している。企画の種は世の中に対するフラストレーションを見つけること。世の中にある課題だからこそ自身も熱量を持ちやすい。同時に問題意識を共有し、強い思いを持った個人がつながることで、領域を越えた新たな価値が生まれようとしている。

ミーハーであること、熱量を持った個人同士がつながること。西村のようにあらゆるものごとに純粋に真摯に向き合うシンプルな姿勢が、時に多くの人を動かす原動力となり、強固なビジネスネットワークが築き上げられるのだ。

「HEART CATCH 2015がきっかけとなり、NEDOのデザインフェローの依頼にもつながりました。わたしのようなミーハーがアカデミックな領域にもつながり始めてきたんです。今後はいままでにない新しい企業のあり方、新しい学校のあり方が模索していきたいですね」

文/江口晋太朗 撮影/小野田陽一

Step8

100万人が使う名刺アプリ「Eight」