HOME > 連載 > 麻倉怜士のまるごと好奇心 > 69回 B&W50周年にふさわしい最上位スピーカー「800 D3」(後編)
2016年11月30日/麻倉怜士
Bowers & Wilkins 800 Series Diamondの最高峰として、またブランド創立50周年記念モデルとして、ついにその全貌を現した800 D3。前回はその技術的な革新性について、ディーアンドエムホールディングスのシニアサウンドマネージャーの澤田龍一さんにお話をうかがったが、今回はその試聴編。川崎のマランツ試聴室で聴いた800 D3の音に、麻倉さんはどんな印象を持ったのか?(編集部)
麻倉 前回はB&Wの新たなフラッグシップスピーカー、800 D3についての概要、技術的な革新性について、澤田さんに詳しく教えていただきましたが、後半となる今回は試聴編として、いくつかの楽曲を再生してみました。
澤田 まずは802 D3を、その後に800 D3の音を聴いていただきました。SACD/CDプレーヤーには、以前採り上げていただいたマランツSA-10を用いています。いかがでしたか? だいぶ違うと思いますが。
麻倉 ええ。802 D3も充分に素晴らしいスピーカーですが、800 D3はやはり別格です。音楽が、あるべき位置から、あるべきスピードで、あるべき音色で、そしてあるべきソノリティで自然に鳴らされている。そしてボキャブラリーがひじょうに豊富です。加えて、無駄な音がまったくない。スピーカーそのもので何かしらのニュアンスを足すということがないんですね。まさに「何も足さず、何も引かず」で、とにかく見晴らしがいい。よく言われる表現だと「解像感がいい」ということになりますが、具体的には時間軸的な解像感、音場的な解像感が抜群です。
澤田 おっしゃる通りだと思います。
麻倉 SA-10を試聴した回(66回)と同じく、まずはクラシックを聴きました。サイモン・ラトルがベルリン・フィルを指揮した『ベートーヴェン:交響曲全集』(5CD+3BD)から聴いた「交響曲第2番」のCDです。
ベルリン・フィルハーモニーの客席は"B席"がベストシートとされているのですが、800 D3で聴くこの作品はまさにB席の、つまりステージに向かい、やや上の方から聴いているような雰囲気です。つまり、音場がひじょうに精密に描き出され、手を伸ばせば触れられそうなリアリティが感じられます。
また、第1ヴァイオリンが左、第2ヴァイオリンが右で、異なる旋律を対向配置で鳴らすのがこの演奏の特徴ですが、2つのヴァイオリンを両端として、その間に置かれたヴィオラやチェロの声部も音像として明瞭です。それらの音像が、音場の中でオーケストラとして合成され、豊かな音楽として提示される。モニタースピーカーとしてだけでなく、"音楽再生スピーカー"としてすごい実力です。
この「交響曲第2番」の冒頭わずか2分ほどの間に凝縮されているベルリン・フィルの楽団としての能力の高さ、表情づけやスピード感、抑揚感の豊富さがとてもよく伝わってきます。
澤田 パーヴォ・ヤルヴィがNHK交響楽団を指揮したSACDハイブリッド『R.シュトラウス:交響詩チクルス2』の「ドン・キホーテ」も聴いていただきました。
麻倉 「交響曲第2番」は無色透明な音場感がとても印象的でしたが、「ドン・キホーテ」の方では面白いことにサントリーホールならではの艶のある音場感がよく出ていました。これは802 D3では感じなかった部分です。リヒャルト・シュトラウスの作る楽曲のセクシーさ、弦の高音部の倍音などに表れる危うさなどを積極的に再現し、音楽の特徴を炙り出している。
この作品はオクタヴィアレコードの江崎友淑さんの録音によるもので、もともと音がとてもいいのですが、サントリーホール特有の空気の揺らぎをはっきりと感じることができました。
これは「ドン・キホーテ」で感じたことで、いっぽう同じディスクに収録される「ばらの騎士」では全合奏の躍動感や生命力を目一杯味わうことができた。個々の楽器のヴィヴィッドさが掛け算によって倍増したかのようなパワー感です。それでいてやはり見晴らしがよく、高い分解能で倍音の重層感がこのスピーカーは実に繊細に表現していることにも感心しました。
澤田 ありがとうございます。
麻倉 ホリー・コール・トリオ『Don't Smoke in Bed』のタイトル曲では、メモを見ると「音像から、音がほとばしる」と書いてありますね。そう感じさせるのは、細かな時間軸ごとのニュアンスの違いを正確に再現しているからでしょう。「このお姉さんは相当スゴいぞ」と思わせるに充分な再生です。無駄なくストレートに、なおかつ高品位に音楽のエッセンスを伝えてくれます。
ジェニファー・ウォーンズの『Shot Through The Heart』のタイトル曲では、イントロ部分のピアノがソからドへ移行する、いわゆるドミナントとトニックの関係をわかりやすく聴かせながら、分厚いコーラスとソリッドなヴォーカルの対比も美しい。
最初に話したように、あるべき位置から、あるべきスピードで、あるべき音色で、そしてあるべきソノリティで自然に鳴らされているスピーカーだと思います。できることなら持って帰りたいぐらい気に入りました(笑)。
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