国民向けの談話を発表する韓国の朴槿恵大統領=ソウルで29日、ロイター
【ソウル大貫智子】親友の国政介入事件で退陣要求が高まる韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が29日発表した3回目の談話に、国民の間では批判が相次いだ。早期退陣を明言し、国政混乱の収拾を図るべきなのに「野党に責任を押しつけた」などと否定的な反応が目立ったが、一部には任期途中で退陣する考えを初めて表明したことを評価する声も聞かれた。
週末ごとに朴氏の退陣要求集会が開かれているソウル中心部・光化門(クァンファムン)で喫茶店を経営する宋姫民(ソン・ヒミン)さん(45)は、集会に参加する多くの国民が即時退陣を求めていることを知っていた。それだけに、退陣の時期など具体的な言及がなかったことに「真摯(しんし)さが感じられない」と声を荒らげる。「時間稼ぎをせず、一日でも早く検察の捜査を受け、下野するのが最も良い選択だ」と話した。
「(11月4日の)2回目の談話と何か変わったことがあるのか?」。運転中に談話発表のニュースを見たタクシー運転手の金ジョンマンさん(68)は、具体的な退陣時期が明示されなかったことに失望感を隠さない。朴氏の父、故・朴正熙(パク・チョンヒ)大統領時代の高度経済成長を肌で実感し、2012年の大統領選では娘である朴氏に期待して投票した。
しかし、朴氏が民間人である崔順実(チェ・スンシル)被告に依存していたことに衝撃を受け、虚脱感に襲われている。金さんは「与野党に首相を選んでくれとお願いした時だって野党は選ばなかったじゃないか。今回もうまくいくはずがない」と突き放した。
朴氏を強く支持してきた会社員の呉東薫(オ・ドンフン)さん(55)は、朴氏がボールを国会に投げたとして「高度な政治的計算があるようだ」とみる。野党が集会などで一般市民に退陣を呼びかける運動をさせにくくする効果があったとし、「国民を無視した談話だ」と批判する。
ソウル市内の大学4年、田根植(チョン・グンシク)さん(26)は「質疑応答がなく、コミュニケーションをする意思がないようだ」と指摘。「実際には退陣しないのではないか」と不信感をあらわにした。
一方、朴氏を長年支持してきた高齢者は、多くを語らない。ソウル駅で仁川(インチョン)行きの電車を待っていたチャン・オクチャさん(75)は「今辞めたって次の候補者がいない。最後までやってほしかったね」と寂しそうに語る。「我々の世代は皆、朴大統領を手伝ってきた。朴大統領は信じられる人がいなかっただけ。崔順実(被告)が罰を受ければいいでしょう?」と朴氏に同情した。
また、朴氏の地元、大邱(テグ)の大学に通う金多賢(キム・タヒョン)さん(22)は、両親が朴氏を長年支持しており、裏切られた思いでいると聞かされているという。「こんなことが起きたことは韓国人として恥ずかしく、弾劾採決を前に仕方なく表明した感じもするが、辞めると言ったことは正しい選択だった」と評価した。