東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 私説・論説室から > 記事

ここから本文

【私説・論説室から】

無遅刻無欠勤のわけ

 父親に木刀で殴られた傷が今も頭に残る。

 両親は、柳優矢さん(22)が生まれる前に離婚した。母親はパート、内職、夜は飲食店と休みなく働き家計を支えるが、柳さんが小五の時に交通事故で亡くなった。父親とその再婚相手に引き取られる。そこで待っていたのは父親による暴力だった。ささいなことで殴る、蹴る。何度か骨折もした。

 高一の時に父親に突然、家を追い出される。母方の祖父母の家に行くが、祖父母とも反りが合わない。生活が荒れ始め、家出や万引を繰り返すようになった。少年院に入ったのは十九歳の時だ。金に困り、保護観察中に万引した本を転売したことがばれた。

 身元引受人がいなければ少年院を出られないが、祖父母は引き受けを拒否した。そんな時に出会ったのが、少年院や刑務所を出た人の社会復帰を支える「職親(しょくしん)プロジェクト」に参加する建設会社、セリエコーポレーション(神奈川県)の岡本昌宏社長(41)だった。

 柳さんは出院後、同社に入りとび職人になる。早朝に現場に出かけ、高く組まれた足場での肉体労働につらいと思いながら、無遅刻無欠勤を続けた。そのうちできることが増え、仕事も楽しくなってきた。

 将来の夢は、独立して岡本さんのように社長になり、自分と同じようなつらい経験をした子どもたちを雇うことだ。「それが岡本さんへの恩返しになる」と言う。(上坂修子)

 

この記事を印刷する

PR情報